インドネシアの労務管理について
2014年5月
インドネシアの労働法制[1]は、日本以上に労働者の保護に手厚く、特に以下の点に特色がある。
(あ)雇用関係を終了するには原則として労働裁判所の決定が必要とされている。
(い)退職金の支払義務が金額も含めて法定されており、懲戒解雇であっても退職金の支払義務が生じうる。
したがって、使用者・労働者間関係の終了の局面を想定して、適切な契約形態を選択し、雇用契約等に必要な条項を盛り込む等の事前の対策を採っておくことが重要になると思われる。本項では、この点に特に関連するⅠ契約形態、Ⅱ雇用の終了についてまず検討し、その後、Ⅲ労働条件、Ⅳ労働協約と就業規則、Ⅴ労使間の紛争解決方法について検討する。
- Ⅰ 契約形態
- (1) 期間の定めのない雇用契約
- (2) 期間の定めのある雇用契約
- 1. 一度で終了する業務又は性質上一時的な業務
- 2. 終了までの見込期間が3年以内である業務
- 3. 季節的な業務又は注文や特定のターゲットを満たすために行われる業務
- 4. 新製品、新規の活動又は試験・開発段階にある補助的な製品に関する業務
- (3) 日雇契約 日雇契約は、業務の期間・量が不規則に変動し、かつ賃金が勤怠に基づいて定められる業務について締結することができる[18]。また、この形態を利用するためには、勤務日数が1ヶ月に21日未満でなければならず、1ヶ月に21日以上3ヶ月連続で勤務させた場合には、期間の定めのない雇用契約とみなされる [19]。
- (4) 業務請負契約及び人材派遣契約
- (5) 実習契約
- Ⅱ 雇用関係の終了
- 1 手続
- 2 終了事由
- (A)労使紛争解決機関からの決定を得る必要がある終了事由
- 事前の警告書の発行[45]が追加的な要件とされている。
- (B)労使紛争解決機関からの決定を得る必要のない終了事由
- 3 退職金の支払
- 4 警告手続
- Ⅲ 労働条件
- 1 賃金
- 2 労働時間・有給休暇
- 週6日勤務の場合:1日7時間かつ週40時間以内
- 週5日勤務の場合:1日8時間かつ週40時間以内
- Ⅳ 労働協約と就業規則
- 1 労働協約
- 2 就業規則
- Ⅴ 労使間の紛争解決方法
インドネシアにおいて、使用者が労働者を直接雇用する契約の形態としては、(1)期間の定めのない雇用契約、(2)期間の定めのある雇用契約、及び(3)日雇契約の3種類が存在する。この契約形態の違いは、退職金の支払義務の有無、試用期間の設定の可否及び雇用契約書作成の要否[2]に影響する。他方で、使用者が労働者を直接雇用しない契約の形態として、(4)業務請負契約及び人材派遣契約がある。これらに加えて、職業訓練制度[3]を利用して、雇用契約とは異なる(5)実習契約[4]を締結する選択肢も存在している。(1)は、業務の範囲に限定はないが、前述の労働者保護規制(あ)(い)の適用がある。これに対し、(2)(3)(4)(5)の場合原則として(あ)(い)を回避しうるが、(2)(3)(4)は業務の範囲が限定的であり、(5)は制度的な制約及び様々な手続を経る必要がある。以下、順に検討する。
期間の定めのない雇用契約の締結は、契約書を作成せず口頭で行うことができるが[5]、口頭で締結する場合には、以下の事項を記載した採用通知を作成しなければならない[6]。①労働者の氏名及び住所、②就労開始日、③業務内容、及び④賃金の額。
期間の定めのない雇用契約を締結した場合、最長3ヶ月間の試用期間を定めることができる[7]。また、期間の定めのない雇用契約を終了する場合に、退職手当・勤続功労金・権利保証金等の退職金の支払義務が発生する[8]。
期間の定めのある雇用契約とは、一定の期間又は特定の業務が完了するまで間、雇用が継続する形態の雇用契約である[9]。期間の定めのある雇用契約は、インドネシア語で記載された書面により締結しなければならず[10]、署名後7営業日以内に労働移住省で登録をしなければならない [11]。期間の定めのある雇用契約は、仕事の種類・性質上特定の期間内に完了する以下のいずれかの業務に限り締結することができる[12]。
契約期間は最長2年であるが、その後1回に限り最長1年の期間の延長が可能である[13]。加えて、この期間終了後に、30日以上の期間をおいて、最長2年の契約更新が1回に限り可能である[14]。これらの期間制限に違反した場合、期間の定めのない契約とみなされる[15]。
期間の定めのない雇用契約については、試用期間を定めることができない[16]。また、退職金の支払義務は法定されていないが、雇用契約に定められた期間満了前に雇用関係を終了した場合、終了した側の当事者は、残存期間の賃金相当分の損害賠償をしなければならない [17]。
日雇契約は、原則として書面による必要があるが[20]、該当する労働者のリストを作成することによって契約書に代えることが可能である[21]。
日雇契約については、試用期間を定めることができる旨の規定はない一方で、退職金の支払いを義務付ける規定も存在していない。
外部の業者と業務請負契約又は人材派遣契約を書面で締結することにより、使用者は、特定の業務を外部に委託することができ[22]、この場合、当該会社は、当該特定の業務に関する労働者と雇用契約を締結する必要はない。これらの契約形態において対象としうる業務は、以下の要件を全て満たしている必要がある [23]。①主要な業務と切り離されており、②業務の委託元による直接又は間接の指示に従い実施され、③補助的な業務であり、④委託業務が停止した場合でも委託元企業の生産工程に直接的な悪影響を与えない。
業務請負契約に関しては、上記要件③について、各業界団体が作成する業務実施工程フローにおいて補助的な業務とされている業務についてのみ委託することができる[24]。
人材派遣契約に関しては、可能な業務が、以下の5つに限定されている[25]。aクリーニングサービス業務、b労働者用のケータリングサービス業務、c警備員業務、d鉱業・石油業の補助的サービス業務、及びe労働者用の輸送サービス業務。
労働法上定められた職業訓練は、実習制度を通じて実施することができる[26]。かかる実習には、現場での実働が含まれるが、あくまでの職業能力の取得・向上・開発のための職業訓練制度の一つの実施形態であることに留意が必要である [27]。
実習の実施機関は、以下を備えている必要がある[28]。①実習プログラム、②施設及び設備、③実習を実施・監督する人員、及び④資金。実習プログラムは、県又は市の労働当局の承認を受けなければならず[29]、また、実習プログラムに定める実習期間は原則最大1年間とされている[30]。
実習は、使用者及び実習生の権利義務及び職業訓練の期間が記載された実習契約書に基づき実施しなければならない[31]。実習契約書は、5営業日以内に当局の承認を得なければならない [32]。
実習生は、以下を享受する権利を有する[33]。①実習中安全な設備を利用、②手当・通勤手当、③事故の補償、及び④終了時の実習修了証。実施機関は、以下の権利を有する[34]。①実習生の作業の利用、及び②規律及び実習契約に従うよう求めること。
その他、詳細な手続が国内実習に関する大臣規則において定められているが、これに従った職業訓練の実習生は、労働法上の労働者ではないため、原則として、雇用契約の終了に関する規制の適用はなく、業務範囲についての制限も少ない。
雇用関係を終了させるためには、使用者は、まず、雇用関係の終了を回避するための配置転換・経費削減・会社再編等のあらゆる努力を払わなければならない[35]。それでも雇用関係の終了が不可避である場合、使用者は、労働組合との間(対象となる労働者が労働組合員でない場合は、当該労働者)と協議[36]を行わなければならない[37]。かかる協議で合意に達した場合、当該合意に基づき雇用契約を終了させることができる[38]。かかる協議で合意に達しなかった場合、使用者は、原則として労使紛争解決機関からの決定を得た場合に限り、労働者との間の雇用関係を終了させることができる[39] [40]。ただし、雇用関係の終了に当たっては、終了事由に応じて、退職金の支払義務が発生しうる。
法定されている雇用契約の終了事由は、(A)労使紛争解決機関からの決定を得る必要がある終了事由と(B)得る必要のない終了事由に分けることができる[41]。
(A1)犯罪となりうる重大な非行[42]
(A2)書面での説明を欠いた5日連続の無断欠勤[43]
(A3)労働契約、就業規則又は労働協約の違反[44]
(A4)会社の組織変更、合併又は株主の変更[46]
(A5)いわゆる整理解雇
(B1)試用期間中で、試験雇用について事前に書面で規定がされている場合[50]
(B2)期間を定めた雇用契約の期間が満了した場合[51]
(B3)当該労働者から自発的な辞職願の提出があった場合[52]
(B4)当該労働者が、刑事裁判手続により6ヶ月を超えて業務を行えなかった場合[53]
(B5)当該労働者が、有罪判決を受けた場合[54]
(B6)当該労働者の死亡[55]
(B7)当該労働者が定年に達した[56]
(B8)使用者による虐待等を理由に労働者が雇用関係の終了を申請した場合[57]
また、終了手続の1つである労使間の協議において成立した合意に基づき雇用関係を終了する場合にも、労使紛争解決機関の決定を得る必要はない。
インドネシアにおいて雇用関係が終了した場合に支払いが必要となる退職金としては、①退職手当、②勤続功労金、③権利補償金、及び④送別金がある。
退職手当及び勤続功労金は、基本給と固定手当の合計額をベースとして勤続年数に応じてその額が決まる [58]。それぞれの具体的金額は、以下のとおりである。
勤続年数 |
退職手当 |
勤続功労金 |
---|---|---|
1年未満 |
賃金の1か月分 |
支払不要 |
1年以上 ~2年未満 |
賃金の2か月分 |
|
2年以上 ~3年未満 |
賃金の3か月分 |
|
3年以上 ~4年未満 |
賃金の4か月分 |
賃金の2か月分 |
4年以上 ~5年未満 |
賃金の5か月分 |
|
5年以上 ~6年未満 |
賃金の6か月分 |
|
6年以上 ~7年未満 |
賃金の7か月分 |
賃金の3か月分 |
7年以上 ~8年未満 |
賃金の8か月分 |
|
8年以上 ~9年未満 |
賃金の9か月分 |
|
9年以上 ~12年未満 |
賃金の4か月分 |
|
12年以上~15年未満 |
賃金の5か月分 |
|
15年以上~18年未満 |
賃金の6か月分 |
|
18年以上~21年未満 |
賃金の7か月分 |
|
21年以上~24年未満 |
賃金の8か月分 |
|
24年以上 |
賃金の10か月分 |
権利補償金は、未消化の年次有給休暇、労働者・その家族の帰省費用、退職手当・勤続功労金の15%及び雇用契約・就業規則・労働協約で定められた額から構成される[59]。
退職手当、勤続功労金及び権利補償金の支払義務の有無を、上記Ⅱ2で検討した雇用契約の終了事由ごとに整理したものが、以下の表である。
終了事由 |
退職手当 |
勤続功労金 |
権利補償金 |
||
---|---|---|---|---|---|
A 労使紛争解決機関の決定必要 |
(1)犯罪となりうる重大な非行 |
X |
X |
〇 |
|
(2)5日連続の無断欠勤 |
X |
X |
〇 |
||
(3)労働契約、就業規則又は労働協約の違反 |
〇 |
〇 |
〇 |
||
(4)会社の組織変更、合併又は株主の変更 |
〇(使用者の希望による場合は2倍) |
〇 |
〇 |
||
(5)いわゆる整理解雇 |
〇(合理化目的を理由とする場合は2倍) |
〇 |
〇 |
||
B 労使紛争解決機関の決定不要 |
(1)試用期間中の終了 |
X |
X |
X |
|
(2)期間を定めた雇用契約の期間満了 |
X |
X |
X |
||
(3)自発的な辞職願の提出 |
X |
X |
〇 |
||
(4)刑事裁判手続により6ヶ月を超えて業務を行えなかった場合 |
X |
〇 |
〇 |
||
(5)有罪判決を受けた |
X |
〇 |
〇 |
||
(6)死亡 |
2倍 |
〇 |
〇 |
||
(7)定年 |
年金未加入 |
2倍 |
〇 |
〇 |
|
年金加入 |
X |
X |
〇 |
||
(8)使用者による虐待等を理由に労働者が雇用関係の終了を申請した |
違反行為が認められた場合 |
2倍 |
〇 |
〇 |
|
違反行為が認められなかった場合 |
X |
X |
判決による |
〇:支払義務あり。なお、法定の金額の2倍の支払いが求められる場合には、その旨注記した。
X:支払義務の規定なし。
送別金は、終了事由が、(A1)犯罪となりうる重大な非行、(A2)5日間連続の無断欠勤、又は(B3)自発的な辞職願の提出の場合で、かつ就業規則・雇用契約・労働協約に定めがある場合に限り支払義務が生ずる。
労働契約、就業規則又は労働協約の違反とする解雇(いわゆる整理解雇)を行うためには、違反行為を行った当該労働者に対して事前に警告を与えておく必要がある[60]。懲戒解雇に必要な警告の原則的な手続は、以下のとおりである[61]。
1回目の違反行為がなされた場合、これに対応する第一警告書を与える必要がある。警告書の有効期間は6ヶ月である [62]。この有効期間内に2回目の再度違反行為が行われた場合、当該労働者に対して第二警告書を発することができる。この有効期間内にさらに違反行為が行われた場合、使用者は第三最終警告書を発することができる。この最終警告書の有効期間内にさらに違反行為が行われた場合、使用者は、当該労働者を、労働契約、就業規則又は労働協約の違反を理由に解雇することができる[63]。
これに対し、上記で与えた警告書のいずれかの有効期間の満了までに違反行為が行われなかった場合には、その後の違反行為については、1回目の違反行為として取り扱う必要がある。
上記の原則的な手続に加えて、労働協約、就業規則又は雇用契約において、一定の重大な違反行為については、第一最終警告書を発行することができる旨を定めることができる[64]。この場合、当該違反行為が行われて、第一最終警告書が発行され、その有効期間内に定められた重大な違反行為が行われた場合には、当該労働者を懲戒解雇することができる[65]。
賃金は、一般に基本給、固定手当[66]、変動手当及び時間外手当等の各種手当から構成される。このうち基本給及び固定手当は退職金等の計算の基礎とされる[67]ことから、実務上変動手当の形式での支給を優先するケースが少なくない。
最低賃金は、労働法上保障されており、これを下回る雇用契約・労働協約・就業規則上の合意は無効とされる[68]。
時間外手当については、固定給1ヵ月分を173で割った額を時間給として、時間外労働の最初の1時間についてはその1.5倍、それ以降は2倍、休日出勤の場合には2倍から4倍の額を支払う必要がある [69]。
宗教祭日手当については、3ヶ月以上勤務している労働者に対して、一年に一度、宗教祭日の少なくとも7日前までに、支払う必要がある[70]。
法定労働時間は、原則として、以下のとおりである[71]。
かかる法定労働時間を超えて労働をさせる場合には、原則として①当該労働者がかかる残業に合意し、かつ②残業時間が1日3時間かつ週14時間を超えないことが必要である[72]。
休憩時間は、連続して4時間労働した後に、少なくとも30分与える必要がある[73]。
年次有給休暇は、労働者が継続して12ヶ月勤務した場合には、最低12日与える必要がある[74]。
疾病休暇は、医師の診断書により証明された場合、取得することが認められる[75]。疾病休暇中に支払われる給与は、最初の4ヶ月間は賃金の100%、5~8ヶ月の間はその75%、9~12ヶ月の間はその50%、13ヶ月目以降はその25%である [76]。
生理休暇は、生理期間中に生理痛がある女性労働者に対し、生理期間の1日目・2日目について有給で与えられる[77]。また、出産休暇は、出産予定日の前後各1.5ヶ月について有給で与えられる[78]。
祈祷休暇は、労働者が宗教的義務に基づいて祈祷を実施する場合に、有給で付与しなければならない[79]。また、慶弔休暇として、結婚・親族の死亡等の場合、1~3日の有給休暇を付与する必要がある[80]。
なお、長期有給休暇は、6年継続して同一企業に勤務した労働者が、7年目及び8年目にそれぞれ1ヶ月の長期休暇を取得することができる制度であるが、雇用契約・就業規則・労働協約に定めない限り付与する必要はない [81]。
Ⅰで検討した雇用契約に加え、労働協約・就業規則の規定も、労使関係に法的な影響力を有する。以下、順に検討する。
労働協約は、労働組合と使用者の協議により作成される。労働協約には、以下の事項を定めなければならない [82]。①使用者の権利義務、②労働組合及び労働者の権利義務、③労働協約の施行日と有効期間、及び④労働協約を締結する当事者の署名。
労働協約を定めた場合、雇用契約との関係では、ⅰ個別の雇用契約において労働協約に反する事項を定めても当該部分は無効とされ労働協約に定められた当該規定が適用され[83]、ⅱ雇用契約において定めのない事項であっても労働協約に定められている場合には、労働協約の当該規定が適用される[84]。
労働協約は、これと異なる定めがない限り、双方が署名することにより成立する[85]。その後、労働移住省に労働協約を提出して登録を行う必要がある[86]。また、使用者は、自身の費用負担により締結した労働協約を印刷し、労働者全員に配布する必要がある [87]。
労働協約の有効期間は原則2年間であり[88]、使用者と労働者との書面による合意により、1年以内に限り延長することができる[89]。
10人以上の労働者を雇用する使用者は、就業規則を作成する義務を負う[90]。ただし、既に労働協約を締結している使用者は、就業規則の作成義務が免除される[91]。
就業規則には、以下の事項を定めなければならない[92]。①使用者の権利義務、②労働者の権利義務、③労働条件、④使用者の規律、及び⑤有効期間。
就業規則の作成に際しては、労働組合又は労働者代表の意見に留意して作成しなければならない[93]。作成した就業規則は、監督官庁へ提出しその承認を得なければならず、承認の時点で効力を生ずる[94]。使用者は、作成した就業規則を労働者に周知しなければならない[95]。
就業規則の有効期間は最長2年間であり、有効期間が経過した場合は更新をしなければならない[96]。
労使紛争は、まず、使用者と労働者又は労働組合の間の二者間協議によって、解決を図らなければならない[97]。協議については、その結論、当事者の署名等の法定事項を議事録に記載しておく必要がある[98]。当事者間で合意が得られた場合には、合意書を締結し、労働関係裁判所に登録をする必要がある[99]。かかる協議は30営業日以内に終了しなければならず、その期間内にいずれか一方が協議を拒否し又は合意に達しない場合には、協議は不調に終わったものとみなされる[100]。
労使間の協議が不調に終わった場合、紛争解決のための協議がなされた旨の証明書とともに、労働移住省に対して紛争の登録を行う[101]。登録の後、労働移住省は、当事者に対して、調停・仲裁のいずれによる解決をするか選択を促す提案をする[102]。当該紛争は、当事者の選択に従い、斡旋、調停、又は仲裁へ移行するが、両当事者が提案に基づき調停・仲裁に移行する合意をしない場合、斡旋に移行する。
斡旋・調停・仲裁の手続は、30営業日以内に終了しなければならない。斡旋・調停において合意に達した場合には、書面を作成して労働関係裁判所に登録する[103]。合意に達しない場合、書面で勧告がなされる[104]。かかる提案を当事者が受け入れない場合、当事者は、労働関係裁判所に訴訟を提起することができる[105]。これに対し、仲裁においては、仲裁人が下す仲裁判断は当事者を終局的に拘束するため[106]、その後当事者は原則として労働関係裁判所に提訴することはできず、重要証拠の故意による隠蔽等の重大な破棄事由がある場合に限り、最高裁判所にその取消しを申し立てることができる[107]。
労働関係裁判所は、斡旋又は調停により解決しない労使紛争について審理をして裁定を下す裁判所である。労働裁判所は、初回期日から50営業日内に裁定を下さなければならない[108]。利益に関する紛争、労働組合間の紛争は、労働関係裁判所が最終審となる[109]。
最高裁判所に上訴できるのは、権利に関する紛争及び雇用関係の終了に関する紛争である。最高裁判所は、上訴受理から30営業日以内に裁定を下さなければならない[110]。
以上
[1] インドネシアの労働法制を構成する法令は多岐にわたるが、本稿において引用した法令は以下のとおりである。
<本稿全体にわたる労働に関する基本法規>
・労働に関する法律2003年第13号(以下「労働法」という。)
UNDANG-UNDANG REPUBLIK INDONESIA NOMOR 13 TAHUN 2003 TENTANG KETENAGAKERJAAN
<Ⅰ契約形態>
・有期雇用契約の条件に関する労働移住大臣決定2004年第100号(以下「有期雇用契約に関する大臣決定」という。)
KEPUTUSAN MENTERI TENAGA KERJA DAN TRANSMIGRASI REPUBLIK INDONESIA NOMOR KEP.100/MEN/VI/2004 TENTANG KETENTUAN PELAKSANAAN PERJANJIAN KERJA WAKTU
TERTENTU
・他社への一部業務委託の条件に関する労働移住大臣規則2012年第19号(以下「業務の外部委託に関する大臣規則」という。)
PERATURAN MENTERI TENAGA KERJA DAN TRANSMIGRASI REPUBLIK INDONESIA NOMOR 19 TAHUN 2012 TENTANG SYARAT-SYARAT PENYERAHAN SEBAGIAN PELAKSANAAN PEKERJAAN KEPADA PERUSAHAAN LAIN
・国内における実習の実施に関する労働移住大臣規則2009年第22号(以下「国内実習に関する大臣規則」という。)
PERATURAN MENTERI TENAGA KERJA DAN TRANSMIGRASI REPUBLIK INDONESIA NOMOR PER.22/MEN/IX/2009 TENTANG PENYELENGGARAAN PEMAGANGAN DI DALAM NEGERI
<Ⅲ労働条件>
・時間外労働及び時間外労働手当に関する労働移住大臣決定2004年第102号(以下「時間外労働等に関する大臣決定」という。)
KEPUTUSAN MENTERI TENAGA KERJA DAN TRANSMIGRASI REPUBLIK INDONESIA NOMOR KEP.102/MEN/VI/2004 TENTANG WAKTU KERJA LEMBUR DAN UPAH KERJA LEMBUR
・宗教祭日手当に関する労働大臣規則1994年第4号(以下「宗教祭日手当に関する大臣規則」という。)
PERATURAN MENTERI TENAGA KERJA REPUBLIK INDONESIA NOMOR PER-04/MEN/1994 TENTANG TUNJANGAN HARI RAYA KEAGAMAAN BAGI PEKERJA DI PERUSAHAAN
<Ⅴ労使間の紛争解決方法>
・労使関係紛争調停に関する法律2004年第2号(以下「労使紛争解決法」という。)
UNDANG-UNDANG REPUBLIK INDONESIA NOMOR 2 TAHUN 2004 TENTANG PENYELESAIAN PERSELISIHAN HUBUNGAN INDUSTRIAL
[2] なお、雇用契約書がインドネシア語と外国語で作成された場合、その解釈に齟齬がある場合には、インドネシア語版が優先するので注意が必要である(労働法第57条第3項)。
[3] インドネシア語でpelatihan kerja。労働法第9条~第30条に規定がある。
[4] インドネシア語でperjanjian pemagangan。労働法第21条以下に規定がある。
[5] 労働法第51条第1項。
[6] 労働法第63条第1項及び第2項。
[7] 労働法第60条第1項。ただし、試用期間中であっても、賃金の額を、政府が定める最低賃金水準を下回る額にすることはできない(同条第2項)。
[8] 労働法第156条第1項。なお、退職金については、本項Ⅱ3に詳述した。
[9] 労働法第56条第2項。
[10] 労働法第57条第1項。これに違反した場合、期間の定めのない雇用契約とみなされる(労働法第57条第2項)。
[11] 有期雇用契約に関する大臣決定第13条。
[12] 労働法第59条第1項及び有期雇用契約に関する大臣決定第3条~第9条。なお、性質上恒久的な業務については、期間の定めのある雇用契約を締結することはできないものとされている(労働法第59条第2項)。
[13] 労働法第59条第4項。
[14] 労働法第59条第6項。ただし、3.季節的な業務、注文や特定のターゲットを満たすために行われる業務、及び4.新製品、新規の活動又は試験・開発段階にある補助的な製品に関する業務については、更新を行うことができない(有期雇用契約に関する大臣決定第7条及び第8条第3項)。
[15] 労働法第59条第7項。
[16] 労働法第58条。
[17] 労働法第62条。
[18] 有期雇用契約に関する大臣決定第10条第1項。
[19] 有期雇用契約に関する大臣決定第10条第2条及び第3項。
[20] 有期雇用契約に関する大臣決定第12条第1項。
[21] 有期雇用契約に関する大臣決定第12条第2項。
[22] 労働法第64条。
[23] 労働法第65条第2項
[24] 業務の外部委託に関する大臣規則第3条第2項第c号。
[25] 業務の外部委託に関する大臣規則第17条第3項。
[26] 労働法第21条。
[27] なお、一定の要件を満たした実習は、インドネシアの国外でも行うことができる(労働法第24条)。
[28] 国内実習に関する大臣規則第6条。
[29] 国内実習に関する大臣規則第7条第6項。
[30] 国内実習に関する大臣規則第7条第4項。
[31] 労働法第22条第1項及び第2項。かかる実習契約書に基づかない実習は違法であり、当該実習生は法的には労働者として扱われる(同条第3項)。
[32] 国内実習に関する大臣規則第12条第1項。
[33] 国内実習に関する大臣規則第15条第1項。
[34] 国内実習に関する大臣規則第15条第2項。
[35] 労働法第151条第1項及び同条同項注釈。
[36] 協議の期間は、30営業日以内とされ(労使紛争解決法第3条第2項)、この間に合意に達しなかった場合には、協議は失敗したものとみなされる(同条第3項)。
[37] 労働法第151条第2項。
[38] この場合、合意書を締結し、これを労働関係裁判所に登録をする必要がある(労使紛争解決法第7条第1項及び第3項)。
[39] 労働法第151条第3項。
[40] ただし、以下の事由に基づく解雇は禁止されており、これに違反した場合、当該解雇は無効とされ、使用者は当該労働者を再雇用しなければならないので注意が必要である(労働法第153条第1項及び第2項)。
•12ヶ月を超えない間の医師の診断書に基づく疾病により出勤できない場合
•法令上の国に対する義務を果たすために出勤できない場合
•宗教上の義務を果たすために出勤できない場合
•結婚のため出勤できない場合
•妊娠、出産、流産又は授乳のために出勤できない場合
•社内の労働者との間で血縁関係又は婚姻関係を有する場合(労働協約又は就業規則で規定されている場合を除く)
•労働組合を結成する場合、組合員等になる場合、又は労働時間外若しくは使用者の許可を得て労働時間内において又は雇用契約・就業規則・労働協約に従って組合活動を行う場合
•使用者の犯罪行為については捜査機関に通報した場合
•当該労働者の信念、宗教、政治的信条、民族、肌の色、人種、性別、身体の状態又は婚姻の有無を理由とする場合
•労働災害により回復不能な身体障害若しくは疾病を患っている場合、又は業務関連の疾患で回復に要する期間が不確定であることが医師の診断書により証明されている場合
[41] 能力不足・職務懈怠等これらの法定事由以外に基づいて雇用契約を終了することは実際上困難であると思われる。ただし、能力不足・職務懈怠を懲戒事由として予め就業規則・労働協約・雇用契約において規定しておくことで、(A3)の法定事由とすることができる。
[42] 労働法第158条第1項。
[43] 労働法第168条第1項。
[44] 労働法第161条第1項。
[45] 警告書については、本項Ⅱ4を参照されたい。
[46] 労働法第163条第1項。
[47] 労働法第164条第1項。
[48] 労働法第164条第3項。
[49] 労働法第165条。
[50] 労働法第154条第a号。
[51] 労働法第154条第b号後段。
[52] 労働法第154条第b号前段。
[53] 労働法第160条第3項。
[54] 労働法第160条第5項。
[55] 労働法第154条第d号。
[56] 労働法第154条第c号。
[57] 労働法第169条第1項及び第3項。
[58] 労働法第156条第2項及び第3項並びに第157条第1項。なお、基本給・固定手当については、本稿Ⅲ1を参照されたい。
[59] 労働法第156条第4項。
[60] 労働法第161条。
[61] 労働法第161条第2項注釈。
[62] 労働法第161条第2項。
[63] なお、本稿Ⅱ3のとおり、インドネシアにおいては、懲戒解雇であっても、退職金の支払い及び労使紛争解決機関からの決定を得る必要がある点には注意が必要である。
[64] 労働法161条第2項注釈。
[65] 労働法第161条第1項。なお、あらゆる事由について第一最終警告書対象行為とした場合、労働協約、就業規則又は雇用契約を労働移住省へ提出する際に、登録・承認が認められない場合がありうるため注意が必要である。
[66] 固定手当とは、労働者の出勤率・業績等に関係なく、毎月一定額支給されるものをいう(労働法第94条注釈)。
[67] 労働法第157条第1項。以下、基本給及び固定手当を合わせて「固定給」という。
[68] 労働法第91条第2項。
[69] 時間外労働等に関する大臣決定2004年第102号第8条及び第11条。
[70] 宗教祭日手当に関する大臣規則第2条、第3条及び第4条。なお、賞与については、労働法上定めがないため、労働協約・雇用契約・就業規則に定めがない限り、使用者に支払義務は生じない。
[71] 労働法第77条第2項。
[72] 労働法第78条第1項。
[73] 労働法第79条第2項第a号。
[74] 労働法第79条第2項第c号。
[75] 労働法第93条第2項第a号。
[76] 労働法第93条第3項。
[77] 労働法第81条第1項及び第93条第2項第b号。
[78] 労働法第82条及び第84条。
[79] 労働法第80条及び第93条第2項第e号。
[80] 労働法第93条第2項第c号及び第4項。
[81] 労働法第79条第2項第d号及び第3項。
[82] 労働法第124条第1項。
[83] 労働法第127条第2項。
[84] 労働法第128条。
[85] 労働法第132条第1項。
[86] 労働法第132条第2条。
[87] 労働法第126条第3項。
[88] 労働法第123条第1項。
[89] 労働法第123条第2項。
[90] 労働法第108条第1項。
[91] 労働法第108条第2項。
[92] 労働法第111条第1項。
[93] 労働法第110条。ただし、意見を採用する義務までは規定されていない。
[94] 労働法第108条第1項。
[95] 労働法第114条。
[96] 労働法第111条第3項。
[97] 労使紛争解決法第3条第1項。
[98] 労使紛争解決法第6条第1項及び第2項。
[99] 労使紛争解決法第7条第3項。
[100] 労使紛争解決法第3項第2項及び第3項。
[101] 労使紛争解決法第4条第1項。
[102] 労使紛争解決法第4条第3項。
[103] 労使紛争解決法第13条第1項及び第23条第1項。
[104] 労使紛争解決法第13項第2項及び第23条第2項。
[105] 労使紛争解決法第14条第1項及び第24条第1項。
[106] 労使紛争解決法第51条第1項。
[107] 労使紛争解決法第52条第1項。
[108] 労使紛争解決法第103条。
[109] 労使紛争解決法第109条。
[110] 労使紛争解決法第115条。