インド 知的財産権

  1. 1. インドにおける知的財産関連法規
  2.  インドにおける主な知的財産権関連法規は、以下のとおりである。

    • 1970年インド特許法(Patents Act, 1970)
    • 2000年インド意匠法(Designs Act, 2000
    • 1999年インド商標法(Trade Marks Act, 1999)
    • 1957年インド著作権法(Copyright Act, 1957)
    • 1999年インド商品の地理的表示(登録及び保護)法(Geographical Indications of Goods (Registration and Protection) Act, 1999)
    • 2000年インド半導体集積回路配置法(Semi-conductor Integrated Circuits Layout-Designs Act,2000)

    なお、インドには日本のような実用新案制度は存在しない。

  3. 2. 特許
    1. (1) 沿革・現行法制
    2. インドは、TRIPS協定、パリ条約、PCT(特許協力条約)、ブダペスト条約の加盟国であり、1970年インド特許法についてもこれらの条約に適合するように適宜改正されてきた。特に2005年改正においては物質特許が法的に認められるようになり、インド特許法は、TRIPS協定に準拠した法律になったとされている。

    3. (2) 特許の対象
      1. (a) 一般的要件
      2. インド特許法において「特許」とは、同法に基づいて発明に対して付与される特許を意味すると定義されており(第2条1項 (m))、また「発明」とは、進歩性を含み、かつ産業上利用可能な新規の製品又は方法を意味するものと定義されている(第2条1項 (j))。したがって、特許が認められる要件は、①新規性、②進歩性、及び③産業上の利用可能性が必要となる

      3. (b) 例外(特許されない発明)
      4. インド特許法は、特許の対象が上記の一般的要件を充たしている場合であっても特許が認められない事項を以下のとおり規定している(法第3条及び4条)。

        1. (i) 法第3条の主な列挙事由
          • 取るに足らない発明、又は自然法則に明らかに反する事項を主張する発明
          • 当該発明の主たる用途、意図された用途、又は商業的な実施が公序良俗に反する発明、もしくは人、動物、植物の生命・健康に対し、又は環境に対し深刻な害悪を発生させる発明
          • 科学的原理の単なる発見、抽象的理論の形成、又は現存する生物・物質の発見
          • 既知の物質の既知の効能の増大という結果をもたらさない既知の物質の新たな形態の単なる発見、又は既知の物質の新たな特性・用途の単なる発見
          • 単に物質の成分の諸性質の集合という結果をもたらすのみの単なる混合によって得られる物質、又はそのような物質の製造過程
          • 既知の方法によって各々が相互に独立して機能する既知の装置の単なる配置、再配置、又は複製
          • 農業又は園芸の方法
          • 数学的方法、ビジネスの方法、コンピュータ・プログラムそれ自体、又はアルゴリズム
          • 映画作品及びテレビ制作物を含む文学作品、演劇作品、音楽作品、芸術作品等
          • 情報の表示
          • 集積回路の回路配置
        2. (ii) 法第4条
        3. 法第4条は、1962年インド原子力法(Atomic Energy Act, 1962)第20 条1項に該当する原子力に関する発明について特許を付与しない旨を規定している。

    4. (3) 特許出願
      1. (a) 特許出願権者(法第6条)
      2. インド特許法は、以下の者に特許出願権を認めている。

        1. ① 当該発明の真正かつ最初の発明者である旨を主張する者
        2. ② 当該出願権に関し、真正かつ最初の発明者である旨を主張する者からの譲受人
        3. ③ 死亡直前に当該出願権を有していた個人の法定代理人
      3. (b) 一発明一出願(単一性)の原則
      4. 特許の出願については、出願ごとに一つの発明に限られる(法第7条1項)

      5. (c) 出願書類
      6. 特許の出願においては、法及び規則に定められた様式により、所定の書類の提出と共に行わなければならない。以下主な出願書類について説明する。

        1. (i) 出願権の証拠
        2. 出願が当該発明に関する特許出願権の譲渡によってなされる場合、出願時又は出願後所定の期間に、その出願権の証拠を提出しなければならない(法第7条2項)。

        3. (ii) 仮明細書及び完全明細書
        4. 特許の出願に際し、必ず仮明細書又は完全明細書を添付しなければならない。仮明細書は、完全明細書のように厳格な記載要件を充たさなくともこれを提出すれば、提出後に先行技術が判明した場合、その提出日をもって優先日とすることができる。なお、仮明細書を提出した場合、その出願日から12ヶ月以内に完全明細書を提出しなければならず、完全明細書を提出しない場合、当該出願は放棄されたものと見做される(法第9条1項)

        5. (iii) 外国出願に関する陳述書及び誓約書
        6. インド特許法に基づく出願人が、インド以外の国において、同一又は実質的に同一の発明について外国出願している場合、出願時から6ヶ月以内に①当該外国出願の明細事項を記載した陳述書(法第8条1項(a))、及び②当該外国出願の明細事項をインドにおける当該特許付与日まで長官に随時通知し続ける旨の誓約書(法第8条1項 (b))を提出しなければならない。長官が当該外国出願の明細事項の提出を要求した場合、その要求があった時から6ヶ月以内に、出願人は入手可能な情報を提出しなければならない(法8条2項)。

      7. (d) 条約に基づく出願
      8. 前述のとおり、インドもパリ条約及びPCT(特許協力条約)の加盟国であるので、これらの条約に基づく出願も認められている。

    5. (4) 出願後の手続き
      1. (a) 公開
        1. (i) 出願の公開
        2. 特許出願は、原則としてその出願日又は優先日のいずれか早い日から18ヶ月間は公開されず、この期間満了日から1ヶ月以内に公報への掲載という形で公開される(法11A条、143条、規則第24条)。

        3. (ii) 早期公開請求
        4. 出願人は、上記の期間(18ヶ月)満了前に、長官に対してその出願を公開するように請求することができる。インド特許法においては、特許出願の公開日以降から特許付与日までの間、出願人には当該発明の特許が出願の公開日に付与されたものとしての権利(権利侵害に関する権利を除く)が認められること(法第11A条7項)、及び出願公開はその後の実体審査請求(法11B条)の前提要件となっているため、出願公開の時期を早めることは、早期の権利保護に資するものである。

      2. (b) 審査
        1. (i) 審査請求
        2. 出願された特許は、出願日又は優先日のいずれか早い日から48ヶ月以内に、所定の方法により、出願人又は他の利害関係人が審査請求をしない限り審査されない(法第11B条1項、規則第24B条1項(i))。また、出願人又は他の利害関係人が上記期間内に特許出願の審査請求をしない場合、当該出願は出願人によって取り下げられたものとして取り扱われる(法第11B条4項)。

        3. (ii) 出願の審査
        4. 審査請求がなされた場合、その願書、明細書、及びその他の書類は、当該出願の公開日又は審査請求日のいずれか遅い日から1ヶ月以内に、長官により審査官に付託され審査が行われる(法第12条1項、規則第24B条2項(i))。

          付託を受けた審査官は、所定の事項について審査を行い、審査結果を付託から3ヶ月以内に長官に報告することとされている(法第12条2項、規則第24B条2項(ii))。報告を受けた長官は、その報告を1ヶ月以内に処理し(規則第24B条2項 (iii))、当該出願の公開日又は審査請求日のいずれか遅い日から6ヶ月以内に、最初の審査報告書が出願人に送付されなければならない(規則第24B条3項)。

        5. (iii) 補正
        6. 出願人は、本法によって出願人に求められるすべての要件を遵守しなければならず、その旨の異論についての最初の審査報告書が発せられた日から12ヶ月以内に必要な補正・答弁を行わなければならない。この期間に必要な補正等がなされなかった場合、当該出願は放棄されたとみなされる(法21条1項、規則第24B条4項)。

      3. (c) 特許の付与(法43条)
      4. 前述の審査(補正後も含む)の結果、特許出願が特許付与の状態にあると判断され、かつ①長官が本法による拒絶権を行使しなかった、又は②本法の規定違反が発見されなかった場合、特許権が付与され、特許付与日が登録簿に記録される。また当該特許が付与された事実は長官によって公告される。

    6. (5) 異議申立て
      1. (a) 特許付与前異議申立て
      2. 特許の出願が公開された後特許が付与されるまでの間、利害関係人は、法第25条1項各号に規定される異議事由がある場合のみ、書面により特許付与に対する異議を長官に申し立てることができる(法第25条1項)。審査の結果、特許出願を拒絶すべき、又は明細書の補正が必要であると認める場合、異議申立書の写しと共に出願人に通知される(規則第55条3項)。通知を受けた出願人は、通知日から3ヶ月以内に、陳述書及び証拠を提出することできる(規則第55条4項)。出願人から提出された陳述書及び証拠を審査し、必要に応じて特許付与の拒絶又は明細書の補正すべき旨を命ずることができる(規則第55条5項)。申立人から聴聞の請求がある場合はこれを聴聞し、所定の期間内に当該異議申立てを拒絶して特許を付与するか、又は当該異議申立てを認めて特許付与を拒絶しなければならない(法第25条1項但書、規則第55条6項)。

      3. (b) 特許付与後異議申立て
      4. 特許付与の公告日から1年間の満了前の間、利害関係人は、法第25条2項各号に規定される異議事由がある場合のみ、書面により異議を長官に申し立てることができる(法第25条2項)。異議申立てを受領した長官は、当該申立てが適法になされた場合はその旨特許権者に通知しなければならず(法第25条3項(a))、また3名の構成員によって構成される異議部の編成を命じなければならない(法第25条3項 (b)、規則第56条1項)。異議部は、規則に基づいて申立人・特許権者から提出された書類に従って審査を行い、当該書類の送付日から3ヶ月以内に、長官に報告書を提出しなければならない(法第25条3項(c)、規則第56条4項)。長官は所定の時期に特許権者及び異議申立人に聴聞の機会を付与し、かかる機会の付与後であり、かつ異議部からの報告書受領後に、特許の維持、補正、又は取消しを命令する(法第25条4項)。

    7. (6) 特許権者の権利
    8. インド特許法は、特許権者の権利に関し以下のとおり規定している。

      1. (a) 製品特許(法第48条 (a))
      2. 特許権者は、その承認を得ていない第三者がインドにおいて当該製品を製造、使用、販売の申し出、販売、又はこれらの目的で輸入する行為を防止する排他権を有する。

      3. (b) 方法特許(法第48条 (b))
      4. 特許権者は、その承認を得ていない第三者が、同方法を使用する行為、及びインドにおいて同方法によって直接得られた製品を使用、販売の申し出、販売、又はこれらの目的で輸入する行為を防止する排他権を有する。

    9. (7) 存続期間
    10. 特許の存続期間は、特許の出願日から20年間とされている(法第53条1項)。但し、所定の期間内又は所定の延長期間内に更新手数料を納付しなければならず、このような期間内に更新手数料が納付されない場合、当該特許はその効力を失う(法第53条2項)。

    11. (8) 特許権の譲渡及び実施許諾(ライセンス)
      1. (a) 方式
      2. 特許又はその持分の譲渡、抵当権、ライセンス、その他特許についての権利の設定については、①それが書面によってなされていること、②関連当事者間の合意がそれらの権利義務を規定するすべての条件を記載した書面の形式にまとめられていること、及び③正式に締結されていなければならず、これらの要件を充たさない権利の設定は効力を生じないとされている(法第68条)

      3. (b) 登録
      4. 譲渡、移転、又は法の適用によって、特許又は特許の持分を取得した場合、もしくは特許についての抵当権者、実施権者(Licensee)となった場合、その他特許に関する何らかの権利を取得した場合、その者は、長官に対し所定の方法で当該権利の登録を申請しなければならない(法第69条1項)。

    12. (9) 強制実施権(ライセンス)
    13. 強制実施権とは、当該特許の実施権(ライセンス)が強制的に設定される制度である。

      インド特許法は、強制実施権の種類として、以下の4種類を規定している。

      1. (a) 法第84条
      2. 利害関係人は、特許付与日から3年の期間満了後はいつでも、長官に対して、以下のいずれかの理由により強制実施権の許諾を求める申請を行うことができる。

        1. ① 当該特許発明に関する公衆の正当な需要が充たされていないこと
        2. ② 当該特許発明が公衆にとって適度に手頃な価格で利用できないこと
        3. ③ 当該特許発明がインド国内で実施されていないこと
      3. (b) 関連特許の強制実施権(法第91条)
      4. 特許権者又は実施権者は、特許付与後いつでも、長官に対して、当該特許の実施権を有していないため自己の発明を効率的又は有利に実施することができないことを理由に、強制実施権の許諾を求める申請を行うことができる。

      5. (c) 中央政府による公告に基づく強制実施権(法第92条)
      6. 中央政府は、特許付与後いつでも、現に効力を有する任意の特許につき国家的緊急状況下において強制実施権の許諾が必要と認める場合、その旨を官報で公告することができる。利害関係人から申請があった場合、長官は適切と認める条件により強制実施権を許諾することができる。

      7. (d) 特許医薬品の輸出に関する強制実施権(法第92A条)
      8. 長官は、公衆衛生問題に対処するため、関係製品の医薬品分野における製造能力が不十分である、又は製造能力を有していない国向けの特許医薬品の製造及び輸出に関し、強制実施権を許諾することができる。

  4. 3. 意匠
    1. (1) 沿革・現行法制
    2. インドにおける意匠に関する法規は、2000年インド意匠法及び2001年インド意匠規則である。前述のとおり、インドは、TRIPS協定の加盟国であり、2000年インド意匠法もTRIPS協定に準拠した法律とされている。

    3. (2) 意匠法の保護対象
    4. インド意匠法第2条 (d) は、「意匠」につき以下のように定義している。

      「意匠」とは、物品に適用される線又は色彩の形状、輪郭、模様、装飾もしくは構成の特徴のみを意味し、それが二次元、三次元、もしくはその双方か、工業プロセス又は工業的手段(手工芸的、機械的、化学的、分離もしくは結合の如何を問ない)によるかを問わないものであり、完成品において視覚に訴え、かつ視覚によってのみ判断されるものを意味する。

      なお、同条項は、意匠には、①構造の態様、原理、又は実質的には単なる機械装置であるもの、②インド商標法上の商標、③インド刑法上の財産商標(property ark)、④インド著作権法上の芸術的作品を含まない旨を特に明記している。

    5. (3) 意匠の要件
    6. インド意匠法第4条は、登録することができない意匠につき、以下のとおり規定している。

      1. ① 新規性又は創作性がない意匠
      2. ② 登録出願日前にインド国内外ですでに公衆に対してすでに開示されている意匠
      3. ③ 周知されている意匠又は周知されている意匠との組み合わせと明確に区別できない意匠
      4. ④ 中傷的又はわいせつ的事項を含む意匠
    7. (4) 意匠の出願
      1. (a) 出願権者
      2. インド意匠法は、新規性又は創作性を有する意匠の所有者による意匠出願を前提にその登録を認めている(法第5条1項)。この新規性又は創作性を有する意匠の所有者とは、原則として意匠の創作者であり、意匠権等が創作者から他人へ移転している場合はその他人(法第2条(j)(iii))、意匠の創作者が適正な対価を得て他人のために作成した場合はその他人(同条 (j)(i))、また意匠権等を他人から取得した場合は取得した範囲における権利の取得者を意味する(同条(j)(ii))。

      3. (b) 一意匠一出願の原則
      4. 一つの意匠は一つの区分に限り登録することができ、二以上の物品区分に同一意匠を登録する場合は、物品区分ごとに別の出願をしなければならない。(法第5条3項、規則第11条3項)。

      5. (c) 出願書類
      6. 願書の他、意匠見本を4通添付しなければならない(規則第11条1項)。

      7. (d) 相互協定
      8. 英国又はその他の条約の締約国等において意匠の保護を出願している場合、当該意匠をインド意匠法に基づいて登録する際、すでに他国で行っている出願に基づく優先権の主張をすることができる。かかる場合、インドにおける出願日は、他国において出願した日となる。但し、かかる出願は、他国における意匠保護の出願から6ヶ月以内に行わなければならない。また、当該意匠がインドにおいて実際に登録される日より前に発生した意匠権侵害に対する損害賠償請求は認められない(法第44条1項)。

    8. (5) 出願後の手続き
    9. 特許とは異なり出願人による審査請求は審査の要件とはなっておらず、出願後に出願人からの審査請求がなくとも、意匠について審査される。

      1. (a) 拒絶事由・補正
      2. 審査の結果、何らかの拒絶理由が認められ、それが出願人に不利益となるもの、又は補正を必要とする場合、当該拒絶理由が出願人またはその代理人に通知される。かかる拒絶理由の通知の日から3カ月以内に当該拒絶理由を解消しない場合、又は聴聞を申請しない場合、当該出願は、取下げられたものとみなされる(規則第18条1項)。

      3. (b) 受理
      4. 審査官の報告書において意匠の登録に対する拒絶理由がないと認められる場合、長官は当該登録出願を受理することができる。受理後、当該意匠は登録簿に登録され、意匠所有者に登録証明書を付与する(法第9条、10条、規則第17条)。

    10. (6) 存続期間
    11. 登録意匠所有者は、登録日から10年間その意匠権を有する。10年間の満了前に所定の方法により期間延長申請を行うことにより、その満了日からさらに5年間延長することができる(法第11条)。

    12. (7) 意匠登録の取消し
    13. 利害関係人は、以下のいずれかの理由に基づき、意匠登録後に当該意匠登録の取消しを請求することができる(法第19条1項)。

      1. ① 当該意匠がインドにおいて既に登録済みであること
      2. ② 当該意匠が登録日前にインド又はその他の国において公開されていること
      3. ③ 当該意匠が新規性又は創作性を有する意匠ではないこと
      4. ④ 当該意匠がインド意匠法に基づいて登録可能なものではないこと
      5. ⑤ 当該意匠がインド意匠法第2条 (d) で定義された意匠に該当しないこと
  5. 4. 商標
    1. (1) 沿革・現行法制
    2. インドにおける商標に関する法規は、1999年インド商標法及び2002年インド商標規則である。

    3. (2) 商標の対象
    4. インド商標法において、商標とは、以下のとおり定義されている((法第2条1項 (zb))。「商標」とは、図表を用いて表されることが可能であり、他の者の商品又はサービスと識別可能である標章を意味するものであり、商品の形状、その包装、及び色の組み合わせを含むものであり、かつ以下のものを意味する。

      1. (i) 商標の不正使用を規定する第12章(107条)との関係では、所有者として当該標章を使用する権利を有する者と商品又はサービスとの間の取引上の関係を示す目的のため、商品又はサービスとの関係で利用される標章又は登録商標
      2. (ii) 本法の他の規定との関係では、所有者として、又は使用許諾の方法によって当該標章を使用する権利を有する者と商品又はサービスとの間の取引上の関係を示す目的のため、商品又はサービスとの関係で使用され、もしくは使用される予定の標章

      なお、インド商法において、「標章」とは、図案(device)、銘柄(Brand)、表題(heading)、ラベル、札(ticket)、名称、署名、言葉、文字、数字、商品の形状、包装、又は色彩の組合せ、もしくはこれらの組合せを含むものと定義されている。

    5. (3) 登録要件(登録拒絶事由)
      1. (a) 絶対的登録拒絶事由
      2. 以下の事由に該当する商標は、これを登録することができない(法第9条)

        1. ① 識別性を欠く標章、商品又はサービスの他の特性を示すにすぎない標章、もしくは慣習的商標
        2. ② 公衆を誤認・混同させる標章、インド国民の階級・宗教的感情を害する事項を含む標章、もしくは抽象的・わいせつ的事項を含む標章等
        3. ③ 商品自体の内容に由来する商品自体の形状によって構成される標章、技術的成果を得るために必要な商品の形状によって構成される標章、もしくは商品に実質的な価値を付与する形状によって構成される標章
      3. (b) 相対的登録拒絶事由
      4. すでに登録済みの商標との関係で、以下の事由に該当する商標は、これを登録することができない(法第11条)

        1. ① すでに登録済みの商標及び当該商標を使用する商品・サービスとの同一性・類似性により、公衆を混同させるおそれ等がある場合
        2. ② 周知商標との同一性・類似性があり、周知商標の識別性・評判を不当に利用する又はこれらを損なうおそれがある場合
        3. ③ 他の法律によりインドにおけるその使用が禁止・制限される場合
    6. (4) 商標の出願
      1. (a) 出願権者
      2. 自己が使用し、又は使用しようとする商標の所有者について、その商標登録を出願することを認めている(法第18条1項)。

      3. (b) 一商標多区分出願
      4. インド商標法は、単一の商標登録出願によって一以上の商品・サービスの区分での商標登録を認めている。但し、複数の商品・サービスの商標登録出願をする場合、その手数料は商品・サービスの区分ごとに納付しなければならない(法第18条2項)。

    7. (5) 出願後の手続き
      1. (a) 早期審査請求
      2. 出願人は、所定の様式により、出願手数料の5倍の額を納付して商標登録出願の早期審査を請求することができる。当該請求につき登録官が正当と認める場合、請求日から3ヶ月以内に審査報告書を発行することとされている(規則第38条1項、2項)。なお、早期審査請求が拒絶された場合、上記手数料は出願人に還付される(規則第38条3項)。

      3. (b) 審査
      4. 審査につき、登録官が前述の登録拒絶事由を含む当該申請に異議がある場合、又は補正や条件を付して登録を受理する場合、登録官は、当該異議等について書面で当該出願人に通知しなければならず、当該出願人がその通知日から1ヶ月以内にこれに従わない、異議等に対する意見書を提出しない、聴聞を申請しない、又は聴聞に出頭しない場合は、当該出願は放棄されたものとみなされる(法第18条4項、5項、規則第38条4項、5項)。

      5. (c) 公告
      6. 商標登録出願が受理された場合、登録官は、受理後6ヶ月以内に所定の方法でこれを公告しなければならない(法第20条1項、規則第43条)。

    8. (6) 異議申立て
    9. 何人も、登録出願の公告日から3ヶ月以内(所定の方法による申請により登記官が許可した場合は1ヶ月以内の延長が認められる)に、登録官に対して書面によって商標登録の異議申立てをすることができる(法第21条1項)。

    10. (7) 商標の登録
    11. 登録出願が受理され、かつ異議が申し立てられることなく異議申立て期間が満了した場合、又は異議が申し立てられたが却下された場合には、当該商標は登録される(法第23条1項)

    12. (8) 商標権者の権利
    13. 登録された商標の所有者には、当該商標登録に関する商品又はサービスについて当該商標を排他的に使用する権利、又はインド商標法に基づいて当該商標への侵害行為に対する救済を求める排他的権利が認められる(法第28条1項)。なお、登録商標への侵害行為については、法第29条において詳細に規定されている。

    14. (9) 存続期間
    15. 商標登録の存続期間は10年間であり、期間満了前6ヶ月以内に所定の方法により登録更新手続きを行うことにより、10年ごとに更新することができる(法25条1項、2項、及び規則第63条1項)。

    16. (10) 登録商標の譲渡・移転
    17. 登録された商標は、関連する営業権の譲渡・移転の有無を問わず、当該商標に関する指定商品・サービスの全部又は一部を譲渡することができる(法第38条)。

      譲渡・移転によって登録商標を取得した者は、所定の方法により、登録官に対して取得した当該権利の登録を申請しなければならない(法第45条1項)。また、営業権の譲渡を伴わない場合、譲渡によって登録商標を取得した者は、譲渡日から6ヶ月以内に(登録官の許可により最大3ヶ月の延長が認められる場合あり)、登録官に対して当該譲渡の公告命令を請求しなければならない(法第42条)。

    18. (11) 登録商標の使用許諾(ライセンス)
    19. インド商標法第2条1項 (r) の登録商標に関する「許諾された使用」の定義に鑑みれば、当該登録商標の登録使用者による使用のみならず、書面による契約で登録商標の所有者の同意を得た者による使用も登録商標の許諾された使用に該当する。したがって、使用者の登録の有無に関わらず、登録商標の所有者との書面による契約により登録商標の使用許諾は可能であると考えられている。なお、後者の場合、商標侵害に対する訴訟を提起することが認められていない(法第53条)。

      使用者を登録する場合、登録所有者と登録使用者は、所定の方法により、登録官に対して共同でその申請を行わなければならない(法第49条1項)。

    20. (12) 商標の不使用を理由とする登録抹消(法第47条1項)
    21. 被害者からの抹消請求につき、以下の理由がある場合は商標登録が抹消される。

      1. ① 当該商品・サービスに使用する意思がないのに商標が登録され、かつ実際に登録抹消請求前の3ヶ月間その使用がなかった場合
      2. ② 登録抹消請求の3ヶ月前までに、当該商標の実際の登録日から5年以上の間その使用がなかった場合
  6. 5. 著作権
    1. (1) 沿革・現行法制
    2. インドにおける著作権に関する法規は1957年インド著作権法(2012年改正)及び2013年インド著作権規則である。

    3. (2) 著作物の意義
    4. インド著作権法は、著作権の対象となる著作物につき以下を規定している(法第13条1項)。

      1. ① 言語著作物(コンピュータ・プログラムを含む)
      2. ② 演劇著作物
      3. ③ 音楽著作物
      4. ④ 美術著作物
      5. ⑤ 映画
      6. ⑥ 録音
    5. (3) 著作者
      1. インド著作権法第2条 (d) において、著作者とは以下のとおり定義されている。

      2. ① 言語著作物又は演劇著作物との関係では、当該著作物の著者
      3. ② 音楽著作物との関係では、当該作曲家
      4. ③ 写真以外の美術著作物との関係では、当該美術家
      5. ④ 写真との関係では、当該写真の撮影者
      6. ⑤ 映画又は録音物との関係では、当該製作者
      7. ⑥ コンピュータによって製作された言語著作物、演劇著作物、音楽著作物、又は美術著作物との関係では、当該作品の製作者
    6. (4) 著作権の内容
    7. インド著作権法第14条は、著作物ごとにその著作権の内容を規定している。例えば、コンピュータ・プログラムを除く言語著作物、演劇著作物、又は音楽著作物の場合、著作物の複製権、複製品の譲渡権、上演・上映権、翻案権(映画化又は録音物の作成)、翻訳権が認められている。また、著作物の翻訳又は翻案に関しても前述の権利が認められている。

    8. (5) 著作者特権(著作者人格権)
    9. 著作者の著作権とは別に、著作者には、①著作物の著作者であることを主張する権利、及び②著作物の歪曲、毀損、改変、又はその他の行為により著作者の名誉又は評判が損なわれた場合に、かかる行為を止めさせる、もしくはその損害賠償を請求する権利が認められる。かかる著作者特権は、著作権が譲渡された後も認められる(法第57条1項)。

    10. (6) 著作権の帰属
    11. 原則として、著作物に関する著作権は、その著作物の著作者に原始的に帰属する。但し、以下の場合は例外である(法第17条)。

      1. (a) 職務著作
      2. 新聞、雑誌、又はこれらに類する定期刊行物に掲載する目的で、その経営者との雇用契約等に基づく職務の過程で当該著作者が言語著作物、演劇著作物、又は美術著作物を創作した場合、別段の合意がない限り、新聞、雑誌、又はこれらに類する定期刊行物への掲載、又は掲載目的での複製に関する著作権は、当該経営者に原始的に帰属する。その他に関する著作権については、当該著作者に原始的に帰属する。

      3. (b) 有償による依頼
      4. 著作者が他の者の依頼により対価を得て、写真、絵画、肖像画、彫刻、又は映画が製作した場合、別段の合意がない限り、その著作権は当該依頼者に原始的に帰属する。

      5. (c) 上記 (a) (b) に該当しない場合
      6. 雇用契約等に基づく著作者の職務の過程で創作した著作物で、上記 (a) (b) に該当しない場合、別段の合意がない限り、その著作権はその雇用主に原始的に帰属する。

        法第17条は、上記の他にも公衆における演説・スピーチ、政府著作物についても例外を規定している。

    12. (7) 著作権の保護期間
    13. インド著作権法第5章に規定されているとおり、著作権の保護期間は著作物の種類によって異なる。例えば、言語著作物、演劇著作物、音楽著作物、及び美術著作物(写真を除く)につき、その著作者が生存中に発表された場合、その著作権の保護期間は、当該著作者の生存中及び死亡した翌暦年から60年とされている(法第22条)。また、これらの著作物につき、著作者が不明又はペンネームで発表された場合、その著作権の保護期間は、当該著作物が最初に発表された年の翌暦年から60年とされている。但し、かかる期間満了前に著作者の正体が明らかにされた場合、当該著作権は、その著作者の生存中及び死亡した翌暦年から60年間保護される(法第23条1項)。

      写真、映画、及び録音物の場合、その著作権の保護期間は、それが発表された年の翌暦年から60年とされている(法第25条乃至27条)。

    14. (8) 著作権の侵害
      1. (a) 著作権侵害行為
      2. 著作権者からの利用許諾なしに、又は利用許諾があってもその条件に反して、インド著作権法により著作権者にのみ認められている行為を行った場合は、著作権侵害行為と見做される(法第51条(a) (i))。

        また、以下の行為についても同様に著作権侵害行為と見做される(法第51条 (b))。

        1. ① 販売・貸与のために違法複製物を作成すること、違法複製物を販売・貸与すること、もしくは販売・貸与のための展示・提供
        2. ② 取引目的のため、又は著作権者に悪影響を及ぼす程度での違法複製物の頒布
        3. ③ 取引のための違法複製物の展示
        4. ④ 違法複製物のインド国内への輸入
      3. (b) 例外
      4. 他方で、インド著作権法第52条1項は、著作権侵害とならない行為を規定している。例えば、コンピュータ・プログラムを除く言語著作物、演劇著作物、音楽著作物、又は美術著作物を、研究を含む私的使用又は批評目的で公正に使用する場合は著作権侵害とはならない。また、コンピュータ・プログラムの複製物の適法な占有者が、バックアップを作成する目的でその複製・翻案を作成する場合、新聞、雑誌、又はこれらに類する定期刊行物、もしくは放送、映画、写真の時事の報道のために言語著作物、演劇著作物、音楽著作物、又は美術著作物を公正に使用する場合、司法手続きのために言語著作物、演劇著作物、音楽著作物、又は美術著作物を複製する場合なども著作権侵害とはならない。

    15. (9) 著作権の譲渡・利用許諾
      1. (a) 譲渡
      2. 著作権者は、その著作権の全部又は一部につき、包括的又は条件付きで譲渡することができる。また、将来の著作物に対する著作権についても同様であるが、その場合、その譲渡の効力は当該著作物が完成した場合にのみ効力を生じる(法第18条1項)。著作権の譲渡を有効に行うためには、譲渡人又はその代理人が署名した書面によって行わなければならない。また当該著作物、譲渡の対象となる権利、譲渡期間、及び地域を特定しなければならず、著作権者等に支払わなければならないロイヤルティがある場合はその額も特定しなければならない(法第19条1項乃至3項)。なお、譲渡期間の定めがない場合、その譲渡期間は譲渡日から5年と見做される(法第19条5項)。地域の定めがない場合、その地域はインド国内と見做される(法第19条6項)。

      3. (b) 利用許諾
      4. 著作権者は、その著作権の利用を許諾することができる。将来の著作物に関連する著作権についても同様であり、その場合、その利用許諾の効力は当該著作物が完成した場合にのみ効力を生じる。著作権の利用許諾を有効に行うためには、著作権者又はその代理人が署名した書面によって行わなければならない(法第30条)。また当該著作物、利用許諾の対象となる権利、利用許諾期間、及び地域を特定しなければならず、著作権者等に支払わなければならないロイヤルティがある場合はその額も特定しなければならない。利用許諾期間の定めがない場合、その譲渡期間は譲渡日から5年と見做される。地域の定めがない場合、その地域はインド国内と見做される(法30A条、19条)。

    16. (10) 著作権の登録
    17. インド著作権法に基づく著作権の登録制度はあるが、著作権の登録は著作権の発生要件ではなく、登録しなくともその権利を取得・行使することができる(無方式主義)。しかし、著作権が登録された場合、その登録簿に記載された事項は一応の証拠(prima facie evidence)とされ、反証によって覆されない限り立証された証拠と見做される。また、著作権登録官が認証し著作権局が捺印した登録簿記載事項の写しとされる文書等は、さらなる証明又はその原本の提出がなくとも、インドのすべての裁判所において証拠採用される(法第48条)。