タイ 投資優遇制度

2014年4月27日更新

 タイにおける中心的な優遇措置は、投資奨励法(Investment Promotion Act B.E. 2520(1977))に基づく優遇措置である。その特徴の1つは、投資奨励が認められたプロジェクトにおける外国資本の出資比率について、一定の規制事業について外国資本100%の保有が認められうる点である。したがって、タイの投資奨励制度は、外資出資比率規制をクリアするための手法の1つとしても広く用いられている。

 近時、タイ投資委員会(Thailand Board of Investment: BOI)は、2015年~2021年の7年間に適用される新たな投資奨励制度を公表した。以下では、かかる新投資奨励制度に関し、1.根拠法令、2.投資奨励対象業種、3.奨励措置の主な内容、及び4.認可基準について紹介する。

 なお、投資優遇措置は、政策変更や予算等により変更されることが少なくない分野であり、具体的に検討する場合には専門家又は所轄官庁に最新の内容を確認することが特に重要であると思われる。

  1. 1. 根拠法令
  2. タイにおいては、タイへの投資を促進するための優遇措置を定める主な法律として、投資奨励法(Investment Promotion Act B.E. 2520(1977))が存在している。同法に基づき、2014年12月3日、タイ投資委員会(Thailand Board of Investment: BOI)が、同委員会布告2/2557号により、2015年~2021年の7年間に適用される新たな投資奨励制度を公表している。

  3. 2. 投資奨励対象業種
  4.  BOIに対して投資奨励を申請できる事業活動は、(1) 農業及び農作物、(2) 鉱業、セラミックス及び基礎金属、(3) 軽工業、(4) 金属製品、機械、運輸機器、(5) 電子・電気機械産業、(6) 化学、紙、プラスチック、(7) サービス及び公共施設の7つに分類され、各事業活動ごとに付与される奨励措置のカテゴリーとそのための条件が定められている。以下では、投資奨励対象業種の大区分の概要を紹介する。詳細及び最新情報については、専門家又は担当省庁へ問い合わせをされたい。

    1. (1) 農業及び農作物
    2. (1.1) バイオ肥料、有機肥料、ナノ有機化学肥料、及びバイオ除草剤・殺虫剤

      (1.2) バイオ事業の範囲外の植物・動物の品質改良

      (1.3) 商用材木の植林

      (1.4) 乾燥植物及びサイロ

      (1.5) 動物の繁殖・飼育

      (1.6) 屠殺

      (1.7) 深海漁業

      (1.8) 植物・野菜・果物・花の品質選別・包装・保存

      (1.9) 加工澱粉・特殊な植物からの製粉

      (1.10) 植物または動物からの油脂の製造

      (1.11) 天然エキスの製造又は天然エキスからの製品の製造

      (1.12) 天然材料からの有効成分の製造

      (1.13) 皮革なめし、皮革仕上げ

      (1.14) 天然ゴムからの製品の製造

      (1.15) 農業の副産物又は残り屑からの製品の製造

      (1.16) 農産品からの燃料の製造

      (1.17) 最新技術を使用した食品の製造・保存、飲料・食品添加物・食品調合物の製造

      (1.18) 医療食品又は栄養補助食品の製造

      (1.19) 冷蔵・冷凍倉庫、又は冷蔵・冷凍倉庫及び冷蔵・冷凍運輸

      (1.20) 農産物取引センター

    3. (2) 鉱業、セラミックス及び基礎金属
    4. (2.1) 鉱物試掘採鉱

      (2.2) カリウムの採鉱又はカリウムの選鉱

      (2.3) アドバンス・マテリアル、ナノ・マテリアルの製造又はこれらの物質から作られる製品の製造

      (2.4) ガラス又はセラミックス製品の製造

      (2.5) 耐火材及び断熱材の製造

      (2.6) 石膏又は石膏製品の製造

      (2.7- 2.9) 鉄鋼製品の製造

      (2.10) 鉄パイプまたはステンレスパイプの製造

      (2.11) 金属粉末の製造

      (2.12) フェロアロイの製造

      (2.13) 鋳造鉄鋼部品の製造

      (2.14) 鍛造による鉄鋼部品の製造

      (2.15) 圧延・引抜き・押出し・鋳造・鍛造による非鉄部品の製造

      (2.16) コイルセンター

    5. (3) 軽工業
    6. (3.1) 繊維製品又はその部品の製造

      (3.2) 不織布の製造又は不織布からの衛生製品の製造

      (3.3) 鞄・履物製品の製造、又は皮革・人工皮革からの製品の製造

      (3.4) スポーツ用品又はその部品の製 造

      (3.5) 楽器の製造

      (3.6) 家具又はその部品の製造

      (3.7) 玩具の製造

      (3.8) 宝石・装飾品、又はその部品、原材料、試作品の製造

      (3.9) 創造的な製品デザイン・開発サービス

      (3.10) レンズの製造

      (3.11) 医療用器具・機器又はその部品の製造

    7. (4) 金属製品、機械、運輸機器
    8. (4.1) 金属部品又は金属製品の製造

      (4.2) 表面処理

      (4.3) 熱処理

      (4.4) 汎用エンジン又はその備品の製造

      (4.5) 機械、その備品及び部品の製造

      (4.6) 一般自動車の製造

      (4.7) 乗物用エンジンの製造

      (4.8) 乗物部品の製造

      (4.9) 造船・船舶の修理

      (4.10) 汽車、電車、その備品・部品の製造

      (4.11) 航空機の製造・修理、航空機備品・部品の製造・修理

      (4.12) オートバイの製造

      (4.13) 燃料電池の製造

      (4.14) 建設用・工業用金属構造の製造又は石油産業用プラットフォーム修理

      (4.15) 科学機器の製造

    9. (5) 電子・電気機械産業
    10. (5.1) 電気製品の製造

      (5.2) 電気部品・機器、又は電気製品に使用される部品・機器の製造

      (5.3) 電子製品の製造

      (5.4) 電子部品・機器、又は電子製品に使用する部品・機器の製造

      (5.5) マイクロエレクトロニクス用資材の製造

      (5.6) 電子設計

      (5.7) ソフトウェア

      (5.8) E-commerce

    11. (6) 化学、紙、プラスチック
    12. (6.1) 工業用化学製品の製造

      (6.2) 環境に配慮した化学製品又はポリマー製品の製造

      (6.3) 石油の精製

      (6.4) 石油化学製品の製造

      (6.5) 特殊ポリマー製品又は特殊化学品の製造

      (6.6) 工業用プラスチック製品の製造

      (6.7) 特殊プラスチック包装材の製造

      (6.8) リサイクルプラスチック製品の製造

      (6.9) 薬品の有効成分の製造

      (6.10) 薬品の製造

      (6.11) 基本化学肥料の製造

      (6.12) パルプ又は紙の製造

      (6.13) 紙製品の製造

      (6.14) 印刷物の製造

    13. (7) サービス及び公共施設
    14. (7.1) 公共施設及び基本サービス

      (7.2) 天然ガスサービス・ステーション

      (7.3) 大量輸送及び大型貨物輸送

      (7.4) ロジスティック・センター

      (7.5) 国際地域統括本部

      (7.6) 国際貿易センター

      (7.7) 貿易及び投資支援事務所

      (7.8) エネルギーサービス会社

      (7.9) 工業用地の開発事業

      (7.10) クラウドサービス

      (7.11) 研究開発

      (7.12) バイオテクノロジー

      (7.13) エンジニアリングデザインサービス

      (7.14) 理科学実験サービス

      (7.15) 計測器校正サービス

      (7.16) 製品向け殺菌サービス

      (7.17) 不要材の再利用

      (7.18) 廃棄物処理

      (7.19) 職業訓練学校

      (7.20) タイ映画の制作

      (7.21) 映画制作向けサービス

      (7.22) 観光促進事業(遊覧船サービス、遊園地、芸術文化センター、野外動物園、水族館、カーレース場、ケーブルカー等)

      (7.23) 観光支援事業(ホテル、コンベンションホール、国際展示場、リハビリテーションセンター)

  5. 3. 奨励措置の主な内容
  6. 新奨励制度において付与される奨励措置は、(1)業種に基づく奨励措置を基本とし、(2)追加的な奨励措置として(2-1)競争力向上(2-2)地方分散(2-3)産業開発地区に関する恩典が存在している。以下、順に紹介する。

    1. (1) 業種に基づく奨励措置
    2. 新奨励制度の基本となる業種に基づく奨励措置は、業種の重要性に応じてA1からB4まで6段階に業種を階層化し、それぞれ付与される奨励措置の内容に差が設けられている。大きくは、法人税の減免を含む恩典が付与されるAグループ(A1~A4の4グループ)と、法人税の減免以外の恩典のみが付与されるBグループ(B1、B2の2グループ)に区別され、以下の内容の恩典が付与されている。

      グループ
      法人税免除
      その他の税の減免
      その他の優遇措置
      免除期間
      免除額増減
      機械輸入税の免除
      輸出用原材料の輸入税の免除
      A1
      8年
      上限なし
      あり
      あり
      あり
      A2
      投資額**の100%
      A3
      5年
      A4
      3年
      B1
      適用なし
      B2
      適用なし

      *その他の優遇措置としては、以下のものが挙げられる。

      ・予定事業の実施可能性調査のための外国人の入国及び外国人就労許可の取得

      ・外国人就労許可取得における優遇措置

      ・奨励事業を営むための土地所有の許可

      ・外貨の海外持ち出し、外貨による海外送金の許可

      *加えて、重要な点として、投資奨励が付与された場合には、外国人事業法の別表2及び3に記載されている事業については、原則として外国人が100%資本を保有することができる。

      **投資額は、土地代・運転資金を除く金額。

    3. (2) 追加的な奨励措置
    4.  上記(1)の優遇措置に加えて、(2-1)競争力向上(2-2)地方分散投資(2-3)工業地域開発というメリットをタイにもたらす一定の場合には、追加的に以下の恩恵が与えられる。

    5. (2-1) 競争力の向上
    6.  タイの競争力を向上させる以下の投資・費用支出に対して、法人税免除の上限が追加される。

       
      投資・費用項目概要
      法人税の追加免除の上限
      1.
      研究開発(自社・国内における外注・海外との共同)
      投資額*の200%
      2.
      技術・人材開発基金、教育機関、専門訓練センター、国内にある研究開発機関及び科学技術分野の政府機関への寄付
      投資額*の100%
      3.
      国内で開発された技術の知的財産権の購入・ライセンス料の支払
      4.
      高度な技術訓練
      5.
      タイ資本が資本金の51%以上を占める国内の原材料・部品調達先に対する高度な技術訓練及び技術支援
      6.
      製品及びパッケージデザインにつき自社又は国内における他社への委託

      *投資額は、土地代・運転資金を除く金額。

       また、当初の3年間における売上に対する投資・費用支出の割合に応じて、追加される法人税免除期間が以下のとおり異なっている。

      投資・支出額又はこれらの当初3年間の売上に対する割合
      法人税免除追加期間
      2億バーツ(約6億1300万円)以上 又は1%
      1年
      4億バーツ(約12億2600万円)以上 又は2%
      2年
      6億バーツ(約18億3800万円)以上 又は3%
      3年
    7. (2-2) 地方への分散投資
    8.  一人当たりの所得額の低い地域として委員会布告に定められた20 県に立地するプロジェクトについては、以下の追加恩典が付与される。

      ・グループ A1、A2 :法人税免除期間(8年)満了後5 年間、法人税を 50%免除。

      ・グループA3、A4、B1:法人税免除期間を 3年間延長(最長8年まで)

      ・グループB2以外の全てのグループ:①運送費及び水道光熱費の10 年間の二重の所得控除、②設備投資額の25%の追加控除

    9. (2-3) 工業地域の開発
    10. 工業団地又は奨励された工業区に立地するグループA3、A4に該当するプロジェクトについては、法人税の免除期間が1 年追加される。(最長8年まで)

  7. 4. 認可基準
  8.  投資奨励が付与されるプロジェクトとしてBOIの奨励を受けるための主要な要件は以下のとおりである。

    1. (1) 競争力開発に関する要件
    2. (i) プロジェクトの付加価値が、その総売上の20%以上であること。ただし、農業及び農産品事業、電子及び部品事業、コイル・センター事業は総売上の10%以上の付加価値を有すること。

      (ii) 近代的な製造工程を有すること。

      (iii) 新品の機械を使用すること。ただし、BOIが定める一定の要件を満たせば中古機械の使用も可能。

      (iv) 土地代及び運転資金を除く投資金額1000万バーツ(約3100万円)以上のプロジェクトは、操業日より2年以内にISO9000又はISO14000その他相当する国際規格を取得すること。取得ができない場合、法人税免除に関する恩典が1年間縮減。

      (v) コンセッション事業および民営化事業については、別の認可基準による。

    3. (2) 環境保護に関する要件
    4. (i) 環境を保護し環境への影響を抑えるための十分で効率的な方法が導入されていること。環境へ潜在的に影響を及ぼすプロジェクトの立地及び公害処理に関してBOIは特別の審議を行う。

      (ii) 環境影響評価報告書を提出義務のあるプロジェクト・事業活動は、関連する環境法令及び内閣の決議を順守すること。

      (iii) ラヨン県に立地するプロジェクトは、ラヨン県地域における投資奨励方針に従わなければならない。

    5. (3) 最低投資額及びプロジェクトの実現可能性調査
    6. (i) 土地代および運転資金を除く最低投資額は、事業毎に個別に定められた場合を除き、原則として100万バーツ(約316万円)とする。

      (ii) 新設されたプロジェクトについては、事業毎に個別に定められた場合を除き、負債資本比率は3:1以内であること。既存のプロジェクトの拡張については、個別に検討する。

      (iii) 土地代及び運転資金を除く投資価値が7億5000万バーツ(約23億7000万円)を超えるプロジェクトについては、委員会が定めた様式でプロジェクトの実現可能性調査報告書を提出すること。

以上