ラオスにおける不動産規制
2016年8月8日更新
ラオスにおいては、土地は国家共同体に帰属すると憲法上定められているため、ラオス国民であっても、法律上、土地の所有権を取得することはできない。では、外国人・外国資本は、いかなる形でラオスにおいて事業を展開し、不動産に投資をすることができるであろうか。本稿では、まず、1. ラオスにおいて土地所有権の代替として利用されている土地使用権について紹介し、次に、2. 外国人・外国資本が土地を利用する権利を確保する手段について検討し、最後に、3. 外国人等の権利の確保に有用だと思われるラオスの土地登記制度について概説する。
- 1. 土地使用権
- (i) 特定の目的で土地を利用するために、当該土地を保護する権利
- (ii) 国家の土地区画計画に従って、特定の目的のために土地を利用する権利
- (iii) 土地の賃貸・担保設定等により土地から経済的利益を得る権利
- (iv) 土地使用権を、売買・譲渡・交換により、第三者に与える権利
- (v) 土地使用権を、土地使用権を保有する者が死亡した際に、その配偶者・子・孫・親・近親者に相続させる権利
- 2. 外国人・外国資本による土地の利用
- (1) ラオス国民からのリース、又は、ラオス政府からのリース・コンセッションを受ける方法
- (i) 当該土地の目的に従って利用すること
- (ii) 当該土地・自然環境・社会環境に悪影響を及ぼさないこと
- (iii) 他者の権利・利益を侵害しないこと
- (iv) 法令に基づく条件に従うこと
- (v) 当該土地に関するリース料、コンセッション費、その他の費用を全額支払うこと
- (vi) 土地に関する規制及び土地のリース・コンセッションの条件を遵守すること
- (2) 投資優遇措置により土地使用権をラオス政府から購入する方法
- 3. 土地登記制度
- (i) 土地使用権を有する者の氏名
- (ii) 土地使用権を有する者の生年月日、国籍、職業、現住所
- (iii) 土地使用権を有する者の父母の名前
- (iv) 土地の区画番号
- (v) 土地区画図のコード番号
- (vi) 土地の境界・地域・カテゴリー
- (vii) 土地の図面
2003年に改正されたラオス憲法 (25/NA、2003年5月6日)は、ラオスの土地は国家共同体に帰属し、国家は、法律に従って、土地を使用・譲渡・相続する権利を保護すると規定する。これに基づき、土地法(04/NA、2003年10月21日)が土地使用権を規定し、土地の使用に法的な保護を与えている。かかる土地使用権の具体的内容として、その保有者は、以下の5つの権利を行使することができる。
ラオス国民は、かかる土地使用権を、①国家からの割当て、②譲渡、又は、③相続により取得することができる。しかし、外国人・外資系企業(外国資本が少数株主として資本参加している会社を含む。)が土地使用権自体を取得することは、下記2.(2)に記載した例外的な場合を除いては、原則として認められていない。
外国人・外国資本が、ラオス国内の土地を利用する権利を確保する方法としては、(1)土地使用権を有するラオス国民からリースを受けるか、又はラオス政府からリース若しくはコンセッションを受ける方法、又は、(2) 投資法に基づく投資優遇措置として土地使用権をラオス政府から購入する方法が、法律上定められている。コンセッションとは、開発及び事業運営のため、法令に従いコンセッション契約を締結することによりラオス政府から付与される、ラオス政府の財産権の使用許可であり、一般にインフラ整備事業等の規模の大きな事業に用いられる場合が多い。
土地使用権を有するラオス国民から、外国投資家がリースを受ける場合、リース期間は、予定している事業やプロジェクトの特性・規模・条件に基づき定められるが、原則として最長30年である。かかる期間は、政府の承認に基づいて契約当事者間で合意することにより、延長することが可能である。また、建物が所在する土地等開発された土地について、一定の外国人・外国法人がラオス国民からリースを受けるためには、関連する政府機関からの承認の取得等が必要とされる場合がある。
ラオス政府から、外国投資家が土地のリース又はコンセッションを受ける場合、かかるリース・コンセッションの期間は、予定している事業やプロジェクトの特性・規模・条件に基づき定められるが、原則として最長50年である。かかる期間は、政府の決定により、延長することが可能である。
なお、本(1)の方法による場合において、当該土地が経済特区内に所在している場合には、リース期間は最長75年となり、この期間の延長には、国民議会の承認が必要となる。また、対象の土地が1万ヘクタールを超える場合には、リース・コンセッションを受けるためには、国民議会の承認が必要となる。
上記の方法で土地についてリース又はコンセッションを受けた外国人・外資系企業は、以下を遵守する必要がある。
かかる土地については、自ら使用するほか、(i) 資金調達のための担保としての利用、(ii) リース又はコンセッション契約の期間の範囲内でのサブリース等の利用が可能であるが、政府からの事前の許可の取得等の一定の条件が、土地法において付されている。
投資奨励法に基づく優遇措置の1つとして、登録資本金が500,000米ドル(約5100万円)以上の外国投資家は、事業のための住居又は事務所用の建物の建設を目的として、最大800㎡の土地使用権を、ラオス政府から割当てを受ける方法により購入する権利が付与される。ただし、実務上、割当ての具体的な手続等が明確でないため、本稿執筆時点では積極的に活用されていないようである。
上記2.に記載したとおり、外国人・外国資本によるラオスの土地の利用は、原則として、かかる利用を認めるラオス国民・ラオス政府の土地に関する財産権を前提としている。そして、登記が必要とされている財産権である土地使用権は、土地登記が完了した時に移転する。従って、特にラオス国民からリースを受ける場合には、その者が正当な土地使用権を有するか、当該土地に担保権が設定されていないか等を確認することが重要となる。その際には、以下のラオスの土地登記制度に依拠して確認を行うことになる。
ラオスにおける不動産の登記制度としては、建物について独立した登記制度は設けられておらず、土地登記制度のみが存在している。土地登記は、ラオス全土において統一的な方法により、個人又は法人が有する土地使用権を証する制度であり、土地登記簿に情報を記録することにより実施される。土地登記簿の主な記載内容は、以下のとおりである。
土地登記は、①当事者の申請又は②職権により行われる。当事者の申請に基づく場合、土地使用権の登記を求める当事者は、担当政府機関に対して、申請書を提出する。申請書を受け付けた土地管理局は、書面の内容を審査し、30日以内に申請者に対して応答する。提出書類に問題がない場合、土地管理局の担当者は、土地の測量を行い、土地区画図を作成し、登記証書を発行する。
次に、土地権原証書について紹介する。土地権原証書とは、土地使用権者に対してのみ発行される書類で、土地使用権の主要な証拠とみなされる唯一の書面である。かかる土地権原証書は、土地登記簿の記載に基づいて原則として一部のみ作成されて、土地使用権を有する者に手渡される。この者は、土地権原証書を長期の証拠として保持しなければならない。
以上より、ラオスにおいて土地に関する契約を交わす際には、登記簿の記載を確認するのみならず、相手方が土地権原証書を有していることも合わせて確認することが薦められるとことになろう。ただし、ラオスの特に地方部においては、土地権原証書が発行されていないのみならず、測量・登記が未済の区画が未だ残っているため注意を要する。
以上