タイにおける紛争解決
2016年12月26日更新
タイにおける紛争解決の選択肢として考えられるものとしては、①タイ国内の裁判所での訴訟、②タイ国内での仲裁、③日本を含むタイ国外の裁判所での訴訟、④日本を含むタイ国外での仲裁が考えられる。本稿では、上記①~④の紛争解決方法について概説する。
- 1.タイ国内の裁判所での訴訟手続
- (1) タイにおける司法制度
- (2) タイにおける民事訴訟手続
- ① 訴訟提起
- ② 争点整理手続
- ③ 証拠調べ手続
- ④ 判決
- (3) 留意点
- 2.タイ国内での仲裁手続
- (1) 総論
- (2) 仲裁合意
- (3) 準拠法
- 3.日本を含むタイ国外での裁判所での訴訟手続
- 4.日本を含むタイ国外での仲裁手続
タイの裁判所は、憲法訴訟を取り扱う憲法裁判所、民・刑事訴訟を取り扱う司法裁判所、行政訴訟を取り扱う行政裁判所、軍事関係者に関する刑事訴訟を取り扱う軍事裁判所の4種類が存在する。
タイの裁判制度は、①第一審裁判所、②控訴裁判所、③最高裁判所の三審制が原則である。ただし、破産事件、少年事件及び家庭事件、知的財産事件、労働事件、租税事件については特別裁判所が設置されており、①特別裁判所、②最高裁判所の二審制が採用されている。
訴訟の提起は、原告が裁判所に訴状を提出することによって行われる。被告は、原則として、訴状等の送達を受けた日から15日以内に答弁書を提出しなければならない。
続いて、裁判所は争点整理のための期日を指定する。タイにおける裁判長期化の問題は従来から指摘されてきたが、この争点整理手続に時間を要することが審理の長引く一因にもなっているようである。
裁判所は、争点整理手続終了後に、証拠調べ手続を行う。また、当事者は、証拠調べ手続終了後、証拠に基づく最終準備書面を提出することができる。
裁判所は、判決言渡しをするにあたり、法廷において口頭で告げるほか、判決書を作成して当事者に交付する。判決に不服がある当事者は控訴することができるが、控訴期限(判決言渡日から1カ月)に注意する必要がある。
訴訟手続に使用される言語は全てタイ語とされている。書証として外国語で作成された書面を提出する場合は、タイ語の翻訳とともに提出することが求められる。タイ語を話すことができない証人については、当事者が通訳を手配する必要がある。
タイにおける仲裁は、1985年国際商事仲裁に関する国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)モデル法に準拠した、タイ仲裁法(Arbitration Act B.E2545(2002))により規律される。
タイにおける仲裁機関は、タイ・ボード・オブ・トレード仲裁裁判所(BOT)と、タイ司法省仲裁室(TAI)である。
タイ国内での仲裁手続による紛争解決を行うためには、当事者間の書面による仲裁合意が必要である。
仲裁における準拠法は当事者間の合意によって決定されるが、当事者間の合意がない場合はタイの法律に従って仲裁が行われる。
タイには、外国判決の執行について規律する制定法上の規定が存在しない。また、外国判決の執行に関する二国間条約や多国間条約等も締結されていない。従って、日本の裁判所における判決をタイで執行することはできない。
タイでは、タイ仲裁法42条、43条及び44条に従い、外国仲裁廷での仲裁判断は拘束力あるものとして承認され、管轄権のある裁判所に申立てることにより執行することができる。但し、当該仲裁判断は、タイが加盟している国際間の条約、協定、合意に合致するものであり、タイが従うことを認めていることが必要である。
以上