ベトナムにおける外資規制

2016年4月25日

 ベトナムでは、2015年7月1日、大幅に改正された投資法が施行され、その具体的な実施内容を定める政令等の下位規範が徐々に揃いつつある。ただし、ベトナムにおける外資規制の具体的な内容を把握するためには、これらの法令の確認に加えて、予定している業務を所轄する監督官庁が定める法令やその実務上の運用についても合わせて確認をする必要がある。したがって、ベトナムへ進出する際や、ベトナムの会社を対象としてM&Aを行う際等、外国資本がベトナムで事業を実施し又はベトナムにおける事業に関与するにあたっては、以下で検討する投資法関連の外資規制に加えて、監督官庁の法令において個別の外資規制が定められていないかを確認し、必要に応じて当該規制当局と事前の折衝を行い、必要な許認可・ライセンスの種類・取得手続・必要書類を事前に把握しておくことが重要であると思われる。

 本稿では、1.根拠法令、2.外資規制の適用対象、3.規制対象事業について検討し、最後に4.資本金に関する規制について紹介する。

 なお、ベトナムにおいては、本稿で検討した外国人事業法に基づく外資規制に加えて、外資の不動産所有・外国人の就労等に関して制限が存在しているため留意が必要である。

  1. 1. 根拠法令
  2.  ベトナムにおける投資活動に対する一般的な規制を定める法令として、投資法(67/2014/QH13。以下「新投資法」という。)が存在している。同法は、旧投資法(59/2005/QH11)に代わるものとして、2014年11 月26 日に公布され、2015 年7 月1 日から施行されている。

  3. 2. 外資規制の適用対象
  4.  ベトナムにおいて外資規制が適用される「非内国経済組織」とは、外国人投資家である社員又は株主がいる企業等とされているが、その具体的な適用対象は、以下のとおりである。

     (i) 外国人投資家が定款資本の51%以上を保有する企業等

     (ii) (i)で定義した企業等が定款資本の51%以上を保有する企業等

     (iii) 外国人投資家及び(i)の企業等が定款資本の51%以上を保有する企業等

  5. 3. 規制対象事業
  6.  新投資法において改正された特徴的な点の1つは、国会で定めた投資法のみが、禁止分野や条件付分野を設定でき、政省令や地方の規則等で恣意的に追加的な制限を設定することはできないとされている点である。新投資法は、規制の対象となる事業分野として、(1)経営投資が禁止される事業分野、及び(2)経営投資に条件が付される事業分野の2つに分類して規定している。新投資法の下位規範である政令118/2015/ND-CP(「施行政令」という。)においては、(2)を細分化し、(2-1)経営投資一般に適用される条件と(2-2)外国人投資家に適用される条件に区別して規定している。以下、該当する事業の概要を順に紹介する。

  7. (1) 経営投資が禁止される事業分野
  8.  (a) 麻薬物質に関する事業

     (b) 化学物質・鉱物に関する事業

     (c) 絶滅のおそれのある野生動植物の種の国際取引に関する条約等に定められた絶滅のおそれのある希少な野生動植物の標本に関する事業

     (d) 売春事業

     (e) 人身売買、人の身体組織・部分の売買

     (f) 人の無性生殖に関連する事業

  9. (2-1) 付された条件を満たした場合に経営投資が可能となる事業分野
  10.  新投資法上、267の事業分野が、付された条件を満たした場合に経営投資が可能となる事業分野として規定されている。

  11. (2-2) 外国人投資家にのみ適用される条件が存在している事業分野
  12.  かかる事業分野については、新投資法及び施行政令上明示されておらず、計画投資省のウェブサイトにおいて公開されるものとされている。本稿作成時点における外国人投資家を対象とした条件が存在している事業分野の概要は以下のとおりである。

     (a) 専門的サービス(法務・会計・税務・建設サービス等)

     (b) コンピュー タ及びこれに関連するサービス

     (c) 研究開発サービス

     (d) 賃貸サービス(航空機・船舶・機械設備のリース等)

     (e) その他事業サービス(広告・調査・コンサルタント・製造に関するサービス等)

     (f) 通信サービス(郵便・電話等)

     (g) オーディオビジュアルサービス

     (h) 建築サービス

     (i) 通商サービス(流通・倉庫等)

     (j) 教育・職業訓練

     (k) 環境(下水・ごみ処理・環境影響評価等)

     (l) 医療・社会的サービス(病院・診療所・ヘルスケアサービス等)

     (m) 観光及びこれに関連するサービス

     (n) レジャー・文化・スポーツについてのサービス

     (o) 運輸サービス

     (p) 不動産業

     (q) 製品の製造・販売

     (r) 農業 ・林業・漁業

     計画投資省のウェブサイトにおいて公開されるこれらの事業分野は、施行政令によると関係省庁との連絡に基づきアップデートされると規定されているが、進出の際には計画投資省のウェブサイトのみならず、ベトナムで予定している事業を監督する所轄官庁に対しても規制の内容を確認することが必要であると思われる。

  13. 4.資本金に関する規制
  14.  ベトナムにおける出資比率の制限は、主として(1)国内資本・外国資本を問わず一定の事業分野について法定の資本金額の保有を要求するもの、及び、(2)一定の事業について外国資本の出資比率を制限するものの2つに分けられる。

  15. (1) 法定資本金額が定められている事業分野
  16.  ベトナムにおいて事業を営む場合に、一定の資本金を保有することが求められている主な事業分野は、以下のとおりである。

     (i) 一定の通信業

     (ii) 郵便事業

     (iii) 空運事業

     (iv) 空港の経営

     (v) 空港関連サービス業

     (vi) 人材紹介業

     (vii) 労働者派遣業

     (viii) 研修生の海外派遣業

     (ix) 警備サービス業

     (x) 一定の観光事業

     (xi) 映画の制作

     (xii) 不動産業

     (xiii) 一定の銀行業・金融業

     (xiv) 一定の証券業

     (xv) 保険業

     (xvi) 債権回収業

  17. (2) 外国資本の出資比率の制限が定められている事業分野
  18.  ベトナムにおいて事業を営む場合に、外国資本の出資比率の制限が定められている主な事業分野は、以下のとおりである。

     (i) 道路運送業

     (ii) 鉄道運送業

     (iii) 海運業

     (iv) 国内水運業

     (v) 一定の船荷の積み下ろしサービス業

     (vi) 一定の通信事業

     (vii) 一定のネットワークサービス業

     (viii) ウェブコンテンツの作成等の付加価値サービス業

     (ix) 映画の制作・配給・上映

     (x) 電子ゲームセンター

     (xi) 娯楽サービス業

     (xii) 旅行代理業及びツアー手配業

     (xiii) 一定の銀行業・金融業

以上