アラブ首長国連邦(UAE)の外資規制について
2017年7月19日更新
- 概要
- 1.UAEにおける外資規制の主な内容
- (1)出資比率規制
- (2)規制業種
- (3)最低資本金規制
- 2.フリーゾーン会社の特徴と規制
- 3.オンショア法人における支配権の確保
- 4.まとめ
本サイト・アラブ首長国連邦(UAE)「現地法人の運営(会社法)」に掲載の「アラブ首長国連邦(UAE)の商事会社法改正について」では、国外からの投資の促進を目的として行われた2015年のUAE会社法改正について述べました。その中で、この改正によってコーポレートガバナンスの強化等の投資促進措置は採用されたものの、従前の外国資本の出資比率に関する規制は維持されたことに触れました。本稿では、1.かかる出資比率規制を含むUAEの主な外資規制の内容について概説し、その後、2.出資比率規制が適用されない、いわゆるフリーゾーン会社の特徴と規制、及び、3.出資比率規制が適用されるオンショア法人における支配権の確保の方法について検討します。なお、UAEにおける外国資本の不動産投資についても一定の制限が設けられておりますが、かかる不動産投資に関する外資規制については、後日、別稿で検討する予定です。
UAEにおける外資規制の中で最も重要で投資に影響が大きいものは、UAEで設立された会社は、原則としてその持分のうち51%以上を、UAE国民やUAE国民が100%出資する法人等によって保有されていなければならないという外国資本の出資比率規制です。すなわち、外国資本は、原則として、UAEの会社の49%までしか持分を保有することができません。この出資比率規制は、業種・事業内容・法人規模などを問わず広く適用されますが、以下のいくつかの適用除外が定められています。
まず、かかる出資比率規制は、会社法(UAE Commercial Companies Law)によって規定されていますが、この会社法は、UAEのフリーゾーン内で設立されたいわゆるフリーゾーン会社には適用されず、それ以外の会社(オンショア法人と呼ばれます。)にのみ適用されます。したがって、フリーゾーン会社については、外国資本が100%出資をすることが可能です。
また、UAE国外に本社を有する外国企業がUAE国内に支店や駐在員事務所を置く場合には、上記の出資比率規制は適用されません。ただし、この場合、UAE国民またはUAE国民が100%出資する法人を「Service Agent」(いわゆるスポンサー)として任命し、また、経済省(Ministry of Economy)に外国企業登記をする必要があります。
UAEにおいては、会社法の改正が完了した現在も、外国投資規制を緩和し、産業界における技術の革新と移転を促進する目的で、オンショア法人の100%外国資本保有を許容するための議論が続けられています。
UAEにおいては、多くの業種が外国資本に解放されていますが、商業代理店、労働者供給、高齢者及び障害者サービス、印刷出版業等の業種の一部については、UAE国民またはUAE国民が100%出資する法人が、当該事業を行う法人の100%の持分を保有することが求められている場合があり、この場合、外資が当該事業に出資を行うことはできません。
また、医療サービス、情報通信、教育、石油・ガス、製造業等の業種については、外資が事業活動を行うにあたって、所轄官庁の承認や特別のライセンスの取得が求められる場合があります。
従って、多くの業種が外資に開放されているといわれているUAEにおいても、現地で予定している業種については、外資が当該事業を行うことの可否やライセンス等の要否を、経済省(Ministry of Economy)や所轄官庁又は法律事務所等に、事前に確認しておくことをお勧めいたします。
従前は、UAE本土で設立されたLLCについては最低資本金額が15万ディルハム(約453万2000円)とされ、ドバイでは実務上30万ディルハム(約906万4000円)とされていた従来の最低資本金額の制限については、2015年の改正会社法上は、例えばLLCについては、会社法は「当該法人の目的を達成するに十分な資本金を有する必要がある」と定めるのみで、具体的な金額を規定していません。
しかし、現在も、実務上は、上記の従来の最低資本金の拠出が、ライセンス取得の際等に求められる可能性がある点には、十分な留意が必要です。
フリーゾーン会社は、外国資本100%での設立・設置が認められています。また、フリーゾーン内に設置された外国企業の支店及び駐在員事務所は、「Service Agent」の任命が免除されます。
このフリーゾーン会社に対しては、法人税及び所得税の設立後最低50年間の免除、関税の免除、資本及び利益の本国送金の自由等の手厚い投資優遇措置が採られています。
もっとも、フリーゾーン会社は、原則として、それぞれ設立が認められたフリーゾーン内での取引及びUAE国外との国際取引のみが許され、UAE本土において活動することはできません。ただし、2015年の改正会社法で、フリーゾーン外での活動が許可されたフリーゾーン会社への会社法の適用が明記されましたので、UAE本土におけるフリーゾーン会社の活動に関する今後の規制緩和が期待されます。
UAE本土での事業展開を検討する場合には、上記のとおり現在のところフリーゾーン制度を利用することはできませんので、支店設置等で間に合う場合を除けば、オンショア法人を設立することになります。この場合、前述のとおり、UAEのローカルパートナーに51%以上の持分を与えなければなりません。
このようにローカルパートナーが過半数の持分を有する現地法人を設立した場合に、いかにして、少数派である本国(日本等)側のコントロールを及ぼすかという点が、現地法人運営上の重要な課題となります。
その具体策としては、①定款において株主総会の決議要件を厳しくするスーパー・マジョリティ条項を規定する手法や、②本国の社員(持分権者)とUAE国民の社員との間で別途合意を交わし、UAE国民の社員の利益配当受給権の全てまたは大部分を本国の社員に付与する手法などが一般的です。
また、2015年の会社法改正によって、LLCにおいては、定款に定めることで持分の譲渡制限が可能となったほか、株式会社形態においても、種類株式の発行が可能になり、少数株主の保護制度も導入されたことから、これらの改正規定を活用して、様々な工夫を凝らすことにより、これまでよりも実効的なコントロールの維持が可能になるものと思われます。
以上のとおり、会社法改正後も維持された外資出資比率規制を中心に見てきましたが、今現在もこの規制の撤廃に向けた議論は継続されており、同時に、フリーゾーン会社の活動範囲制限の撤廃に向けた条件整備も進められていると言われています。投資先としてますます注目を浴びているUAEの動向からは今後も目が離せません。
以上