トルコにおける外資規制及び投資インセンティブについて
平成29年8月28日更新
- 1.はじめに
- 2.外資規制
- (1)外国直接投資法の適用対象
- (2)外資規制の概要
- (3)国・地域ごとの国際条約
- 3.投資インセンティブの概要
- (1)4つの投資インセンティブ・スキーム
- 【地域投資インセンティブ】
- 【大規模投資インセンティブ】
- 【戦略的投資インセンティブ】
- ・最低投資額:5000万トルコリラ
- ・生産する製品が過去1年間に金額ベースで5,000万米ドル以上輸入されていること。
- ・投資による製品の生産量は、同製品の輸入量より少ないこと。
- ・投資により40%以上の付加価値を生み出すこと。
- 【一般投資インセンティブ】
- (2)その他の投資インセンティブ
- (3)小括
- 4.まとめ
トルコは資本自由化という側面において比較的進んでおり、国内外の投資家に対する平等的取扱いを志向する理念が法律上も明記されています。
また、トルコへの直接投資を検討する外国投資家にとって、各種租税の減免や補助金等の投資インセンティブを受けることができるかどうかも、重要な判断要素となります。
そこで、本稿では、トルコの外資規制について検討した後、投資インセンティブ・スキームの全体像を簡単に紹介します。
トルコの外資規制について規律している主要な法令は、外国直接投資法(法4875号)及び同法施行規則です。
同法の適用範囲を画する「外国投資家」とは、①外国籍の自然人、②国外に居住しているトルコ国籍の自然人、③外国法令に準拠して設立された法人、及び、④国際機関と定義されています。
また、同法が規定する「外国直接投資」とは、外国投資家が、経済的な資産を用いて行う、①新たな法人又は外国会社の支店の設立、②株式市場を通じたトルコ企業の株式の10%以上の取得、又は③株式市場以外でのトルコ企業の株式の取得と整理をすることが出来ます。
なお、外国投資家によるトルコ企業の株式取得については外国投資総局に対する事後報告制度が設けられており、取得日から1か月以内に届け出る必要があり、また、当該トルコ企業は、外国投資家が設立した会社・支店と同様に、会社の資本及び事業内容について年次の届出が必要となる点には、留意が必要です。
トルコへの投資活動が「外国直接投資」に該当する場合、①かかる外国直接投資を自由に行うことができること、②外国投資家はトルコの国内投資家と平等に取り扱われるべきこと、③外国直接投資は国有化・没収されないこと、④外国投資家は投資の利益等を国外に自由に移転できること等が、外国直接投資法において原則として保障されます。
ただし、一部業種については、個別法に基づく外資規制が設けられているため留意が必要です。その主な内容を以下の表に整理しました。
業種 | 規制態様 |
---|---|
放送 | ・外資比率は、最大で50% ・同一外国投資家による複数企業への投資不可 |
鉄道 | ・外資参入不可 |
海運 | ・外資比率は、最大で49% |
港湾管理 | ・外資比率は、最大で49% ・会社の代表者等の過半数はトルコ国民 |
空運 | ・外資比率は、最大で49% ・会社の代表者等の過半数はトルコ国民 |
空港業務 (地上支援) |
・外資比率は、最大で49% ・会社の代表者等の過半数はトルコ国民 |
空港業務 (空港管理) |
・空港管理業務のライセンスを取得するためには、トルコ軍の許可が必要 |
石油 | ・石油法第12条の要件を充足 |
加えて、金融分野・通信分野等の一定の事業分野については、所轄官庁の事前の承認を取得することが求められる場合があります。
従って、実際にトルコへの進出を検討する場合や、トルコの会社を対象としてM&Aを行うにあたっては、最新の法改正や運用状況に注意を払うと共に、予定している業務を所轄する監督官庁の法令において個別の規制が定められていないかを確認し、必要に応じて当該規制当局と事前の折衝を行い、必要な許認可・ライセンスの種類・取得手続・必要書類を事前に把握しておくことが重要だと思われます。
上記に加えて、トルコにおいては、投資促進・保護のための二国間協定、二重課税防止条約、社会保障協定、関税同盟協定、自由貿易協定等が多くの国々との間で締結されているため、これらの内容ついては、別途、留意する必要があります。
トルコでは、2012年から、「新投資インセンティブ・プログラム」と呼ばれる以下の4種類の投資インセンティブ・スキームを用意し、外国投資家の誘致を図っています。
地域投資インセンティブとは、後発地域への投資を促進するために、地域の発展レベル等に応じて6段階に区分されたトルコの地域毎に設定されたインセンティブを言います。
地域投資インセンティブは、①付加価値税の免除、②関税の免除、③法人税の減税、④社会保険料(使用者負担分及び被用者負担分)の補助、⑤支払金利の補助、⑥土地の割当・分配、⑦被雇用者所得税の補助というオプションの組み合わせから成りますが、上述の投資対象地域の区分に応じて減税率や補助期間等が異なります。
大規模投資インセンティブとは、トルコの競争力、技術力、研究開発力の向上に資すると認められる12の産業分野(石油製品、化学製品、自動車、鉄道、輸送パイプライン、医薬品等)について設定されたインセンティブを言います。
大規模投資インセンティブのオプションは、前記の地域投資インセンティブとほぼ同じですが、⑤支払金利の補助は認められていません。こちらのインセンティブの内容も、6段階の投資対象地域の区分に応じて減税率や補助期間等が異なります。
戦略的投資インセンティブとは、以下の要件等を満たす戦略的投資に対して認められるインセンティブを言います。
戦略的投資インセンティブのオプションは、地域投資インセンティブのそれに加えて、⑧付加価値税の払い戻しが認められています。
一般投資インセンティブとは、上記のいずれの投資インセンティブ・スキームの範囲に含まれない投資を対象とするもので、一定の条件及び最低投資額を満たす全ての投資案件に適用されるインセンティブを言います。
一般投資インセンティブの内容は、①付加価値税の免除、②関税の免除のみとなっています。
上記のほか、トルコにおける重要な投資インセンティブとしては、2016年に導入されたプロジェクトベースの投資インセンティブ、研究開発分野に関する投資インセンティブ、フリーゾーンにおける投資インセンティブ、組織化工業団地(Organized Industrial Zone: OIZ)における投資インセンティブ、再生可能エネルギーに関するインセンティブ、中小企業向けインセンティブ等、様々な優遇措置が設けられております。
トルコは、2006年に、外国資本の誘致を目的とするトルコ投資促進機関を設置し、東京にも同事務所を設けて問い合わせに対応しています。
トルコ進出にあたっては、このような関係当局や専門家との十分な協議を経たうえで、各種投資インセンティブの活用の可否及び効用について検討することが必要不可欠であると言えます。
以上、トルコの外資規制及び投資インセンティブについて簡単に俯瞰をしました。日ト間では2014年からEPAの交渉が継続しており、先に述べた二国間協定の存在という観点からも、この交渉の行く末は日系企業の投資に影響を及ぼすと思われます。昨今の政治情勢と併せ、今後のトルコの動向には引き続き注視が必要であると言えます。