カタールにおける新仲裁法について
平成30年4月16日更新
- 1.はじめに
- 2.新仲裁法の特徴
- 3.新仲裁法の主な内容
- (1) 仲裁合意
- (2) 仲裁人及び仲裁廷の構成
- (3) 暫定的措置を命じる仲裁廷の権限
- (4) 仲裁手続
- (5) 仲裁判断
- (6) 仲裁判断の訂正及び不服申立て
- (7) 仲裁判断の承認及び執行
カタールでは、2017年3月13日、民事及び商事に関する仲裁法が公布されました(以下「新仲裁法」といいます。)。
従来、カタールにおける仲裁については、民事及び商事訴訟に関する法律(以下「旧法」といいます。)190条から210条に規定がありましたが、新仲裁法は、これらの規定及び新仲裁法と抵触するあらゆる法律の規定に優先するものとされています。
旧法は、条文数も少なく、内容としても仲裁手続に対する裁判所の広範な権限を認めるなど国際的な水準とは乖離した外国企業にとっては利用し難いものでしたが、新仲裁法は、国際的に広く承認され各国の仲裁法のモデルとして用いられている、UNCITRAL国際商事仲裁モデル法(1985年6月21日採択。以下「モデル法」といいます。)に基づき、モデル法の規定と同一又は類似の規定を多く含んでいます。そのため、新仲裁法に基づく仲裁は、カタールにおける紛争解決手段に関するホットトピックの一つとなっています。
そこで、本稿では、カタールにおける新仲裁法の概要についてご紹介致します。
新仲裁法では、モデル法の内容に大幅に依拠しつつ、旧法において定めのなかった事項及び規定が不十分であった事項について、明示的な規定を設けています。特徴的な事項としては、以下を挙げることができます。
①仲裁合意の有効要件
②仲裁判断の承認、執行、異議申立の制度
③暫定的措置を命じる仲裁廷の権限
④仲裁手続(仲裁地、言語、専門家の選任方法等)の決定についての当事者の権限
⑤カタール司法省(Ministry of Justice)にある認定仲裁人のリストを含む、仲裁人の選任手続
以下では、上記のような新仲裁法の主な特徴を中心に、新仲裁法の規定内容について、概観していくことと致します。新仲裁法は、多くの点でモデル法に準拠していると言えますが、仲裁人の選定条件など、いくつかの主要な点においてモデル法とは異なる定めを規定していますので、特に留意が必要です。
新仲裁法は、仲裁合意の有効要件として、概要、以下のような内容を定めています。①法人か自然人か否かを問わず、法的能力を有する当事者間における合意であること、及び、②書面によりなされていることです。
もっとも、②の要件については、書面又は電磁的文書により、当事者間で伝達の記録があるような場合等、当該仲裁合意を書面によりされたものとみなすことができる場合があります。
仲裁人について、モデル法では、国籍を含め、その選定条件に関する定めは置かれていませんが、新仲裁法では、仲裁人は、原則として、カタール司法省の有する、仲裁人登録者として認定された仲裁人のリストの中から選定されなければならないとされています。
また、仲裁人の数は、当事者間での別段の合意がないかぎり、3人とされています。
新仲裁法は、当事者間における別段の合意がないかぎり、仲裁廷は、一方当事者による申立てにより、暫定的保全措置を講ずることができる旨を定めています。モデル法と同様、仲裁廷は、当該暫定的保全措置による他方当事者が被る損害を補償するため、申立当事者に対し、相当な担保の提供を求めることができます。
仲裁廷は、当事者を公平かつ平等に扱わなければならず、各当事者に対して、その主張、反論を行う十分かつ平等な機会を与えなければならないとされています。
また、モデル法と同様に、当事者は、仲裁廷で採用される証拠の準則を含む、当該仲裁における手続準則を合意により定めることができます。当該合意がない場合には、仲裁廷は、適当と認める方法により仲裁手続を進めることができますが、これには、仲裁廷が証拠の許容性、関連性、および重要性について判断する権限を有することも含まれています。
さらに、当事者は、仲裁地について合意することができます。仲裁地についての合意がない場合には、仲裁廷は、紛争に関する事情や当事者の利便を考慮し、仲裁地を決定します。また、仲裁手続で用いる言語についても、当事者は原則として自由に定めることができます。
当事者が別段の合意をしないかぎり、仲裁手続は、その紛争を仲裁に付すべき申立てを被申立人が受領した日に開始されることになります。
仲裁判断は、モデル法と同様に、書面により作成し、仲裁人が署名しなければならないとされています。複数の仲裁人による仲裁廷の場合には、過半数の仲裁人の署名があれば足りますが、仲裁判断中に、仲裁人の署名が欠けている理由を記載する必要があります。
仲裁判断には、当事者による別段の合意などの例外を除き、理由を付さなければならないとされています。
また、当事者間における別段の合意がないかぎり、仲裁判断においては、仲裁費用をいずれの当事者がどの程度負担するかについても記載されます。
仲裁判断における計算違い、誤記等の誤りがあるときは、当事者間で別段の合意がないかぎり、当事者の一方は、他方当事者に通知して、仲裁廷に対し、申立てにより、仲裁判断の訂正を求めることができます。この場合、当事者は、仲裁判断の通知を受け取った日から、7日以内に訂正の申立てをしなければならないとされています。この点、モデル法の場合(30日以内)と比べて、期間が大幅に短くなっている点に留意が必要です。
また、仲裁判断の取消しは、管轄裁判所に対して、取消しの申立てをすることによってのみすることができます。申立ては、新仲裁法33条2項に定める事由があることを示す証拠を申立人が提出した場合にのみ認められます。ここで、新仲裁法33条2項に定める事由は、仲裁合意の当事者が契約時に法的能力を有していなかった場合など、モデル法34条に掲げる事由と類似しています。
もっとも、取消しの申立ては、原則として、仲裁判断の写しの交付の日から1か月以内にしなければならず、モデル法の定める期間よりも大幅に短くなっているという違いがありますので、留意が必要です。
当該申立てに対する管轄裁判所の判決は、最終的なものであり、更なる取消しの申立てをすることはできないとされています。
仲裁判断は、確定判決と同一の効力を有し、執行することができます。仲裁判断の執行を求める当事者は、管轄権を有する裁判官に対し、仲裁合意の写しや仲裁判断の写しを添えて、執行の申立てをします。
仲裁判断の承認及び執行は、仲裁合意時に法的能力を有していなかったなど、新仲裁法35条1項所定の事由に該当しないかぎり、拒否されることはないと定められています。ただし、同条2項では、①紛争の対象事項がカタールの法律の下では仲裁可能なものでなかった場合、又は、②仲裁判断の承認及び執行が公の秩序又は善良な風俗に反する場合には、管轄権を有する裁判官は、自身の裁量により、仲裁判断の承認及び執行を拒否することができると定められております。
また、仲裁判断の執行を命じる判断及び不執行を決定する判断に対しては、当該判断が発せられた日から30日以内に管轄裁判所に対して不服申立てをすることができます。
以上