トルコにおける知的財産権について
平成31年3月14日更新
- 1.はじめに
- 2.特許権
- ① 保護対象
- ② 登録拒否事由
- ③ 保護期間
- ④ 保護適格者
- ⑤ 出願手続
- ⑥ 審査請求手続
- ⑦ 異議申立手続
- ⑧ 特許料の支払
- 3.実用新案権(特許権との相違点)
- 4.著作権
- ① 保護対象
- ② 保護期間
- ③ 任意的な登録・記録手続
トルコは、1990年代に欧州連合(EU)との間で関税同盟を締結して以降、自国の知的財産権法を欧州各国と整合させることに多大な努力を払ってきました。
現在、トルコにおける主要な知的財産権としては、特許権、実用新案権、商標権、意匠権、著作権等があり、これらを保護する主要な知的財産権法として、工業所有権法(法第6769号)及び知的・芸術的著作物に関する法律(法第5846号)が整備されています。
トルコは国際的な動向にも注意を払っており、工業所有権の保護に関するパリ条約、文学芸術作品の保護に関するベルヌ条約、標章の国際登録に関するマドリッド協定議定書、特許協力条約(PCT)、欧州特許条約(EPC)等、多くの知的財産権に関する国際条約に加盟しています。
本稿では、紙面の都合上、かかるトルコの知的財産権制度のうち、特許権、実用新案権、著作権に絞って、概説致します。
特許権は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性を有する発明について認められます。
新規性の有無は、当該発明が既存の技術水準に含まれているかどうかにより判断されます。一般に利用可能であり、かつ、出願日前に、書面その他によってトルコ国内外を問わず公表され、又は、公知となった技術は、新規性を有するとは認められません。また、自身の出願日以前に出願された別の出願内容、及び、自身の出願日又はそれ以降に出願され公開された別の出願内容については、既存の技術水準に含まれることになります。
但し、日本の特許法と同様に、新規性喪失の例外も定められています。例えば、発明者による開示が行われた場合は、当該開示が行われてから12カ月間は新規性が失われません。
上記の要件にかかわらず、特許権を付与するにはふさわしくないと解されている以下のものは、特許権の対象となる「発明」から除外されています。すなわち、①発見、科学的理論及び数学的方法、②精神活動、事業活動又は遊戯に関する計画、ルール若しくは方法、③コンピューター・プログラム、④審美的創作物、純文学、手工芸品、学術論文、⑤情報の提示は、いずれも発明には該当しません。
手術手法、④遺伝子配列等人体の一部についての発見、⑤クローン技術等については、特許の対象とはなりません。
特許権は、出願日から20年間存続します。
工業所有権法(法6769号)による保護を受けることができる者は、①トルコ国民のほか、②トルコ国内において居住し又は工業的若しくは商業的活動に従事している自然人又は法人、③パリ条約等に基づき出願する権利を有する者、④相互主義に従ってトルコ国民に工業所有権に係る保護の恩恵を与えている国の国民が挙げられます。
出願方法には、大きく分けて2通りがあります。1つはトルコ特許商標庁に対して国内出願を行う方法であり、もう1つはPCT出願等を通じた国際出願を行う方法です。また、トルコはパリ条約にも批准しているため、パリ条約の優先権(トルコでの特許出願において、新規性や進歩性の判断に関し、日本等トルコ国外での出願日をもって出願されたものと同等の取扱を受ける権利)を活用することも可能です。
トルコ特許商標庁への国内出願を選択する場合、出願の必要書類はトルコ語で作成する必要があります。パリ条約等の加盟国の言語で作成することも認められていますが、その場合は、トルコ語の翻訳文を提出する必要があります(出願日から2カ月以内)。
出願者は出願から2カ月以内に出願通知書を受け取ることになります。また、出願者は、出願日から12カ月以内に、出願の新規性に関して、既存の技術水準に係る調査請求を行う必要があり、これを怠った場合には出願の取下げが擬制されます。
トルコ特許商標庁が前述の調査請求に関して出願が要件を充たしていると判断する場合には、出願者に対して調査報告書が通知され、その内容が公告されます。出願者は、かかる通知を受けてから3カ月以内に審査請求を行わなければなりません。これを行わないときは、特許出願の取下げが擬制されます。
また、出願者には、審査請求手続において意見を述べる機会が付与されますが、かかる審査請求手続において特許付与が不相当であると判断されるに至った場合、出願は拒絶されます。
第三者は、特許権を付与する決定が公開された日から6カ月以内に、異議申立てを行うことができます。かかる異議申立てはトルコ特許商標庁に設置されている再審査機関において審理・判断されます。
特許権者は、特許出願日から3年を経過した日以降、毎年、特許権を維持するための特許料を支払う必要があります。
特許権と実用新案権は、発明又は考案について新規性及び産業的な利用可能性のある発明を保護対象とする権利である点で共通しています。
もっとも、実用新案権を取得するための条件は、特許権を取得するための条件に比べて、緩和されたものになっています。すなわち、特許権を取得するためには発明が進歩性を有している必要がありますが、実用新案権については、かかる要件は必要とされていません。
また、保護期間も異なります。前述のとおり、特許権の保護期間は20年間ですが、実用新案権の保護期間は10年間とされています。
トルコにおける著作権は、創作者の特性を有する知的・芸術的作品について認められます。知的・芸術的著作物に関する法律(法第5846号)では、①文学的及び科学的創作物、②音楽的創作物、③美術的創作物、④映像的創作物の4種類に分類されています。一定のコンピューター・プログラムは①に含まれます。
著作権侵害行為に対しては、日本と同様、民事及び刑事上の制裁が定められています。
著作権の保護期間は、原則として、創作者の創作により開始し、創作者の死後70年間存続します。
著作権は創作と同時に自動的に発生するため、特許権や実用新案権のように、保護を得るために格別の登録手続を履践する必要はありません。
もっとも、著作権者は、トルコの文化観光省の一部門である著作権総局、公証役場、電子認証サービスを提供している企業において、任意に登録したり、記録を作成したりすることができます。
著作権総局での登録手続においては、著作物及び創作・公開日等の当該著作物の詳細を提出する必要があります。かかる登録手続は、著作物の権利関係及び創作日を特定するもので有力な証拠としての価値を有します。
公証役場での手続においては、当該著作物を公証役場に提出して、日時の記録と共に法的な認証印を取得することになります。
電子認証サービスを提供している企業における手続においては、システムを利用して各文書に日時を証する時刻印(タイム・スタンプ)を取得することになります。かかるタイム・スタンプは、電子署名法(法第5070号)に基づく法的に有効なものであり、当該文書が変更されていないことを証する証拠として用いることができます。
以上