UAEにおける知的財産権について
平成31年4月19日更新
- 1 はじめに
- 2 特許権
- (1) 保護対象
- (2) 登録不許可事由
- (3) 保護期間
- (4) 出願手続
- 3 商標権
- (1) 保護対象
- (2) 登録不許可事由
- (3) 保護期間
- (4) 出願手続
- 4 著作権
- (1) 保護対象
- (2) 保護期間
- (3) 任意的な登録手続
UAEにおいて、知的財産権を保護するために初めて法令が制定されたのは、比較的新しく、1992年です。同年、商標に関する法律(1992年連邦法37号。その後の改正を含み、以下「商標法」といいます。)、著作権及び著作隣接権に関する法律(同年連邦法第40号、その後の改正を含み、以下「著作権法」といいます。)、及び、特許・意匠の規制・保護に関する法律(同年連邦法第44号。その後の改正を含み、以下「特許・意匠法」といいます。)、及び制定されました。これ以降、UAEにおける主要な知的財産権である、特許権、意匠権、商標権、及び著作権が、制定法によって保護されています。
また、UAE は、WTO 及びTRIPS 協定(Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights:知的財産権の貿易関連の側面に関する協定)の署名国であり、PCT(Patent Corporation Treaty:特許協力条約)とパリ条約の両方の締約国です。さらに、UAE は、バーレーン、クウェート、オマーン、カタール及びサウジアラビアとともにGCC (Gulf Cooperation Council:湾岸協力会議)にも加盟しています。
本稿では、紙面の都合上、かかるUAEの知的財産権のうち、特許権、商標権、著作権に絞って、概説致します。
発明が特許を受けるためには、新規性、進歩性があり、産業上利用可能な発明でなければなりません。
新規性については、当該発明が、先行する産業上の技術において既に存在しているものでない場合に、認められます。
進歩性は、当該発明に関する先行する産業上の技術に基づいて、通常の専門家が容易に発明できない場合に、認められます。
産業上の利用可能性については、最も広義における産業分野において、当該発明を使用又は利用することができる場合に認められるとされています。
上記の要件にかかわらず、以下のものは、特許権の付与される対象から除外されています。
(a) 植物品種、動物種又は植物若しくは動物を生産する生物学的方法。ただし、微生物学的方法及びその生産物は除く。
(b) 人及び動物に必要な、診断の方法、治療及び外科手術。
(c) 科学上及び数学上の原理、発見及び方法。
(d) ビジネスを実施し又は精神的な活動若しくはゲームをするための指針、ルール及び方法。
(e) 公の秩序又は善良の風俗の違反を導く可能性のある発明。
特許権は、出願日から20年間存続します。ただし、出願の申請書を提出した翌年から、各年度の初めに各年の費用を支払う必要があります。
ア 種類
出願方法には、大きく分けて3通りあります。1つはUAEの経済省知的財産保護局(IPPD)に対して国内出願を行う方法、2つ目は特許協力条約(PCT)を経由した国際出願を行う方法、3つ目はGCC特許庁(サウジアラビアのリヤドに所在)に出願を行う方法です。GCC特許庁で手続を進めた場合、当該特許権は、GCCの加盟国全域において、UAEで登録された特許権と同様に保護されることとなります。
IPPDへ出願を行う場合は、アラビア語で記載された書面の提出を要し、明細書、クレーム及び要約についてはアラビア語に加え英訳も添付する必要があります。以下では、1つ目の国内出願の手続について説明します。
イ 審査
出願後、出願書類は、特許・意匠法等に定められた要件を充たしているかどうか、審査に付されることとなります。出願人は、出願料を支払った後であれば、承認を得た後、出願内容を補正し、又は、変更することができます。また、委任状や登記簿謄本等の一定の書類については、出願日から90日以内に提出する必要があります。
ウ 拒絶、不服申立
審査の結果、出願が、特許・意匠法等に定められた要件を充たしていないと判断された場合には、当該出願は拒絶され拒絶事由が通知されます。かかる通知から60日以内に、出願人は、当該拒絶に対して不服申立てを行うことができます。
エ 出願公開、異議申立、特許権の付与
審査の結果、出願が、特許・意匠法等に定められた要件を充たしていると判断された場合、特許付与の決定が行われ、出願内容が公開されます。利害関係人は、上記の出願内容の公表から60日以内に、異議申立てを行うことができます。かかる期間内に異議申立てがなされなければ、出願人に対して特許権が付与されます。
商標とは、①産地にかかわらず商品、製品若しくは役務を識別するため、②商品・製品の製造、選別若しくは取引によって当該標章の所有者に当該商品・製品が帰属することを示すため、又は、③役務が実施されていること示すために、使用され又は使用が意図されている名称、語句、署名、文字、数字、図、シンボル、タイトル、品質証明印、印影、絵、刻銘、広告、包装その他の標章またはこれらの組み合わせによって識別可能な形態のあらゆるもの、とされています。
商標登録を認められない標章としては、主に以下のようなものがあります。
(a) 識別力のない標章
(b) 公の秩序又は善良の風俗を害する標章
(c) 国家、アラブ組織、国際機関等又は外国に関する公的記章、国旗その他のシンボル又はこれらを模倣したもの
(d) 他人の名前、氏姓等を含む標章(但し、その他人又は遺族の同意を得た場合は除く)
(e) 公衆に誤認を生じさせる恐れがある標章
商標権の存続期間は出願の日から10年ですが、更新をすることができます。かかる存続期間の満了後3ヶ月以内に更新の申請を行わなかった場合、当該商標は、自動的に登録簿から抹消されます。
ア 審査
出願後、出願書類は、商標法等に定められた要件を充たしているかどうか、審査に付されることとなります。例えば、同一区分に属する既存の登録商標と同一又は類似の商標は、商標登録が認められません。また、他の既に登録された商標との混同を防止する観点から、制限が加えられたり、出願内容の修正が求められたりする場合もあります。
イ 拒絶、不服申立
審査の結果、出願が、商標法等に定められた要件を充たしていないと判断された場合には、当該出願は拒絶されます。かかる拒絶の通知から30日以内に、出願人は、当該拒絶に対して不服申立てを行うことができます。
ウ 公告、異議申立、商標権の付与
審査の結果、出願が、商標法等に定められた要件を充たしていると判断された場合、出願日から30日以内に、当該商標の登録に関する決定が行われると定められています。当局に承認された商標は、登録前に、公報及びUAEで発行されている二紙の新聞において公告されます。利害関係人は、最後の公告の日から30日以内に、異議申立てを行うことができます。
著作権の対象となる著作物とは、文学、芸術、科学の範囲に属する創作物であり、その描写、伝達・表現の方法、価値または目的を問いません。著作権法においては、保護の対象となる著作物のカテゴリーが、合計で12種類、列挙されています。
著作権は、日本と同様、何らの登録等の手続を経ずに、著作者の創作により自動的に発生しますが、著作権侵害に対してUAE国内において法的な保護を求める場合には、以下の?に記載した著作権の登録をしておくことで、より十分な保護を受け得る可能性が高くなります。
著作権の保護期間は、著作物の創作により開始し、原則として、その後、著作者が死亡した年の翌年の元日から起算して50年後まで存続します。
著作権は創作と同時に自動的に発生するため、特許権や商標権のように、保護を得るために格別の登録手続を履践する必要はありません。
もっとも、著作権者は、所轄官庁において、著作権の登録をすることができます。かかる著作権の登録は、当該著作物についての情報を公示し参照することができるにとどまり、権利を公示するものではありません。しかし、将来著作権侵害が発生した際に、登録されている情報を証拠として利用することができるため、権利侵害等についての立証負担の軽減をはかることができると考えられます。
著作権の登録は、申請書に必要な書面(申請者の情報、著作物のサンプル等)を添付して、登録の申請を行います。登録後は、当該著作権の登録に係る証明書が発行されます。
以上