サウジアラビアにおける知的財産権について(1)
令和元年6月22日更新
- 1 はじめに
- 2 特許権
- (1) 国際条約の加盟状況
- (2) 保護対象
- (3) 保護適格者
- (4) 出願手続
- (5) 方式審査
- (6) 出願公開
- (7) 実体審査
- (8) 優先権
- (9) 特許料
- (10) 保護期間
- (11) 拒絶査定に対する不服申立て
- (12) 異議申立手続
- 3 意匠権
- (1) 特許権に関する規定の準用
- (2) 実体審査の不存在
- (3) 優先権
- (4) 手数料
- (5) 保護期間
サウジアラビアには、特許権、意匠権、商標権、著作権の各知的財産権制度が存在し、それぞれの権利を保護する法律が定められています。
他方で、我が国における実用新案権に相当する法制度は存在しません。
本稿では、このうち、紙幅の関係から、特許権制度、意匠権制度の概要を説明します。特許権と意匠権の各制度は、「特許、集積回路の配列デザイン、植物品種及び意匠に関する法律」(2004 年7 月17 日付勅令No.M/27。以下、「特許意匠法」といいます。)に定められています。
サウジアラビアは、パリ条約、特許協力条約(PCT)、知的所有権の貿易関連側面に関する協定(TRIPs)に加盟しています。
また、サウジアラビアは、1981年に、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートとともに湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council:GCC)を設立し、1992年にGCC 特許規則を制定しています。本稿で検討するサウジアラビアの国内法である特許意匠法に基づいて付与される特許権は、原則としてサウジアラビア国内でのみ効力が認められますが、GCC特許制度に基づいてGCC特許庁により付与されたGCC特許権は、すべての GCC 加盟国において保護されます。本稿では、GCC特許権については検討しませんが、サウジアラビア国外の他のGCC加盟国でも権利を確保したい場合には、検討に値する制度だと思います。
特許権は、新規性、進歩性及び産業上の利用可能性を有する発明について認められます。我が国の特許法と同様です。
新規性喪失の例外は、①出願人又は前権利者に対する濫用行為に起因する出願日前又は優先権主張前6カ月間の開示、②特許出願日前1 年以内にパリ条約加盟国のいずれかにおいて公に認められた国際博覧会に展示した結果としての開示の場合に、認められます。我が国の特許法では、2011年の改正により、②に関して、国際博覧会の展示に限らず、特許を受ける権利を有する者の行為に起因する開示の場合を、網羅的に救済することとされており、違いがあります。
サウジアラビアは、パリ条約加盟国ですので、保護適格者について、サウジアラビア国民に限定するなどといった定めはありません(内国民待遇(内外人平等)の原則)。
出願先は、サウジアラビア特許庁になります。
法人が出願人の場合、出願手数料は800サウジアラビア・リアル(SAR)です(参考:2019年4月18日時点で1SARは約30円)。
出願言語には、アラビア語を用いる必要があります。
特許出願に対しては、実体審査に入る前に、方式審査が実施されます。我が国と同様です。
方式審査により、方式違背がないことが確認された場合、特許庁は、出願人に対して、3カ月以内の猶予期間を付して、公告手数料の納付を求めます。出願人が法人の場合の公告手数料は1,000SARです。
猶予期間内に公告手数料が納付された場合、特許庁は、出願日から1年6カ月以内に、出願内容を公開します。我が国と同様の出願公開制度です。
猶予期間内に公告手数料の納付がない場合、出願は拒絶され、その旨が特許公報にて公告されます。
また、特許庁は、上記の公告手続と並行して、実体審査に必要となる手数料を算定し、出願人に対して、3カ月以内の猶予期間を付して、実体審査手数料の納付を求めます。
猶予期間内に実体審査手数料が納付された場合、特許庁は、実体審査を開始します。我が国では、実体審査に進む場合、出願人から特許庁に対して、出願とは別途、審査請求の申立てをする必要がありますが、サウジアラビアでは、別途の申立ては必要なく、手数料の納付をもって自動的に実体審査がはじまる点に違いがあります。
猶予期間内に実体審査手数料の納付がなかった場合、出願は失効し、その旨が特許公報にて公告されます。
実体審査においては、前記?の新規性、進歩性及び産業上の利用可能性の有無のほか、登録拒絶事由の有無が審査されます。登録拒絶事由は、①発見,科学的理論、数学的方法、②単なる計画,規則及び方法、③植物又は動物(微生物を除く。)の生産に使用される生物学的な方法、④人又は動物の体の治療、診断方法(これらの方法の何れかに使用される製品を除く。)とされています。また、イスラム圏の国に特徴的な定めとして、特許申請の内容がシャリーア(イスラム法)に違反する場合、特許権は付与されないこととされています。
出願内容に登録拒絶事由が認められた場合、特許庁は、これを出願人に通知します。出願人は、当該通知から3カ月以内に、補正書、意見書を提出する必要があります。
出願内容に登録拒絶事由がない場合、あるいは補正により登録拒絶事由がないことが判明した場合、特許庁は、出願者に対して特許査定を下します。出願から特許査定までの期間は、概ね20カ月から26カ月程度です。
前記(1)のとおり、サウジアラビアはパリ条約加盟国であり、優先権制度が整備されています。
優先期間は先の出願日から12カ月間です。
優先権を主張する場合、出願人は、サウジアラビアにおける出願から90日以内に、左記の出願に関する書類の写しをサウジアラビア特許庁に提出しなければなりません。
法人が出願人の場合、初年度特許料は500SAR、2年目は1,000SAR、その後は毎年500SARずつ増額されます。
特許権は、出願日から20年間存続します。
補正によっても瑕疵が治癒されず、拒絶査定が下された場合、出願人は、拒絶査定に対する不服を申立てることができます。不服申立ては、法律専門家3名と技術専門家2名から構成される特別の委員会において審理され、不服を認めるか否かは委員会の多数決により決せられます。
出願人に付与された特許査定に対して不服を有する第三者は、特許査定の全部又は一部の取消しを求める異議申立てをすることができます。この異議申立ても、拒絶査定に対する不服申立てを審査するのと同様の委員会によって審理され、その多数決により結論が出されます。
サウジアラビアにおける意匠権の制度は、特許権とともに「特許意匠法」の中に定められており、前記2で紹介した特許権に関する定めが概ね準用されています。以下では紙幅の関係から特許権制度との重要な相違点についてのみ概説します。
特許権の場合と異なり、意匠権の出願に対しては、方式審査が課されるだけで、実体審査は行われません。我が国の意匠法とも大きく異なる部分です。
優先期間は先の出願日から6カ月間です。
法人が出願人の場合、出願手数料は300SAR、公告手数料は350SARです。
意匠登録料は、初年度及び2年目につき各300SAR、3年目及び4年目は各600SAR、5年目及び6年目は各600SAR、7年目及び8年目は各1,200SAR、9年目及び10年目は各1,500SARです。
意匠権の保護期間は、出願日から10年間です。
以上