サウジアラビアにおける知的財産権について(2)

令和元年7月12日更新

  1. 1 はじめに
  2.  サウジアラビアには、特許権、意匠権、商標権、著作権の各知的財産権制度が存在し、それぞれの権利を保護する法律が定められています。

     本稿では、このうち、商標権、著作権の各制度の概要を説明します。

     

  3. 2 商標権
  4. (1) 法源
  5.  サウジアラビアは、1981年に、アラブ首長国連邦(UAE)、バーレーン、オマーン、カタール、クウェートとともに湾岸協力会議(Gulf Cooperation Council:GCC)を設立し、GCCが制定したGCC商標法及びGCC商標施行規則を、自国の商標を保護するための法令としています。

  6. (2) 国際条約の加盟状況
  7.  サウジアラビアは、パリ条約、知的所有権の貿易関連側面に関する協定(TRIPs)に加盟しています。

     他方で、商標法条約(TLT)、マドリッド協定議定書は未加盟です。

  8. (3) 保護対象
  9.  商標権の保護対象となるのは、名称、言葉、署名、文字、記号、数字、住所、印、図面、絵画、彫刻、包装、写真の要素、形、色彩の混合若しくはそれらを組み合わせたものからなる標章で、自己の製品又はサービスに用いられるものです。

     注目すべきは、一定の音や匂いについても、商標登録を許容している点です。条文上は、「音や匂いに関する標章は、商標とみなす。」とされています。我が国の商標法では、2015年の改正により、聴覚で認識される商標の登録が可能になりましたが、匂いの商標登録は未だ立法検討段階であり、先進的な規定といえます。

  10. (4) 保護適格者
  11.  サウジアラビアは、パリ条約加盟国ですので、保護適格者について、サウジアラビア国民に限定するなどといった定めはありません(内国民待遇(内外人平等)の原則)。

  12. (5) 出願手続
  13.  出願言語には、アラビア語を用いる必要があります。

  14. (6) 方式審査
  15.  商標出願に対しては、実体審査に入る前に、方式審査が実施されます。我が国と同様です。

  16. (7) 実体審査
  17.  方式審査に瑕疵がなかった場合、実体審査が実施されます。

     以下の場合は、商標登録が許されません。我が国の商標法にない定めとしては、宗教的記号に関する⑤、特定の単語の使用禁止に関する⑮が挙げられます。

    ① 識別可能な特徴を欠く商標、商品・サービス等のありふれた使用に由来する用語から構成される商標

    ② 公序良俗に反する商標

    ③ 公のスローガン、旗、軍の勲章、名誉勲章、域内及び外国の記章・硬貨・紙幣、又は、GCC加盟国・その他の国・外国・アラブ・国際機関・これらに関係する機関のその他の記号、又は、前述のものの模倣

    ④ 赤新月若しくは赤十字のロゴ、又は、その他の類似の記号、及び、これらを模倣した商標

    ⑤ 純粋に宗教的な特徴を有する記号と同一又は類似する商標

    ⑥ その使用が、商品又はサービスの出所又は原産地について混同を招く可能性のある地理的名称及びデータ

    ⑦ 第三者の名前、肩書、肖像又はロゴ。ただし、当該第三者又はその相続人がその使用について事前に承諾している場合を除きます。

    ⑧ 登録出願人がその法的な資格を証明できない名誉称号又は科学的称号

    ⑨ 製品又はサービスの原産地、出所又はその他の特性について公衆を惑わし、又は、不実表示を伴う商標、及び、虚偽、模倣又は、偽造された名称を含む商標

    ⑩ 担当官庁の決定に従って取引が禁じられている自然人又は法人が所有する商標

    ⑪ 同一又は類似の商品又はサービスについて第三者により既に出願又は登録されている商標(以下、本号において「既存商標」といいます。)と同一又は類似の商標であって、当該商標の使用が、既存商標の所有者の商品又はサービスと関連しているという誤認を生み出す可能性があるか、又は、かかる所有者に損害をもたらす可能性があるもの

    ⑫ 当該商標が何らかの商品又はサービスに関連して登録された場合、既に登録された商標についての商品又はサービスの価値を減じる可能性がある商標

    ⑬ 第三者の著名な商標により識別される商品又はサービスと同一又は類似の商品又はサービスを識別するために使用する意図で、かかる著名な商標又その一部の単なる複製・模倣・翻訳とみなされる商標

    ⑭ 第三者の著名な商標により識別される商品又はサービスと同一・類似ではないが、当該著名な商標の所有者の利益を害する可能性を生じさせる商品又はサービスを識別するために使用する意図で、かかる著名な商標又その一部の単なる複製・模倣・翻訳とみなされる商標

    ⑮ 次の用語又は表現を含んでいる商標。営業権(フランチャイズ等)、営業権取得者(フランチャイズ加盟店等)、登録済、登録手続中、著作権、その他類似の用語及び表現

  18. (8) 拒絶査定に対する不服申立て
  19.  実体審査を通過せず拒絶査定を受けた場合、出願人は、拒絶通知の日から60日以内に、不服申立てをすることができます。

  20. (9) 出願公告と第三者による異議申立て
  21.  実体審査を通過した場合、商標登録前に、出願公告されます。商標登録に異議のある第三者に対し異議申立ての機会を付与するためです。

     商標登録に異議のある第三者は、公告日から60日以内に限り、異議申立てをすることができます。

  22. (10) 優先権
  23.  GCC商標法は、GCC域内での商標制度の統一を指向するものであり、GCC特許制度(GCC特許の効力が、GCC加盟国に自動的に及ぶ)と異なり、サウジアラビアにおける商標登録の効力が、自動的にGCC加盟国に及ぶものではありません。そのため、GCC域内の他国における商標登録を望む場合、当該国における出願が別途必要となります。

     優先期間は、先の出願日から6カ月間です。

  24. (11) 商標登録
  25.  異議申立て期間を経過した場合、商標登録が可能になります。

  26. (12) 保護期間
  27.  商標権の保護期間は10年間で、我が国と同様です。

     

  28. 3 著作権
  29. (1) 法源
  30.  サウジアラビアにおける著作権の制度は、「著作権法」(Royal Decree No. M/41)に定められています。

  31. (2) 国際条約の加盟状況
  32.  サウジアラビアは、ベルヌ条約の締結国です。また、商標権の項で触れたとおり、TRIPsの加盟国です。

     他方で、WIPO著作権条約には加盟していません。

  33. (3) 保護対象
  34.  著作権は、文学、美術及び科学分野において創作された、以下のものについて発生します。

    ① 書籍・小冊子、その他の記載されたもの

    ② 講義、演説、詩、歌、その他口述によって伝達される作品

    ③ 動作、音又はその両方を伴う、演劇、芝居、ショー及びその他上演作品

    ④ 放送のために特別に準備され、又は、放送を通じて提供される作品

    ⑤ 絵画、造形美術作品、建築物、装飾芸術品、刺繍美術品及びその他類似の作品

    ⑥ 聴覚及び視聴覚によって知覚できる作品

    ⑦ 手工芸及び工業の応用美術作品

    ⑧ 写真作品及びその類似の作品

    ⑨ 地理、地形、建築及び科学に関連するイラスト、地形図、デザイン、スケッチ、グラフィック・デザイン・彫刻作品

    ⑩ 地理、地形、建築及び科学関連の三次元の作品

    ⑪ コンピュータ・プログラム

    ⑫ 作品の題名。ただし、題名それ自体が独創的な特徴を有し、その作品を示すために通常用いられるような単純な表現でないものに限ります。

     二次著作権は、以下のものに発生します。

    ① もとの著作物を翻訳した作品

    ② もとの著作物を要約、修正、論評、解釈、その他改変した作品

    ③ 文芸、学術又は美術著作物のいずれかにかかわらず、内容の選択・編集の点において創作性を有するとみなされる百科辞典及び選集

    ④ 内容の選択・編集により創作性を有する民間伝承の編集物・表現・選択部分

    ⑤ 内容の選択・編集により創作性を有するデータベース

  35. (4) 権利の発生
  36.  著作権は、我が国同様、特段の登録手続を経ることなく、発生します。

  37. (5) 権利の効力
  38.  著作権者が有する財産的な権利は、以下のとおりです。

    ① 読み取り可能な形態による著作物の印刷及び発行、録音・録画テープ・CD・電子メモリーへの著作物の記録、並びに、その他手段による配布

    ② 著作物の他言語への翻訳、引用、改変及び録音・録画の再頒布

    ③ 展示、演劇、放送、データ通信などのあらゆる可能な手段を通じた著作物の公衆への伝達

    ④ 許認可を受けた商業的なレンタル等を含む、全般的な著作物のあらゆる形態の物理的な利用

  39. (6) 保護期間
  40.  著作権は、著作権者の死後50年間存続します(我が国著作権法では、TPP11協定発行に伴う改正により70年です。)。

以上