UAEにおける代理店保護規制について

令和2年3月3日更新

  1. 1.はじめに
  2.  日本企業がUAE国内において自社製品の輸入販売やサービス提供を行う方法として一般的に利用されるのが、現地の代理店との間で代理店契約、販売店契約、フランチャイズ契約等を締結して、現地代理店の販売チャネルを利用する手法です。もっとも、UAEにおける代理店は、商業代理店法(1981年連邦法第18号。以下「商業代理店法」といいます。)に基づく手厚い法的保護が与えられているため、委託する側の日本企業をはじめとする外国企業にとって、大きな負担となることがしばしばあります。特に、UAEにおける代理店保護法制は、他の中東諸国におけるそれと比べ、現地の代理店にとって保護が充実しており、利用する側にとっては厳格な内容を含みますので、代理店契約を締結する際には、解約まで視野に入れて、UAEにおける規制の内容を検討しておく必要性が高いように思います。

     本稿では、商業代理店法に定められた、商業代理店の定義、要件、法的保護の内容及び罰則について概説します。

     

  3. 2.商業代理店の定義
  4.  商業代理店(Commercial Agency)とは、手数料や利益を対価として、UAE国内において商品またはサービスを流通、販売、展示または提供するためのエージェント(Agent)として本人(Principal)を代表することと定義されています。かかる定義によると、商業代理店の範囲は、①商業代理店の行為によって売主たる本人と顧客間で直接売買契約が成立し、代理店は対価として本人から手数料を取得する場合(いわゆる代理店型)のみならず、②本人と代理店間及び代理店と顧客間でそれぞれ売買契約が成立し、代理店は本人から手数料を取得せず転売差額を利益として取得する場合(いわゆる販売店型)に加え、③本人との間でフランチャイズ契約を締結する場合まで、広く含むと解されています。

     

  5. 3.商業代理店の要件
  6.  商業代理店法が適用されるのは、以下の各要件を充足する場合です。

     ① 商業代理店が、UAE国民であるかUAE国民が100%出資する法人であること

     ② 商業代理店が、経済省(Ministry of Economy)に商業代理店として登録していること

     ②の登録の際に、商業代理店は、本人が登録に同意していることを示す書類等の必要書類を添付の上、所定の申請書を経済省に提出する必要があります。登録申請書に必要な記載事項として法定されている事項は、次のとおりです。

     ● 商業代理店の名称・国籍・住所地

     ● 本人の名称・国籍・住所地

     ● 代理店契約に係る資産・商品・サービスの内容

     ● 商業代理店の活動領域

     ● 代理店契約の効力発生日及び満了日

     ● (商業代理店が法人の場合)主たる事務所の名称・種類・所在地

     ● (商業代理店が法人の場合)資本金の額

     上記のとおり、UAEの商業代理店法の適用範囲は、商業代理店が、経済省に登録をしている場合に限られます。すなわち、UAEにおいては、無登録の代理店を利用している場合には、商業代理店法の適用はなく、一般法であるUAE民法(1985年連邦法第5号)やUAE商法(1993年連邦法第18号)等が適用されることになります。

     このような無登録の代理店を利用した場合、後述5.の商業代理店法の違反を構成し、罰金が科せられる可能性がある点については、慎重な留意が必要になります。

     

  7. 4.商業代理店に対する主な法的保護
  8. (1) 独占権
  9.   商業代理店は、契約により定められた領域内において、契約により定められた商品及びサービスを独占的に販売、提供することができます。これは、当該領域内で本人が選任した商業代理店とは異なる代理店を選任することができないということ、並びに、本人自身が当該領域内で当該商品及びサービスを販売、提供等をすることができないことを意味します。

  10. (2) 手数料請求権
  11.   商業代理店は、契約により定められた領域内において、契約により定められた商品及びサービスが販売、提供された場合、本人に対し所定の手数料を請求することができます。もっとも、商業代理店は、実際に商品及びサービスの販売、提供に尽力する必要はなく、本人が自ら顧客と交渉するなどして商品の販売等に至ったような場合であっても、手数料を請求することができます。

  12. (3) 輸入差止権
  13.   商業代理店は、契約に定められた商品が、契約により定められた領域内に輸入されることを差し止めることができます。具体的には、輸入時の商品の荷受人が、登録された商業代理店と異なる場合、税関当局は、当該商業代理店の請求により、当該商品を没収して港湾倉庫に一時留め置かなければなりません。

  14. (4) 契約終了の制限
  15.   代理店契約は、たとえ契約上有効期間が定められていたとしても、重要な正当事由がない限り、終了させることはできません。この契約終了の制限に関して、2006年の法改正の際には、有効期間の定められた契約につき、正当事由なく終了させることができるという形で法改正がなされました。しかしながら、同法改正を機に、本人たる外国企業と商業代理店との間の契約終了及び登録抹消の件数が増大し、商業代理店からの強い反発が見られました。その結果、経済省は、次第に法改正前と同様に、契約の終了を制限する方向の実務運用を進め、結局2010年の法改正の際に、有効期間の定めのある契約であっても重要な正当事由のない限り終了することはできないという形で従前の制限が復活することとなりました。

      契約終了の根拠たる重要な正当事由については、法律上明文の定めはありませんが、以下のような事由が含まれると解されています。

      ① 売上目標や最低必要販売数を充足しないなど、商業代理店による契約上の義務の不履行がある場合

      ② 商業代理店が商業代理店法に違反する場合

      ③ 本人たる外国企業の商品及びサービスと競合する商業活動を商業代理店が行う場合

      ④ 商業代理店が本人たる外国企業のイメージを維持できていないか、当該企業の評価を傷つける行動をする場合

  16. (5) 契約終了に際しての補償請求権
  17.   現在の改正後の商業代理店法によると、代理店契約の当事者双方は、相手方に対し、契約終了時に被った損失及び損害に対する補償を請求することができます。補償される金額は法令上明記されていませんが、代理店契約の契約期間、商業代理店の貢献度、商業代理店によって生み出された純利益等に応じて定まると解されています。

     

  18. 5.法令違反による罰則
  19.   上記のような商業代理店法に定められた規制に違反した場合、本人たる外国企業を含む商業代理店契約の当事者には、罰金として少なくとも5000ディルハム(約15万円)が科せられると定められています。加えて、商業代理店が、登録に際して故意に虚偽申告をした場合や、商業代理店法の定めに反する活動を行った場合にも、罰金として少なくとも5000ディルハム(約15万円)が科せられます。

以上