カタールにおける商業代理店法について
令和2年4月10日更新
- 1.はじめに
- 2. 商業代理店及び販売店の定義
- 3. 商業代理店の登録
- 4. 商業代理店の登録抹消
- 5. 商業代理店に対する主な法的保護
- 6. 管轄及び仲裁
日本企業がカタールにおいて自社製品の販売やサービスの提供を行う場合、現地の既存の代理店・販売店等との間で代理店契約や販売店契約を締結し、現地の販売チャネルを利用する方法が考えられます。
カタールでは、国内の代理店、販売店に保護を与えるため、2002年法律第8号(以下「商業代理店法」といいます。)による規制を設けています。
本稿では、商業代理店法の概要について説明いたします。
商業代理店法は、「手数料等を対価として、委託者のために、製品や商品を販売し、又は、一定のサービスを提供する代理権を独占的に与えられた者」を商業代理店と定義しています。
また、同法は、2016年の法改正時に、販売店契約に基づき、独占的に、一定の商品・製品・サービスの宣伝、販売をする義務を負う者(いわゆる自身が契約当事者となって顧客に対して販売等を行う販売店)についても、同法の適用対象としました。
なお、以下では、同法の文言に従って「代理」「代理店」「代理店契約」という用語を用いますが、「販売店」や「販売店契約」に関する「販売等」についても適用があります。
(1) 登録義務の有無
現地の代理店が、商業代理店法による法的保護を受けようとする場合、同法の定めに基づき、監督官庁である商業・貿易省(Ministry of Business and Trade)での登録を受ける必要があります。
もっとも、法律上の登録義務はなく、契約当事者双方の合意により、商業代理店としての登録を行うか否かを決めることができます。
なお、無登録の代理店については、商業代理店法ではなく、2006年法律第27号(商法)などの法律が適用されます。
以下では、登録を行い商業代理店法の適用がある代理店を「商業代理店」と呼びます。
(2) 登録要件・登録申請手続
ア 登録を受けようとする現地の代理店は、次の要件を満たす必要があります。
① カタール国民であること。会社の場合は100%カタール資本の法人であること
② 18歳以上であること
③ 対象となる事業活動が商業登記簿に登記されていること
④ 名誉又は信用にかかわる犯罪で有罪とされたことがない者であること
イ 登録を受けようとする現地の代理店は、商業・貿易省が作成した様式の書面を提出しなければならないとされています。
当該書面には、アラビア語に翻訳された代理店契約の写し等の補足資料を添付する必要があります。
ウ また、代理店契約では、書面により、以下の事項を規定しなければならないものとされています。
① 委託者及び代理店の氏名・名称及び国籍
② 代理の対象となる商品、製品及びサービス
③ 代理の対象地域
④ 期間の定めのある契約の場合、当該代理店契約の期限及びその更新方法
⑤ 代理の対象となる商品及び製品について、その予備部品の供給及び必要なメンテナンスの実施に関する代理店の義務(必要な場合に限る)
⑥ 代理店及び委託者間で合意したその他の条件(商業代理店法に抵触しない範囲に限る)
(3) 登録の更新
登録は、2年ごと(ただし、有効期間満了の2か月以内)に更新される必要があります。
商業代理店又はその代表者は、代理店契約が終了した場合、その理由の如何を問わず、30日以内に、登録の抹消申請をする必要があります。
当局は、契約の終了事由があることを知った場合、関連する当事者に通知を行い、かつ、一定の聴聞手続等を経た上で、登録を抹消することができます。
(1) 独占性
商業代理店は、その定義のとおり、独占性を有しています。
そのため、商業代理店は、委託者の代理人として、契約により定められた地域内において、対象となる商品及びサービスを独占的に販売、提供することができます。
なお、従前は、代理の対象となる商品が、商業代理店の関与なしに第三者より輸入された場合(並行輸入)、商業代理店は、委託者より一定の手数料を受け取ることができる旨定められていましたが、2016年の法改正により、かかる規定は廃止されました。
(2) 契約終了の制限
ア 期間の定めのある代理店契約
当事者間で更新する旨の合意をしない限り、同契約に定められた有効期限をもって終了します。
イ 期間の定めのない代理店契約
当事者間の合意により終了します。
双方で合意できない場合には、代理店契約により生じる紛争を解決する権限を有する、管轄機関の命令又は決定によってのみ終了させることができます。
また、委託者が、商業代理店法の規定に違反して代理店契約を終了させた等の場合、管轄機関は、当該代理店契約の対象となる商品及び製品の輸入を禁止する旨を決定することができます。
(3) 補償請求権
ア 商業代理店は、①期間の定めのある代理店契約の期間満了時、②期間の定めのない契約の終了時において、次の要件を満たす場合、委託者に対し法定の補償を求めることができます。
① 委託者の製品やサービスの販売促進に成功したこと
② 更新拒絶又は解約が①の成功から生じる報償を代理店から奪うものであること
イ 商業代理店法は、明文上、補償額の算定に関する具体的な定めを設けていません。そのため、カタールの裁判所は、個別の事案に応じて補償額を決定します。
ウ このような商業代理店の補償請求権は、代理店契約の定めにかかわらず、商業代理店法の規定により認められる権利であり、かかる権利を当事者が任意に放棄することはできないと解されています。
また、契約終了後、商業代理店が登録抹消手続を適法に行わなかった場合や、商業代理店側に契約終了の帰責事由がある場合であっても、商業代理店には補償請求権が認められる可能性があります。
そのため、代理店契約の終了時において、委託者が代理店から補償請求を受ける可能性については、契約書の内容にかかわらず、留意しておく必要があります。
(4) 罰則
ア 登録抹消手続をしない等、一定の重要規定に違反した場合、6月以下の懲役又は2万カタール・リヤル(約60万円)以下の罰金のいずれか又はその併科が科せられます。
ただし、より厳しい罰則を定める法律がある場合には、当該法律の定めによります。
イ 実際は登録した商業代理店でないにもかかわらず、印刷物やメディアで登録した商業代理店である旨を名乗った場合、3月以下の懲役又は1万カタール・リヤル(約30万円)以下の罰金のいずれか又はその併科が科せられます。
ただし、より厳しい罰則を定める法律がある場合には、当該法律の定めによります。
ウ かかる罰則規定は、2016年の法改正により、罰金額が引き上げられており、厳罰化が図られています。
(1) 管轄
代理店契約の履行に関して生じる紛争については、カタールの裁判所は、契約書中に別段の定めがない限り、審理することができると定められています。したがって、契約当事者は、代理店契約において、外国の裁判所を管轄裁判所として定めることができます。
もっとも、終了時の補償請求権など、商業代理店法上定められている登録代理店の権利を否定する外国裁判所の判決は、カタールの裁判所において、執行を拒絶されるリスクがありますので、留意が必要です。
(2) 仲裁
代理店契約に関連して生じる紛争に係る仲裁の決定は、最終的なものとみなされます。
以上