Ⅳ.労働組合・労使関係の法規

1926年インド労働組合法(Trade Union Act, 1926

1.規定内容

 インド労働組合法は、労働組合の登録及び登録された労働組合の機関及び権利義務を規定しています。

2.労働組合の定義

 インド労働組合法は、労働組合とは、一時的か恒久的かを問わず、主に労働者と雇用主間、労働者間、又は雇用主間の関係を規律するため、又は事業の遂行に対して制限的な条件を課すために組織される団体を意味するものと定義されています(同法第2条g号)。

3.具体的内容

  • (1) 労働組合の登録

     インド労働組合法は、7名以上の組合員を有する労働組合についてこれを登録することができる旨を規定しています(同法第4条1項)。なお、登録申請の時点で、当該労働組合が関係する施設又は工場において雇用されている労働者数の10%又は100名の労働者が組合員でない場合は、その組合を登録することができません。
  • (2) 執行部(executive)

     労働組合は、その運営がoffice bearerと称される役員によって構成される執行部に委託されます。但し、役員総数の3分の1以上又は5名のいずれか少ない数の役員は、原則として当該労働組合が関係する施設又は工場において実際に雇用されている者でなければなりません。
  • (3) 登録された労働組合の刑事及び民事免責

     登録された労働組合の組合員には、以下のような刑事免責及び民事免責が認められます。
  • 登録された労働組合の組合員は、本法第15条に規定されている労働組合の目的を促進するためになされた組合員間の合意については、インド刑法上の共謀罪の責任を問われない。
  • 労働争議を企図又はその促進のために行われた一切の行為に関し、それが他の者の労働契約違反を誘発したこと、もしくは他の者の取引、事業、雇用を妨害したこと等を理由に登録された労働組合又はその組合員に対して民事訴訟その他の法的措置を行ってはならない。

4.罰則

 登録された労働組合は、前暦年に関する年次報告書を登記官(Registrar)に対して提出する必要がありますが、その報告書に虚偽の記載があった場合、500ルピー以下の罰金が科される旨等が規定されています。

1946年インド産業雇用(就業規則)法(Industrial Employment (Standing Orders) Act, 1946

1.規定内容

 1946年インド産業雇用(就業規則)法は、産業施設の雇用主に対して、労働者の分類、賃金額の通知方法、労働時間、休日、出勤、労働者の異動及び解雇、条件違反に関する手続き等の雇用条件を明らかにするための法律です。

2.適用

 産業雇用法は、100名以上の労働者を雇用している、又は過去12ヶ月の任意の日に雇用していたすべての産業施設に対して適用されます(同法第1条3項)。なお「産業施設(industrial establishment)」とは、特に工場、鉱山、採石場、油田、プランテーション、作業場、及び産業施設の所有者との契約を履行する目的で労働者を雇用する者の施設を含むと定義されています。

3.具体的内容(就業規則(Standing Orders)の制定)

 雇用主は、当該産業施設における就業規則案を作成し、同法が当該産業施設に適用されることになった日から6ヶ月以内に、管轄のCertifying Officerに対して、そのコピーを提出しなければなりません(同法第3条1項)。就業規則案は、同法の別表に規定されているすべての事項、又は別途規定されるその他一切の事項につき規定しなければなりません。

 Certifying Officerは就業規則案を認可し、認可された就業規則のコピーを雇用主に送付しなければなりません。認可された就業規則は、そのコピーが雇用主に送付された日から30日経過後から効力を有します。

 なお、認可された就業規則は、当該就業規則又は直近の改定の効力発生日から6ヶ月が経過するまで、原則としてこれを改定することができません。

4.罰則

 就業規則案を提出していない、又は本法の規定に従わずに就業規則を改定した雇用主には、5,000ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています。違反が継続している場合は、その継続中の1日あたり200ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています(第13条1項)。

 雇用主が本法に基づいて認可された就業規則の規定に違反した場合、100ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています。違反が継続している場合は、継続中の1日あたり25ルピー以下の罰金が科せられる旨が規定されています(第13条2項)。

1947年インド産業紛争法(Industrial Disputes Act, 1947

1.規定内容

 インド産業紛争法は、産業紛争に関係する問題の調査及び労働紛争の解決に関する従業員及び雇用主の権利を規定しています。また同法及びその規則は、特に雇用条件の変更、ストライキ、ロック・アウト、解雇、レイ・オフ、閉鎖等に関する重要な問題についても規定しています。さらに同法及び規則は、仲裁、和解、団体交渉等のような様々な紛争解決の仕組みも規定しています。

2.インド産業紛争法における「労働者(workman)」の定義(同法第2条s号)

 インド産業紛争法における「労働者」とは、雇用条件が明示されているか否かを問わず、またその熟練度を問わず、肉体労働、技術的、運営的、事務的、監督的仕事を行うため、すべての産業において雇用されている者(見習いを含む)を意味し、本法に基づく産業紛争に関する手続きの趣旨からは、その紛争に関し又はその紛争の結果として解雇された者、もしくはその者の解雇がその紛争を導いたような場合のその解雇された者も含まれると定義されています。但し、「労働者」には、以下の者は含まれません。

  • ① 主に経営的又は管理的立場(managerial or administrative capacity) で雇用されている者
  • ② 監督的立場(supervisory capacity)で雇用されている者で、月額賃金が10,000ルピーを超える者
  • ③ 1950年インド空軍法、1950年インド陸軍法、1957年インド海軍法に従う者、又は警察・刑務所で雇用されている者

3.具体的規定

  • (1) ストライキ及びロック・アウト

     インド産業紛争法において、「ストライキ」とは、労働者又は当該産業において雇用されている者の団体によって行われる仕事の中断、又は団体での仕事の拒絶を意味するものと定義されています(同法第2条q号)。他方、「ロック・アウト」とは、雇用主による雇用が行なわれている場所の一時的な閉鎖、仕事の中断、又は雇用する者の雇用の継続の拒絶を意味するものと定義されています(同法第2条l号)。

     労働者は、原則として通告なくストライキを行う権利を有し、また雇用主は、ストライキと同じ条件に従ってロック・アウトを宣言する権利を有しています。但し、公共事業(public utility service)に従事している労働者は、雇用主に対する事前の通告等の一定の手続きを履践しない限り、ストライキを行うことが許されておらず、また同様に、公共事業を行う雇用主は、同様の手続きを履践しない限り、ロック・アウトを行うことが許されていません(同法第22条1項及び2項)。

     なお、和解手続中、労働裁判所、審判所、国家審判所での係争中、仲裁手続中、又はこれらの手続終了後の一定期間は、ストライキ又はロック・アウトを行うことはできません(同法第23条)。
  • (2) 人員削減(Retrenchment)

     インド産業紛争法における「人員削減」とは、懲戒処分による解雇の場合を除く雇用主による労働者の解雇を意味し、その理由は問わないと定義されています(同法第2条oo号)。但し、人員削減には以下の事由は含まれません。
  • ① 労働者の自発的退職
  • ② 定年退職の条項が雇用契約に規定されている場合の定年退職
  • ③ 雇用契約期間が満了し当該契約を更新しなかった結果としての解雇、又は契約に含まれているその趣旨の規定に従って解除された結果としての解雇
  • ④ 継続的な病気を理由とする雇用契約の解除
  • (a) 前歴月の1営業日あたり平均50名以上の労働者が雇用されている産業施設の雇用主は、本法の規定に基づく以外その労働者を人員削減することができません。具体的には、1年以上継続的雇用にある労働者を人員削減するには、①解雇事由を記載した最低1ヶ月の告知期間を設けた書面による解雇通知を送付したこと、又はこのような解雇通知の代わりに告知期間中の賃金を支払ったこと、②平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の解雇補償金を支払ったこと、及び③所定の方法による通知が政府に対してなされたことが要件とされています。
  • (b) もっとも、過去12ヶ月中の1営業日あたり平均100名以上の労働者を雇用していた施設の雇用主が1年以上継続的雇用にある労働者を人員削減するには、①所定の方法により政府から人員削減についての事前許可を取得したこと、②解雇事由を記載した最低3ヶ月の告知期間を設けた書面による解雇通知を送付したこと、又はこのような解雇通知の代わりに告知期間中の賃金を支払ったこと、③平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の解雇補償金を支払ったことが要件とされています。
  • (3) 閉鎖(Closure)

    インド産業紛争法における「閉鎖」とは、雇用が行なわれている場所の全部又は一部の恒久的閉鎖を意味するものと定義されています(同法第2項cc号)。
  • (a) 50名以上の労働者を雇用して事業を遂行している雇用主がその閉鎖を企図する場合、所定の方法で閉鎖予定日の60日以上前に政府機関に対し、閉鎖の理由を記載した通知を送付しなければなりません。また、1年以上継続的雇用にある労働者に対しては、①閉鎖事由を記載した最低1ヶ月の告知期間を設けた書面による通知、又はこのような通知の代わりに告知期間中の賃金の支払い、及び②平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の補償金の支払いが要件とされています。
  • (b) もっとも、過去12ヶ月中の1営業日あたり平均100名以上の労働者を雇用して事業を遂行している雇用主がその閉鎖を企図する場合は、所定の方法で閉鎖予定日の90日以上前に政府機関に対して閉鎖の事前許可申請を行わなければならず、当該事前許可申請書のコピーは関係する労働者にも送付しなければなりません。また、政府機関より閉鎖の許可が付与された後には、1年以上継続的雇用にある労働者に対して、平均賃金の15日分×継続的雇用年数又は6ヶ月を超えて雇用されていた年数と同額の補償金の支払いをしなければならない旨規定されています。
  • (4) 紛争解決手段
  • (a) 内部的紛争解決手段
  • (i) 苦情解決委員会(Grievance Redressal Committee)

     20名以上の労働者を雇用するすべての産業施設は、労働者個人の苦情から生じる紛争を解決するために1以上の苦情解決委員会(Grievance Redressal Committee)を設置しなければなりません。同委員会は、雇用主側からの委員と同数の労働者側からの委員によって構成され、当該労働者個人からの苦情を解決します。
  • (ii) 労働委員会(Works Committee)

     過去12ヶ月の間の任意の日において100名以上の労働者を雇用し、政府の命令により労働委員会の設立を命ぜられた工場は、雇用主側からの委員及び雇用主側の委員の数以上の労働者側からの委員によって構成される労働委員会を設置しなければなりません。同委員会には、少なくとも3ヶ月に1回の頻度で開催され、雇用主及び労働者の意見の相違点を協議し、労使紛争を初期の段階で友好的・平和的に解決する役割が求められています。
  • (b) 外部的紛争解決手段
  • (i) 和解(Conciliation)

     政府によって選任される和解委員及び和解委員会は、労働者又は産業紛争の一方当事者によって開始され、既存の紛争及び懸念される紛争につき和解を試みます。和解による迅速な紛争解決のため、和解手続きにはその期間が限定されています。
  • (ii) 調査裁判所(Courts of Enquiry)

     産業紛争に関係・関連すると思われる問題を調査するために、政府は調査裁判所を設置することができます。同裁判所は、1名以上の独立した者で構成されます。2名以上の者で構成される場合はそのうち1名が議長に選任されます。同裁判所は上記問題を調査し、調査開始後6ヶ月以内に政府に対して調査結果を報告しなければなりません。
  • (iii) 仲裁(Arbitration)

     雇用主と労働者が当該紛争を仲裁に付することに合意した場合、書面による合意によって当該紛争が労働裁判所、審判所、国家審判所に付される前はいつでも、両当事者は当該紛争を仲裁に付することができます。
  • (iv) 裁決(Adjudication)

     インド産業紛争法は、裁決による紛争解決システムとして、①労働裁判所、②産業審判所、及び③国家審判所の3つのシステムを規定しています。これらの手続きのうち、インド産業紛争法別表2に規定されている問題については、労働裁判所又は産業審判所が、同法別表3に規定されている問題については原則として産業審判所がそれぞれ管轄権を有しています。国家審判所は、国家的に重要な問題を含む紛争等について管轄権を有しています。