カタールにおける会社清算について

令和2年9月更新

1.はじめに

 カタールに進出した日本企業が、諸般の事情により、カタールから撤退しようとする場合、2015年法律第11号(以下「カタール会社法」といいます。)の規制に従って、会社の清算手続を進める必要があります。

 そこで本稿では、会社清算に関するカタール会社法の規制について概説いたします。

 なお、紙面の都合上、特に断りのない限り、カタールで外国企業が多く使用していると思われるLimited Liability Company(有限責任会社)を前提とすることにします。

2.会社の解散

(1) カタール会社法によれば、Limited Liability Companyを含む、あらゆる種類の会社は、次に掲げる事由により解散するものと定められています。

  • ① 基本定款及びその付属定款で定めた存続期間を満了した場合。ただし、当該存続期間が更新された場合を除く。
  • ② 会社設立時の目的を終了した場合、又は、目的達成が不能となった場合。
  • ③ 株式又は持分が、法所定の最低人数未満の株主又はパートナーに譲渡された場合。ただし、会社が、当該譲渡日から6か月以内に別の会社形態に組織変更するか、又は最低人数の株主又はパートナーになるまで人数を増加させた場合は除く。
  • ④ 会社資産の全部又は大半が破損し、残余財産を効果的に活用することができない場合。
  • ⑤ 基本定款において一定の多数の賛成により解散する旨規定した場合を除き、存続期間満了前にパートナーが会社を解散することを全員一致で同意した場合。
  • ⑥ 会社が他の会社に合併される場合。
  • ⑦ 会社を解散又は破産を宣告するための裁判所による決定が出された場合。

(2) Limited Liability Companyの場合、パートナーの一人の脱退、死亡、禁治産(後見開始)、破産宣告、又は、支払不能は、会社の基本定款に別段の定めがない限り、いずれも解散事由を構成しないものとされています。

 これに対し、一人のパートナーから構成されるLimited Liability Companyの場合は、その者の死亡によって、会社は終了します。ただし、死亡日から6か月以内に、その相続する持分が一人に集約されるか、共同相続人が別の法形式による存続を選択した場合は、この限りではありません。

(3) また、Limited Liability Companyにおける損失が、その資本金の半分に達した場合、managers(以下「経営者」といいます。)は、損失がかかる程度に達した日から30日以内に、general assembly(以下「社員総会」と言います。)において、資本金の補填又は会社の解散を提案しなければなりません。

 経営者が上記の社員総会を開催しない場合、又は、パートナーが上記いずれかを決議しない場合、その経営者又はパートナーは、かかる義務の不履行により生じた会社の債務について、連帯責任を負う場合があります。

3.会社の清算

(1) 清算の開始

 会社は、解散した場合には、直ちに清算を開始しなければなりません。会社は、清算期間中、清算に必要な範囲において、法人格を維持します。なお、清算期間中の会社名には、清算中(under liquidation)という表記を、明確に付記する必要があります。

 経営者又は取締役会の権限は、解散により終了しますが、清算人が選任されるまでの間、第三者との関係では、これらは清算人とみなされ、かつ、会社の経営管理についてなお責任を負います。清算会社における機関は、従前の地位を維持しますが、その機関の権限は、清算人の責任の範囲に含まれない清算業務に限定されることになります。

(2) 清算の流れ

 清算会社は、当該会社の基本定款及び付属定款、又は、解散時におけるパートナー契約の規定に従い、清算手続を進める必要があります。これらに特段の規定がない場合には、カタール会社法に定める規定が適用されます。

 その概要は、以下のとおりです。

  • ア 清算人の選任及び宣言

     パートナー又は社員総会の過半数によって、1名以上の清算人を選任します。

     清算人の業務は、その清算人がパートナーによって選任された場合であっても、当該パートナーの死亡、破産宣告、支払不能、又は禁治産(後見開始)によっては、終了しないものとされています。

     清算人は、管轄裁判所が決定する場合を除き、契約で定められた報酬を受け取ります。

     清算人は、会社の基本定款及び付属定款の変更を宣言する方法に従って、自らを清算人に選任する決定がされたこと、自らの権限に制限があること、清算の方法に関するパートナー契約又は社員総会の内容等を宣言するものとされています。清算人の選任及び清算方法は、かかる宣言日以降、第三者に対し、対抗することができます。
  • イ 清算業務
  • (ア)清算人は、清算に必要な一切の業務を行います。

    中でも、下記の事項は、清算人の業務に含まれます。
  • ① 会社の権利を行使して第三者から回収すること
  • ② 会社の債務を弁済すること
  • ③ 動産や不動産などの会社資産を売却すること
  • ④ 会社の資産及びその権利を維持するために必要な措置を講じること
  • ⑤ 会社を代表して裁判手続を行い、調停・仲裁手続を受諾すること
  • (イ)清算人は、従前の業務の完了に必要な場合を除き、新たな事業を開始することができません。

     仮に清算手続に必要のない新規事業を行った場合、清算人は、自己の全財産をもって、この事業に関する責任を負うことになります。清算人が2名以上いる場合、連帯して責任を負います。
  • (ウ)会社が解散すると、会社は、負担する一切の債務の支払期日について、期限の利益を喪失します。

     清算人は、全ての債権者に対し、清算手続が開始したこと及びその債権を申し出るよう求める旨を、書留郵便で通知します。

     債権者又はその住所が不明の場合には、かかる通知は、日刊地方新聞2紙(そのうち、少なくとも一紙は、アラビア語版)に掲載する方法によることができます。

     いずれの場合でも、通知の日から75日以上の申出期間を付した上で、債権者に通知するものとされていますが、新聞に掲載する方法による場合は、1か月後に再度掲載する必要があります。

     一部の債権者がその申出をしなかった場合、その債務に相当する金額は、正当な権利者が現れるか、当該債務が消滅するまでの間、管轄裁判所の会計機関において預託しておく必要があります。
  • (エ)その上で、清算人は、自身の報酬を含む清算費用を控除した後、次の順序に従い、会社の債務を弁済します。
  • ① 会社の従業員に支払うべき金額
  • ② 国に支払うべき金額
  • ③ 会社の賃貸物件の賃貸人に支払う賃料
  • ④ 適用法に従った優先順位に応じて支払うべきその他の金額

     ただし、係争中の債務の支払に必要な金額は、取り置かれます。

     なお、会社は、清算人の権限の範囲内にある限り、清算手続に必要な清算人の行為に拘束されます。清算人は、かかる業務の履行から生じる法的責任を負いません。
  • (オ)清算人は、その業務を開始したときから3か月以内に、会社の監査人とともに、会社の一切の資産・負債の目録を作成します。

     経営者又はその取締役会は、清算人が必要とする帳簿・書類を提出し、説明及び情報を提供しなければなりません。

     清算が1年以上継続する場合、清算人は、貸借対照表、損益計算書及び清算業務報告書を作成する必要があります。これらの書類は、会社の基本定款及び付属定款に従った承認を受けるため、パートナー、社員総会、又は管轄裁判所に対し、提出されます。

     いずれの場合においても、会社の清算期間は、管轄裁判所又は当局の決定なくして、3年を超えないものとされています。
  • ウ 残余財産の分配

     清算人は、会社の債務を弁済した後、パートナーに対し、その資本金の金銭出資部分を払い戻します。超過分については、その利益分配についての持分に応じて分配されます。

     会社の現物資産は、パートナー間で分割されます。会社の基本定款に別段の定めがない限り、共同所有における財産の分割について規定に従って行われます。

     他方、会社の正味資産が、パートナーの全持分を満たすのに十分でない場合、その損失は、損失の配分について決定された割合に従い、パートナー間で配分されることになります。
  • エ 清算事務の終了

     清算人は、清算手続の最後に、パートナー、社員総会又は      

     管轄裁判所に対し、最終報告書を提出します。パートナー、社員総会又は管轄裁判所が、最終報告書を承認しない限り、清算は終了しません。

     その後、清算人は、清算の結了を宣言します。清算の終了は、かかる宣言の日以降、第三者に対し効力を生じます。

     清算人は、清算が完了した後、商業登記所から会社の登録を抹消します。

                  以上