カンボジアにおける不動産規制について

令和2年12月更新

 カンボジアにおいては、不動産に関する所有権は、カンボジア法人又はカンボジア国籍を有する自然人のみが取得できると憲法及び法律上定められているため、外国人・外国企業は、不動産を所有することができないのが原則です。では、外国人・外国企業は、いかなる形であれば、カンボジアにおいて不動産を取得・利用することができるでしょうか。本稿では、まず、1. カンボジアにおいて不動産所有権又は区分所有権を取得する場合の規律の概略を紹介し、次に、2.不動産を賃借する場合の規律及び3. カンボジアにおける土地コンセッションの規律について検討し、最後に、4.カンボジアにおける登記制度について概説します。

1. 不動産所有権又は区分所有権の取得

 カンボジア憲法によると、カンボジアの土地を所有することができるのは、カンボジア国籍を有する自然人及び法人に限られます。ただし、カンボジア国籍を有する法人とは、①カンボジアにおいて登記され、②カンボジア国籍を有する自然人又は法人により、その持分の51%以上を保有されている法人を意味するため、外国人・外国企業の出資比率を49%以下に設定した現地法人をカンボジア側のパートナーとの合弁で設立すれば、不動産所有権を取得することが可能です。

 また、アパートやコンドミニアム等の集合住宅の2階以上の部分については、区分所有権の設定が認められており、以下の条件等を満たす場合には、例外的に、外国人・外国企業であっても、コンドミニアムの区分所有権を取得することができます。

  • 外国人・外国企業が所有する部分の合計が、当該建物全体の床面積の70%を超えないこと

 かかる制限は、当該コンドミニアムの区分所有権を有する全ての外国人・外国企業の所有区分を合算して計算されるため、他の外国人・外国企業が所有する床面積を考慮する必要がある点には、注意を要します。

2. 不動産の賃借

 外国人・外国企業が、カンボジア国内の土地を利用する権利を確保する方法としては、不動産所有権を有するカンボジア人・カンボジア企業から、当該不動産を賃借する方法も可能です。カンボジアの賃借権は、①期間を15年以上50年以下とする長期賃借権(永借権)と、②期間を15年未満とする短期賃借権が存在しています。

 永借権は、賃貸人の承諾なく転貸・譲渡・担保権の設定が可能な物権的な権利です。その設定のためには書面による賃貸借契約を締結する必要があります。永借権を第三者に対抗するためには登記をすることが必要で、登記の手続が完了すると、権利証が発行されます。また、永借権の期間は最長50年ですが、更新することが可能です。更新後の永借権の期間は、50年以下とされています。

 短期賃借権は、譲渡・転貸等には賃貸人の承諾が必要な権利であり、その設定は書面による必要はなく、当該不動産の占有及び使用・収益の継続が第三者対抗要件で、登記をする必要はありません。短期賃借権の譲渡は、賃貸借契約が譲渡を許容している場合に限り行うことができます。

 一般に、工場やプラント等の規模の大きな案件では永借権が用いられ、事務所・店舗の利用については短期賃借権が設定される傾向にあります。

3. 土地コンセッション

  • ⑴ 土地コンセッションとは、管轄権を有する政府当局の裁量に基づいて作成された法的文書により創設される、①土地を占有し、②法定された権利を当該土地において行使することができる権利です。土地コンセッションは、国土管理・都市計画・建設省(the Ministry of Land Management、 Urban Planning and Construction)に登録され、その利用目的に従って、占有・利用している限り、第三者に対抗することができます。土地コンセッションのための契約期間は、原則として最長99年間で、対象となる土地の面積は最大1万ヘクタールです。土地コンセッションは、一定の場合には、政府の判断により取り消される場合があるため、注意が必要です。実際に、近年、土地コンセッションに対する国民の反発を受けて、政府が土地コンセッションを取り消した例が存在しています。

     土地コンセッションは、(a)社会的土地コンセッション、(b)経済的土地コンセッション及び(c)使用・開発・探査コンセッションに分類されます。このうち、社会的土地コンセッションは、主として住宅建設や生計を維持するための耕作を目的として、カンボジア国民に対してのみ付与される権利であるため、外国人・外国投資家は、直接これを利用することはできません。
  • ⑵ 経済的土地コンセッションは、工業上又は農業上の開発のために土地を整地することを認めるコンセッションです。経済的土地コンセッションについては、2005年、「経済的土地コンセッションに関する政令」が定められ、経済的土地コンセッションが付与される目的・基準等が定められています。

    経済的土地コンセッションは、以下の目的を達成するために付与されます。

  • ① 高度かつ適切な初期資本投資が必要な集中的な農業や農産業活動の開発
  • ② その地域の土地利用計画に基づき適切かつ永続的な方法で土地を開発する投資家の合意形成
  • ③ 生計機会の強化と多様化の枠組み、又は、適切な環境システムに基づく自然資源管理の枠組みの中での農村地区の雇用増加
  • ④ 経済的土地コンセッションプロジェクトにおける投資の奨励
  • ⑤ 経済的土地コンセッションによる土地使用料、税金その他関連するサービス料を通じた政府・州・村落の収入の創出
  •  また、経済的土地コンセッションは、以下の5つの基準を満たす土地に対して付与されます。
  • ① 当該土地が、State private property(国家私的使用地)として登記され分類されていること
  • ② その土地に対する土地利用計画が州・特別市土地管理委員会により策定されており、その土地利用が計画に適合していること
  • ③ 経済的土地コンセッションプロジェクトのための土地使用と開発計画に関し、環境及び社会的影響評価が終了していること
  • ④ 現行の法的枠組みと手続きに従い、移住問題に対する解決策を有すること。契約当事者である当局は、適法な土地所有者による強制的な移住が行われないこと、及び私有地へのアクセスが妨げられないことを保証しなければならない。
  • ⑤ 経済的土地コンセッションプロジェクトとその申請に関し、土地当局と住民の間で説明会がもたれていること
  • ⑶ 使用・開発・探査コンセッションについては、カンボジアにおける民間のインフラプロジェクトを促進することを目的とするコンセッション法(Law on Concession)が、2007年に制定されています。使用・開発・探査コンセッションが付与されるためには、当該インフラプロジェクトが一般公衆に対して直接または間接にサービスを提供するもので、かつ、当該プロジェクトが以下の分野のいずれかに含まれている必要があります。
  • ① 発電・送電・配電
  • ②運輸設備
  • ③ 水の供給と衛生設備
  • ④ 通信・情報技術に関するインフラ
  • ⑤ 観光プロジェクトに関するインフラ
  • ⑥ 石油・ガス関連インフラ
  • ⑦ 下水、排水等
  • ⑧ 廃棄物管理・処理
  • ⑨ 健康・教育・スポーツに関する公共インフラ
  • ⑩ 経済特別区に関連するインフラと社会的住宅供給
  • ⑪ 農業関連インフラ

4. 登記制度

 カンボジアでは、不動産登記は、原則として、不動産に係る権利の設定・移転・変更を第三者に主張するための対抗要件とされていますが、当事者の合意に基づく不動産所有権の移転は、登記をしなければ効力が生じないと規定されており、登記が効力発生要件となっています。したがって、契約に基づいてカンボジアの不動産を取得する場合、当該権利移転が確実に行われたことを確かめるためには、移転登記手続が完了したことを確認することが必須になります。

 不動産所有権の移転登記は、不動産が所在する場所を管轄する登記所に対して、譲渡人と譲受人が共同して、書面で申請します。申請の際には、申請書の他に、登記原因を証する書面を提出することが求められています。登記が完了すると、登記簿の記載とほぼ同じ内容が記載された証明書の発行を受けることができます。かかる証明書は、実務上「ハードタイトル」と呼ばれる権利証で、そこに記載されている権利が国土管理・都市計画・建設省の管轄下にある登記所に正式に登記されている権利であることを示す書類になります。

以上