イスラエルにおける外資規制について

令和3年5月13日更新

1.はじめに

 イスラエルには、一般的・横断的な外資規制を定めた法律は存在しません。そのため、イスラエルの外資規制は、各事業分野を所轄する官庁が個別に定めたもののみしか存在していません。加えて、イスラエルが、外国企業・資本による対内直接投資を積極的に推進する政策を採用していることから、原則として、外国企業は、イスラエル国籍企業の株式や資産に係る取引を自由に行うことができます。

 もっとも、個別の産業分野において規制当局が設置されており、特に国家安全保障の観点から法令に基づいて規制当局に独自の監督権限(ライセンス発行権限・ライセンス取消権限を含みます。)が付与されています。これらの監督権限は、イスラエルへの投資を企図する外国企業に対する審査機能としての側面を有します。また、イスラエルでは、外国資本による土地取得規制が設けられています。

 そこで、本稿では、主な外資規制が存在する産業分野である⑴防衛産業、⑵電気通信業、⑶銀行業、⑷不動産投資における外資規制について、根拠法、規制当局、外資規制として機能する監督権限の概要を紹介します。

2.外資規制

⑴ 防衛産業分野

  • ア Defense Corporations Lawに基づく規制

     防衛産業分野ではDefense Corporations Law(以下「防衛企業法」といいます。)に基づく規制が存します。

     防衛企業法では、国防大臣等が、国家安全保障の確保という観点から、企業を「防衛企業」として指定することができます。

     「防衛企業」に指定された企業の支配権又は管理権限の取得、譲渡又は保有は、国防大臣の事前の承認を得て、国防大臣が決定した条件のもとで行わなければなりません。

     これらの規制に違反した場合、譲受人において懲役刑・罰金刑が課されるリスクが生じるため、現地パートナー企業とのアライアンスを検討するにあたっては、必要に応じ、デューディリジェンスを通じて現地企業の属性を確認しておくことが推奨されます。
  • イ Defense Export Control Lawに基づく規制

     同様の規制は、Defense Export Control Law (以下「防衛管理法」といいます。)についても見られます。

     防衛管理法では、イスラエル国防省の防衛輸出管理部門の局長等(以下「ライセンス発行機関」)に防衛産業分野における監督権限が付与されています。

     防衛機器を輸出する際には、ライセンス発行機関が発行する防衛輸出ライセンスが必要になります。「防衛機器」には、民間の機器であっても防衛用途と互換性のある一定の機器が含まれます。

     また、防衛ノウハウについては、①イスラエル国外への移転、②イスラエル国内におけるイスラエル市民でもイスラエル居住者でもない自然人に対する伝達、③外国企業に対する伝達をする場合は、その伝達手段の如何を問わず、防衛輸出ライセンスを要するのが原則です。

     さらに、防衛機器に関するサービス(設計、開発、製造、組み立て、レビュー、アップグレード、変更、修理、保守、運用、梱包等を含みます。)、及び、防衛ノウハウに関するサービス(指導、訓練、コンサルティング)については、①イスラエル国外におけるイスラエル市民又はイスラエル企業による提供、②イスラエル国内におけるイスラエル市民でもイスラエル居住者でもない自然人に対する提供、③外国企業に対する提供についても、防衛輸出ライセンスを要します。

     そして、これらの規制に違反した場合も、同じく懲役刑・罰金刑が課されるリスクが生じるため、イスラエルへの対内直接投資の手段を検討するにあたっては、パートナー候補となる現地企業が防衛機器に関するサービスや防衛ノウハウを取り扱っていないか、取り扱っている場合は所定の防衛輸出ライセンスを取得しているか否かを確認しておくことが肝要です。

⑵ 電気通信業分野

 公共財としての性質を有する電気通信業分野では、国家安全保障の確保という観点から、Communications Law(以下「通信法」といいます。)に基づく広範な規制が定められています。

 例えば、通信法は規制対象の1つとして「電気通信活動」を定めていますが、この「電気通信活動」は、有線、無線、光学システムまたはその他電磁的方法によるサイン、シグナル、書き込み、視覚的情報、音声情報等の放送、転送又は受信として広く定義されています。

 そして、何人も、原則として、通信大臣による電気通信ライセンスなくして、電気通信施設の運用、設置、建設または保守を行ったり、電気通信サービスを提供したりすることはできません。

 また、通信大臣は、電気通信ライセンスを発行するにあたって、企業の役員構成、株式保有、当該企業の支配権の取得又は譲渡等について条件を付することができます。

 そのため、通信大臣は、これら規制権限の裁量的行使を通じて、外国企業によるイスラエル電気通信事業者への投資や、電気通信産業への参入を制限することが可能となっています。

 同様に、通信法は、ケーブルテレビ放送、衛星テレビ放送等についても、ライセンスの付与権限を通じた規制を置いています。

 そのため事業目的に電気通信業分野を含む現地企業とのアライアンスを検討するにあたっては、電気通信業ライセンスに付与された条件等を予め確認しておく必要があります。

⑶ 金融サービス分野(銀行業分野)

 イスラエルへの対内直接投資を検討しようとする企業において、銀行業分野を選択肢とする割合は必ずしも多くありませんが、経済社会基盤として重要な銀行業分野も、Banking (Licensing) Law(以下「銀行法」といいます。)によって規制されています。

 すなわち、銀行法では、イスラエル銀行総裁が発行するライセンスを取得しなければ、何人も、銀行、外国銀行、抵当銀行、投資銀行等の金融機関を設立することはできません。また、そのようにして発行されたライセンスの譲渡も認められていません。

 かかる銀行設立に要するライセンスの発行にあたっては、ライセンス申請者の事業計画及び履行可能性、ライセンス申請者の支配権者及び役員構成、ライセンス申請者の資本市場に対する貢献度(銀行制度やそのサービス水準に対する貢献)、政府の経済政策、公共の福祉、(外国企業の場合)相手国との互恵関係も考慮要素となります。

 また、銀行の支店の開設及び恒久的な支店の閉鎖にあたっては、イスラエル銀行の許可を取得する必要があります。

 かかる支店開設・閉鎖に要する許可に際しては、銀行の事業活動の範囲、資本、収益性及び支店管理能力、顧客へ提供されるサービス又は事業の発展に対する支店の貢献度、政府の経済政策、公共の福祉等が考慮要素となります。

⑷ 不動産投資規制

 昨年、日本政府は、外国人や外国企業による国内での土地買収を制限する法整備に関して必要な検討を始める旨を明らかにしましたが、イスラエルでは、国家安全保障の確保の観点から、既にIsraeli Lands Law(以下「土地法」といいます。)のもとで不動産投資規制が設けられています。

 すなわち、イスラエルの土地の大部分を占めるイスラエル政府が所有する土地に関する権利を外国人に移転する場合、原則として、イスラエル土地評議会の議長(通常は建設・住宅省大臣が就任します。)からの承認を得る必要があります。かかる承認手続を看過してなされた譲渡は無効となります。

 承認手続の対象となる「土地に関する権利」も広範なものとなっており、所有権、5年を超える長期リース権、所有権及び長期リース権を付与するオプション権が含まれます。

 承認手続において考慮要素とされるのは、国家安全保障の観点のほか、申請者とイスラエルの関係、申請者が土地に関する権利を取得する目的、申請者が既に保有している土地の範囲、対象となる土地の性質(面積、場所等)等です。

 単一の居住用の土地の権利を自然人に譲渡する場合など、安全保障上のリスクが低い一定の場合は、イスラエル土地評議会に代わって、イスラエル土地局長が譲渡承認機関となります。

3.まとめ

 以上、イスラエル外資規制について簡単に俯瞰をしました。日本とイスラエルは、日・イスラエル投資協定を締結していますが、イスラエル側は防衛産業分野等に関する内国民待遇・最恵国待遇の規定の適用については留保しています。そのため、イスラエルへの進出を検討するにあたっては、現地パートナー企業が営む事業分野に係る規制調査が推奨されるところです。

以上