カンボジアにおける現地法人の運営について

令和2年11月更新

 外国資本がカンボジアで現地法人を運営する上で重要と思われる以下の項目に関連する規律について、実務上用いられることが多いと思われる非公開(私的)有限責任会社(以下「非公開会社」といいます。)を前提として検討します。

1. 取締役

2. 取締役会

3. 株主

4. 株主総会

5. 監査役

 以下の記載は、主として、2005年に制定された会社法(2005年6月19日、法第 NS/RK/0605/019号。以下「会社法」といいます。)に基づいています。なお、非公開会社の設立に関する規律については、本ウェブサイト国際コンテンツ内の「事業拠点の設置」をご参照ください。

1. 取締役

 非公開会社は、最低1名の取締役を有している必要があります。取締役は、会社の事業経営を行い、会社の業務を執行します。定款においては、以下の取締役の権限について、記載しなければなりません。

  • (ⅰ)執行役員の任免及びその具体的権限の付与
  • (ⅱ)執行役員の給与その他の報酬の決定
  • (ⅲ)取締役の給与及び報酬額に関する株主総会への議案の作成・提出
  • (ⅳ)手形、社債その他の債務証書の内容の決定及び発行
  • (ⅴ)定款変更、合併、重要財産の譲渡、解散及び清算についての株主に対する提案
  • (ⅵ)会計原則と各種類株式の支払条件に従った配当の宣言
  • (ⅶ)定款で認められた範囲内での新株発行
  • (ⅷ)借入
  • (ⅸ)証券の発行、再発行、売却
  • (ⅹ)保証
  • (ⅺ)会社財産に対する担保権の設定
  • (ⅻ)各会計年度の決算書の作成及び株主総会への年次財務諸表の提出

 取締役となるためには、法的能力を有する19才以上の年齢の自然人であれば足り、株主であること等、その他の資格要件は、定款に別段の資格要件に関する定めがある場合を除き、要求されていません。なお、取締役の国籍・居住地については、会社法上、制限は定められていないため、外国に居住する外国人も取締役に就任することができます。ただし、現行の税務登録手続において、会社代表者の居住証明の提出が要求されている点には、留意が必要です。

 取締役は、株主総会の普通決議により選任されます。取締役の任期は、原則として2年であり、再任することができます。取締役はその任期が終了した後、代わりの取締役が選任されるまでの間、その職務を継続することができます。また、全取締役の任期が同時に終了することが無いように、各取締役の任期はずらして設定することが可能です。

 取締役は、理由の有無にかかわらず、当該取締役の選任に議決権を有する株主の過半数の賛成により解任することができます。また、取締役は、会社に対して書面により通知することで、何時でも辞任することができます。

2. 取締役会

 会社法上、取締役会の設置義務について規定がないため、取締役会の設置は任意であると解されます。取締役会の議長は、取締役会により、取締役の中から選任されます。取締役会の議長は、取締役の過半数の決議によって議長を解任されますが、議長から解任されたとしても、取締役を解任されることにはなりません。取締役会の議長又は総取締役数の3分の1以上の取締役は、取締役会を招集することができます。取締役会は、3ヶ月に1回以上開催する必要があります。取締役会の開催場所は、定款に別段の定めがない限り、カンボジア国内で開催される旨が法定されておりますので、カンボジア国外での取締役会の開催を予定している外国企業は、定款において、その旨を定めておく必要があります。

 取締役会の開催には、日付と議題の詳細を記載した招集通知を、各取締役に対して発することが必要です。ただし、各取締役は、招集通知を受け取ることを放棄することができます。また、招集通知を受け取らなかった取締役が、取締役会に出席した場合、招集通知を受け取ることを放棄したとみなされますが、当該取締役は、当該取締役会が適法に招集されていないことについて異議を述べることができます。

 取締役会の定足数は、定款にこれを上回る割合の定めがない限り、総取締役の数の過半数の取締役の出席です。各取締役は、各々一議決権を有します。取締役は、他の取締役の署名がある委任状を有する場合、取締役会において当該取締役を代理することができます。取締役会の決議は、出席取締役又は代理人の過半数の賛成により可決されます。

 取締役会の議事は、定款に別段の定めがある場合を除き、取締役間の書面のやりとりによっても行うことができます。この場合、各取締役は、検討及び決議のために提案された議案の内容、関連する情報並びにかかる議案についての投票用紙を受け取り、全取締役が議案に賛成票を投じた場合、当該議案は取締役会により承認されたものとみなされます。これらの書面のやり取りは、取締役会の記録の一部となり、議事録が作成され、全ての取締役に対して議事録が送付されます。

3. 株主

 株主は、株式の払込金額の範囲でのみ、会社に対して責任を負います。非公開会社の株主数は、原則として、2名以上30名以下です。ただし、株主が1名であっても非公開会社を設立することが可能であり、当該会社は、会社法上は単独株主有限責任会社と呼ばれ株主間に関する規定については異なる取扱いを受けますが、その他の点については、非公開会社と同様に取り扱われます。

4. 株主総会

 会社の取締役は、会社の設立後12ヶ月以内に、定時株主総会を招集しなければなりません。また、取締役は、必要な場合に、臨時株主総会を招集しなければなりません。また、51%以上の議決権を有する株主は、取締役に対し株主総会の招集を求めることができ、取締役が当該招集請求を受領してから21日以内に株主総会が招集されない場合には、当該株主は自ら株主総会を招集することができます。加えて、何らかの理由で、株主総会を招集し開催することができない場合、取締役、一定の株主又は商業省の担当者は、裁判所に対し、株主総会を開催する命令の発令を請求することができます。

 株主総会は、原則として、会社の定款・社内規則又は取締役会が定めたカンボジア国内の場所において開催されなければなりませんが、議決権を有する全ての株主の同意がある場合には、カンボジア国外において開催することも可能です。

 株主総会の招集通知を受け取ることができる株主は、取締役が設定した基準日の営業終了時において、会社の有価証券記入帳に名前が記載されている株主です。取締役は、基準日を株主総会の開催日の20日前から50日前までの間の期間に設定することができます。取締役が基準日を設定しない場合、基準日は、株主総会招集通知送付日の前日の営業終了時とされますが、株主総会招集通知が送付されないときは、株主総会開催日となります。

 株主総会招集通知は、株主総会開催日の20日から50日前に、上記の株主、全ての取締役及び監査役に対して送付されなければなりません。株主総会招集通知には、開催日、議題及び開催場所が記載されなければなりません。

 株主総会は、株主総会招集通知に記載された事項、及び、株主から提案された事項について、決議をすることができます。

 株主総会の定足数は、定款に別段の定めがある場合を除き、議決権を行使することができる株式の過半数を有する株主又はその代理人の出席です。

 株主総会の決議としては、会社法上、普通決議及び特別決議の2種類が規定されています。普通決議とは、議決権を行使した株主の過半数以上の賛成による決議です。特別決議とは、議決権を行使した株主の3分の2以上の賛成による決議、又は、当該決議について議決権を有する全株主による署名をもってする決議をいいます。

 主な普通決議事項は、以下のとおりです。

  • 取締役の選任
  • 監査役の選任及び報酬の決定
  • 監査役の解任
  • 監査役を選任しない旨の決議

 また、主な特別決議事項は以下のとおりです。

  • 定款の変更
  • 合併の承認
  • 解散

5. 監査役

 監査役は、個人又は公認会計士事務所において業務を行う公認会計士と定義されています。監査役は、会社法により要求される計算書類について株主への報告のために必要な調査を行います。

 監査役は、定時株主総会において、普通決議により選任されます。監査役の任期は、次の定時株主総会が終了するまでの期間です。また、監査役の報酬は、株主総会の普通決議又は取締役会により決定されます。

 公衆に対して有価証券を発行していない会社又は一人以上の者が未払の有価証券を保有していない会社は、監査役を設置しない旨の決議をすることができます。かかる決議を行わず監査役を設置していない場合、裁判所から監査役の設置を強制され報酬の支払を求められる可能性があるため、留意が必要です。

 監査役は、株主総会に出席する義務があり、これに違反した場合には、100万リエル(約25、400円)以上1000万リエル(約254、000円)以下の罰金若しくは6ヶ月以下の禁固又はこれらが併科されるため、注意が必要です。

以上