カンボジアにおける投資優遇制度について

令和2年10月更新

 カンボジアにおける事業活動に対する主な優遇措置は、①適格投資プロジェクト(QIP: Qualified Investment Project)に付与される優遇措置、②経済特別区(SEZ)への投資に対する優遇措置、及び、③特定の産業分野に対する投資優遇措置の3つです。

 本稿では、①一般的で適用対象の広いQIPに対する優遇措置について、1.主要な根拠法令、2.主な要件、及び、3.優遇措置の主な内容について概説します。

1. 主要な根拠法令

 カンボジアにおけるQIPに対する優遇措置を定める主な法令は、投資法(1994年8月5日、法第03/NS/94 号。投資法改正法(2003年3月24日、法第NS/RKM/0303/009 号)による改正を含み、以下「改正投資法」といいます。)、及び、その主要な下位規範である改正投資法の施行に関する政令111号(以下「政令111号」といいます。)です。

 このうち投資法については、現在、カンボジアでは、大規模な改正が進められているところですが、本稿では、現時点で適用される法令に基づき解説しています。

2. QIPに対する優遇措置の主な要件

 改正投資法が定める優遇措置を享受するためには、適格投資プロジェクト(QIP)に該当するとして、カンボジア開発協議会(CDC: The Council for the Development of Cambodia)から、最終投資登録証明書を取得する必要があります。QIPに該当するためには、政令111号の別表1の第2項において「優遇措置に適さない投資事業」としてリスト化されている事業(以下「ネガティブリスト」といいます。)のいずれにも該当しない必要があります。

(1) ネガティブリストに記載されている投資事業のうち、投資優遇措置を受けることができない投資分野の概要は、以下のとおりです。

投資優遇措置を受けることができない投資分野
商業活動・輸入・輸出・卸売、小売(免税店を含む)
水路・道路・空路による運輸サービス(鉄道分野への投資を除く)
国際水準のホテル外に位置するレストラン・カラオケ・バー・ナイトクラブ・マッサージ店・フィットネスセンター
観光サービスの提供・旅行代理店・観光情報業・観光広告業
カジノ・賭博
銀行・金融機関・保険会社・証券仲介業を含む通貨・金融に関する事業
ラジオ・テレビ・新聞・雑誌・映画・ビデオの製作・複製、映画館、スタジオ等を含む、メディア事業
専門家によるサービス
種の多様性・人の健康・環境に危険を及ぼす遺伝子組換え生物に関する事業
自然林の木材を用いた木製品の製造・加工
タバコ製品の製造
三ツ星を下回るグレードのホテル
100 室未満の客室のホテル又は30 戸未満の観光客向け宿泊施設及び10ヘクタール未満の観光客向けリゾート施設を有する複合観光センター
ホテル、テーマパーク、スポーツ施設、動物園を含む50ヘクタール未満の複合娯楽施設
駐車場
倉庫業
通信事業に対する付加価値のあるサービスの提供
不動産開発業

 (2)  ネガティブリストに記載されている投資事業のうち、投資優遇措置のための最低投資額が定められている投資分野の概要は、以下のとおりです。

投資優遇措置の付与に最低投資額が定められている投資分野 最低投資額
全製品を輸出産業に供給する裾野産業 10万米ドル
動物の飼料の製造 20万米ドル
皮革製品及びその他の関連製品の製造 金属製品の製造 電気製品・家電製品・事務用品の製造 玩具・スポーツ用品の製造 自動車及びその部品・付属品の製造 セラミック製品の製造 30万米ドル
食品・飲料の製造 繊維産業向けの製品の製造 衣類・繊維・履物・帽子の製造 自然の木材を使用していない家具・備品の製造 紙・紙製品の製造 ゴム製品・プラスチック製品の製造 清浄水の供給 伝統的医薬品の製造 輸出用水産物の冷凍・加工 輸出用穀類・農作物製品の加工 50万米ドル
化学物質・セメント・農業用肥料・石油化学製品の製造 近代的医薬品の製造 土地の規模が1、000ヘクタール以上の自然観光事業、及び、自然観光事業用地の建設 50床以上の一定の設備を有する総合診療所 100万米ドル
近代的なマーケットや商業センターの建設 200万米ドル
工業・農業・観光・インフラ・環境・エンジニアリング・科学その他の事業に用いられる技能開発・技術・ポリテクノロジーのためのトレーニングを実施するトレーニング・教育施設 400万米ドル
国際貿易展示センター及び会議場 800万米ドル

(3) ネガティブリストに記載されている投資事業のうち、投資優遇措置のための最低面積等の条件が定められている投資分野の概要は、以下のとおりです。

分類 投資優遇措置の付与に条件が定められている投資分野 条件
農業 水田農業 1、000ヘクタール以上
各種換金作物の生産 500ヘクタール以上
野菜の生産 50ヘクタール以上
畜産 家畜飼育 1、000頭以上
乳牛の酪農場 100頭以上
養鶏場 10、000羽以上
水産 淡水養殖場 5ヘクタール以上
海水養殖場 10ヘクタール以上
その他 植林 1、000ヘクタール以上
植樹 200ヘクタール以上
野生哺乳類の飼育 100頭以上
野鳥の飼育 500羽以上
野生爬虫類の飼育 1、000匹以上

3. 優遇措置の主な内容

 改正投資法に定められた優遇措置の主な内容としては、(1) 法人税の免除又は特別償却、(2) 輸入税の免除、(3) 輸出税の免除があります。以下、順に紹介します。

(1) 法人税の免除又は特別償却

 QIPは投資優遇措置として、法人税の一定期間の免除又は特別償却の適用のいずれかを選択することができます。

 法人税の免税期間は、3年間に、①始動期間及び②優先期間を加えた期間であり、最長で9年間です。

  • ①始動期間とは、最終登録証明書が発行された日以降、最初に利益を計上する年、又は最初に売上を計上してから3年間のうち、いずれか短い期間です。
  • ②優先期間とは、プロジェクトの業種及び投資額に応じて、以下の表のとおり0年間~最長3年間まで定められています。
プロジェクトの事業分野 投資額又はプロジェクトの種類 優先期間
軽工業 500万米ドル以下 0年
500万米ドル超2000万米ドル未満 1年
2000万米ドル超 2年
重工業 5000万米ドル以下 2年
5000万米ドル超 3年
観光業 1000万米ドル以下 0年
1000万米ドル超 1年
農業・農産業 短周期農業プロジェクト 1年
長周期農業プロジェクト 2年
基幹インフラ 1000万米ドル以下 1年
1000万米ドル超3000万米ドル未満 2年
3000万米ドル超 3年

 また、特別償却は、製造・加工の過程において使用される新品又は中古の有形固定資産の価格の40%の金額について、利用することができます。

 (2) 輸入税の免除

 QIPの種類に応じて、以下の物資について、免税輸入をすることができます。

QIPの種類 免税輸入可能な物資
国内志向型プロジェクト 生産設備、生産投入材、建設資材
輸出志向型プロジェクト 生産設備、建設資材、原材料、中間材、副資材
裾野産業プロジェクト 生産設備、建設資材、原材料、中間材、生産投入用副資財

 国内志向型プロジェクトとは、輸出を目的としないプロジェクトを意味し、輸出志向型プロジェクトとは、国外に製品を輸出するプロジェクトを意味し、裾野産業プロジェクトとは、製品の全部を輸出産業へ供給するプロジェクトを意味します。

 (3) 輸出税の免除

 QIPは、原則として輸出税の免除を受けることができます。

以上