イスラエルにおける有限責任会社の種類、設立、株主の権利義務について
令和5年4月更新
1.はじめに
イスラエル会社法では、会社とは、イスラエルの法律に基づき、イスラエルで設立・登録された法人であると定義されます。
そして、イスラエルの大半の会社は、有限責任会社(limited liability company)の形態を採用し、会社の法的義務及び債務に対する出資者の責任を制限しています。
そこで、本稿では、イスラエルにおける有限責任会社の特徴として、有限責任会社の種類、設立手続及び株主の権利義務を概説します。
2.有限責任会社の種類
⑴ 非公開会社(Private Company)
非公開会社の主要な機関は、①1名以上の株主から構成される株主総会、②1名以上の取締役から構成される取締役会、③取締役会の選任するゼネラルマネージャーその他の役員です。
非公開会社は、株式及び社債を一般公衆に提供又は販売することはできず、その定款には株式の譲渡制限規定を設ける必要があります。
⑵ 公開会社(Public Company)
公開会社の主要な機関は、①7名以上の株主から構成される株主総会、②1名以上の取締役から構成される取締役会、③取締役会の選任するゼネラルマネージャーその他の役員です。
公開会社は証券取引所に登録され、株式及び社債を一般公衆に販売又は提供することができますが、イスラエル会社法及びイスラエル証券取引法の要件に従った目論見書を発行しなければなりません。
また、公開会社は、監査済み財務諸表及び取締役の報告書を含む年次報告書を登記所に提出し、一般に公開する義務があります。
3.有限責任会社の設立
会社設立は、定款の写し、取締役の宣誓書その他の必要書類を提出し、所定の登録料を支払って、登録申請を行うことによって行われます。登録料は約2600NISです。
定款には、最低限、会社名、会社の目的、授権資本、株式の種類、数及び額面価格の詳細、株主の責任の制限の有無及び内容、本店事務所に関する規定を含んでいなければなりません。イスラエルの公用語はヘブライ語及びアラビア語ですが、定款は英語で作成しつつ、ヘブライ語の翻訳文を付して登記所に提出することも可能です。
また、外国籍の自然人が会社を設立しようとする場合はパスポートの写しが、外国籍の法人が会社を設立しようとする場合は当該法人の設立証明書が、それぞれ必要となります。
登録手続自体は、提出された必要書類に不備等がない限り、登記所へ必要書類を提出してから数営業日で完了します。登録が完了すると、登記所から法人設立証明書及び法人番号が発行されます。
4.有限責任会社における株主の権利義務等
⑴ 最低資本金
イスラエルにおいて、最低資本金制度はありません。但し、金融機関等の特定の業種に関しては、事業運営のために十分な資本金を確保することが求められますので、留意が必要です。
⑵ 基本的な株主権
ア 配当金請求権
株主は、会社の監査済み計算書類に計上された会社の利益の範囲内で、その持株比率に応じて計算された配当金の分配を受ける権利を有しています。
イ 残余財産分配請求権
株主は、会社清算時、会社の債務の弁済後に残存する資産について、ア.配当金請求権と同様に、分配を受ける権利を有しています。
ウ 議決権
株主は、定時株主総会又は臨時株主総会において、議決権を行使することができます。通常、株主は1株につき1議決権を有しています。
エ 株主提案権
株主総会における議題は、取締役会において決定されるのが原則ですが、会社の議決権の1%以上を有する株主は、取締役会に対して審議すべき議案の追加を請求することができます。
オ 総会招集請求権
a) 定時株主総会
株主は、定時株主総会が招集されなかった場合、裁判所への申立てにより、定時株主総会の招集を請求することができます。
また、株主は、定時株主総会を現実に招集することができない場合、裁判所への申立てにより、定時株主総会の招集及び開催方法の決定を求めることができます。
b) 臨時株主総会
非公開会社の場合、会社の発行済株式総数の10%以上かつ会社の議決権の1%以上を有する株主又は会社の議決権の10%以上を有する株主は、臨時株主総会の招集を請求することができます。
また、公開会社の場合、会社の発行済株式総数の5%以上かつ会社の議決権の1%以上を有する株主又は会社の議決権の5%以上を有する株主は、臨時株主総会を招集することができます。
カ 会社の財務状況等の確認
取締役会は、取締役会が承認した、貸借対照表及び損益計算書を含む計算書類を定時株主総会に提出しなければなりません。非公開会社では、一定の要件を充足すれば定時株主総会の開催を省略することも可能ですが、かかる場合にも株主に計算書類を送付する必要があります。
また、取締役会は、議決権の10%以上を有する1人又は複数の株主からの求めに応じて、会社が各取締役に対して行った金銭支払状況や、会社が計算書類を作成した過去3年間の退職条件を含む会社の債務負担の状況等が記載された監査済み報告書を提供しなければなりません。
キ 会社書類の閲覧謄写請求権
株主は、会社に対して、株主総会議事録(会社は、株主総会開催日から7年間、登録事務所に備え置かなければなりません)、計算書類、株主名簿、登記所又は証券取引委員会に提出された書類で一般的な閲覧可能なものについて、閲覧又は謄写を請求することができます。
ク 差別的な会社運営の排除措置請求権
株主は、会社の事業が少数株主にとって差別的な方法で運営され又は運営される相当程度の懸念が存する場合、裁判所への申立てにより、かかる懸念を排除又は防止するために適切な措置をとることを請求することができます。
ケ 各種提訴権
株主(及び取締役)は、会社に対して法的根拠及び事実的根拠を詳細に記述した書面を提出する方法によって権利行使を求め、会社が適切な措置をとらなかった場合に、裁判所の承認を得て、代表訴訟を提起することができます。
また、株主は、株式の所有、保持、購入または売却の結果、法的請求権を有する場合、同一の法的請求権を有する株主グループの代表として、裁判所の承認を得て、クラスアクションを提起することも可能です。
⑶ 株主の責任
有限責任会社の株主は、会社の債務・義務について、保有する株式の引受価額の限度で責任を負うことが原則です。
但し、有限責任会社の法人格が法律の定めを潜脱し又は第三者を欺く意図をもって利用される等、一定の場合には法人格が否認され、株主が直接責任を負担することがあります。
⑷ 株式の種類
会社は、1種類の株式(普通株式)のみを発行することが一般的ですが、種類株式(優先株式、無議決権株式等)を発行することも可能です。種類株式が発行される場合、当該種類株式の種類株主は、前述した株主の権利に関連して追加的又は優先的な権利を付与されます。
5.まとめ
以上、イスラエルにおける有限責任会社の特徴のうち、その種類、設立手続及び株主の権利義務について簡単に俯瞰をしました。
イスラエルにおける有限責任会社の設立は、専門家の助力を得て必要書類を作成することで比較的短期間のうちに進めることが可能です。他方で、イスラエルにおいても、日本と同様、現地パートナーその他の複数の出資者間で合弁企業を組成する場合は、株主の基本的権利を踏まえつつ、定款、株主間契約・創業者間契約等で適切な利害調整を行うことが肝要です。
以上