イスラエルにおける優遇措置について

令和3年6月2日更新

1.はじめに

 イスラエルでは、1959年制定の投資奨励法(Law for the Encouragement of Capital Investments)や1984年制定の産業研究開発奨励法(Law for the Encouragement of Research, Development and Technological Innovation in Industry)に基づく各種優遇措置が設けられています。本稿では、各種優遇措置の具体的内容として、助成金、優遇税制、研究開発促進のための優遇措置などの制度の概要について紹介します。

2.投資奨励法に基づく優遇措置

⑴ 概要

 投資奨励法では、主として、設備投資に関する助成金と諸税の減税等の優遇税制に関する優遇措置が設けられています。

⑵ 設備投資に関する助成金

 助成金を申請する会社は、イスラエルで登録された事業会社であること、会社の施設の売上高の25%が輸出に由来すること、会社の施設が開発区域A(投資奨励法で定義される。)に所在すること、サービス産業、農業、鉱物・天然ガス産業の一部でないこと、雇用助成金を同時に申請し又は承認されていないことなどの基準を満たす必要があります。

 かかる申請は、経済産業省の投資局により審査され、承認の可否が判断されます。

 申請が認められた場合、固定資産、土地開発、生産設備または施設に対する投資額の最大20%の助成金の支給を受けることができます。

⑶ 優遇税制

 投資奨励法で定義される「優遇企業」、「特別優遇企業」、「優遇技術企業」または「特別優遇技術企業」の適格基準を満たす企業を所有する者は、企業の収入に対して、法人税や配当税の軽減税率等の適用を受けることができます。

  • ア 優遇企業

     年間売上高の25%を輸出し、「工業会社」として定義され、事業活動の大半が製造業である企業は、「優遇企業」の適格基準を満たします。

     開発区域Aに設立された優遇企業は7.5%(2017年改正により、9%から7.5%に引き下げられました。)の法人税率、その他の地域で設立された優遇企業は16%の法人税率の適用が受けられ、また、20%の配当税率と加速償却の適用を受けることができます。
  • イ 特別優遇企業

     「特別優遇企業」の適格基準を満たすためには、イスラエルの年間優先売上高総額が10億NIS以上であり、優遇企業を所有する会社の連結貸借対照表が100億NIS以上であり、以下の①~④の1つ以上をその事業計画に含んでいることが必要です。
    • ① イスラエル中部において生産設備に対し最低8億NISの投資を行うか、または、認可日から3年間に渡り開発区域Aに4億NISの投資を行うこと

      ② 開発区域A以外の開発地域の「優先支店」において研究開発活動に最低1億5,000万NISの投資を行うこと

      ③ 開発区域Aにおいて研究開発活動に最低1億NISの投資を行うこと

      ④ 開発区域A以外の地域で従業員500名以上を雇用する、または、開発区域Aで250名以上を雇用すること

       開発区域Aに設立された特別優遇企業は5%の法人税率、その他の地域で設立された特別優遇企業は8%の法人税率、外国会社である親会社に直接支払われた配当に対しては、5%の配当税率の適用を受けられます。また、特別優遇企業は、加速償却の適用を受けることができます。
  • ウ 優遇技術企業

     各課税年度において、以下の①および②を満たすか、または、③を満たし、かつ、④および⑤の条件を満たす場合、「優遇技術企業」の適格基準を満たします。
    • ① 企業の研究開発費(課税年度に先立つ3年間)の平均割合が売上高の合計に対して年間7%以上、または7,500万NIS を上回ること

      ② 以下⑴~⑷のうち1つ以上に該当する企業を所有していること
      • ⑴ 従業員の20%以上、または、200人を超える従業員が、財務報告書において全給与が「研究開発経費」として計上される

        ⑵ ベンチャーキャピタルが同社に800万NIS超を投資しており、同社が投資後に業務分野を変更していない

        ⑶ 課税年度に先立つ3年間の収入が、それ以前の課税年度に対して平均で25%以上増加しており、この間に、課税年度およびそれに先立つ各年の売上高の規模が1,000万NIS以上である

        ⑷ 課税年度に先立つ3年間の従業員数が、それ以前の課税年度に対して平均で25%以上増加しており、この間に、課税年度およびそれに先立つ各年に50人超の従業員を雇用している。
    • ③ 「イノベーション推進企業」であることを認められ、Innovation Authority(革新局(IA))から認可を受けていること
    • ④ 課税年度における会社の親会社グループの総収入が100億NISを上回らないこと
    • ⑤ 企業が年間売上高の25%超を輸出していること。

       かかる、「優遇技術企業」は、その「優先技術収入」(投資奨励法第51条で定義される。)に指定された収入については、開発区域Aの技術企業を所有する会社の法人税率は7.5%、開発区域A 以外の技術企業を所有する会社の法人税率は12%となる優遇が受けられます。

       また、外国企業への無形資産の売却(2 億NIS 以上の売却価額の場合)に対するキャピタルゲイン税率は、革新局の承認を条件として、12%となる優遇が受けられます。

       さらに、配当税については、優遇技術企業を所有する企業の収益に20%の税率で課税されます。
  • エ 特別優遇技術企業

     上記「優遇技術企業」の適格基準のうち、④の「課税年度における会社の親会社グループの総収入が100億NISを超えない」との条件を、「課税年度における会社の親グループの総収入が100億NIS以上となること」と置き換えた条件を満たすと「特別優遇技術企業」の適格基準を満たします。

     この場合、「優先技術収入」について、法人税率は6%、外国企業への無形資産(企業が開発した資産、または、企業が外国企業から購入した資産)の売却に対するキャピタルゲイン税率は6%となる優遇が受けられます。

3.研究開発促進のための優遇措置

⑴ 概要

 産業研究開発奨励法を基本として、研究開発促進のための様々な優遇措置が設けられています。本稿では、研究開発奨励法に基づく優遇措置を紹介するとともに、多国籍企業に関連する優遇措置をいくつか紹介します。

⑵ 産業研究開発奨励法に基づく優遇措置

 産業研究開発奨励法に基づき承認されたR&D計画に対して、補助金が支給されます。補助金は、承認されたR&D計画の予算に対し、一定割合(計画の内容により異なり、30~66%の幅があります。)で支給されます。

 補助金を受けたR&D プロジェクトが、商業利益を得られる製品となった場合、開発者はロイヤルティーを支払う義務を負います。

 なお、政府予算から他の補助金を受けている事業は、本法の補助金を受けることはできません。

⑶ その他の優遇措置

  • ア 二国間ファンド

     国内外企業間のR&D協力を奨励するために、イスラエル企業と外国企業の共同プロジェクトの資金援助を行う二国間ファンドがあります。イスラエルには米国、カナダ、韓国、シンガポールの二国間ファンドがあり、原則として、両国企業による共同研究開発プロジェクトに対し、50%までの資金提供があります。
  • イ MAGNETプログラム

     事業会社と研究機関の共同事業体の形成を支援するプログラムです。事業会社には、認可された研究開発費総額の最大66%の補助金が支援されます。

4.まとめ

 以上、投資奨励法に基づく優遇措置と研究開発促進のための優遇措置を中心にイスラエルの優遇措置について紹介しました。特に、投資奨励法は1959 年の制定以来何度も改正がなされていますので、同法に基づく優遇措置の適用を検討する場合は、その改正内容に留意する必要があります。

以上