ラオスにおける投資規制
2016年6月9日更新
ラオスにおいては、事業活動を目的とする投資を一般的に規律する法律として投資奨励法が存在し、また、2013年に改正された企業法及びその下位規範がネガティブリストを規定し関係省庁による事前審査が求められる事業がリスト化されている。本稿では、1.これら根拠法令を紹介した後、ラオスにおける投資規制の2.規制対象事業及び3.資本金に関する規制について検討する。
ラオスにおける外国資本の投資活動に対する規制は、内国資本による投資にも同じく適用されるものである場合も少なくない。そのため本稿も外国資本の投資に対する規制(いわゆる外資規制)に限定せず、投資活動全般に関する法令の内容を紹介している。
ただし、ラオスは、現在、法令を整備しつつある段階にあり、下位規範が十分に整備されているとは言い難い分野もあり、また、担当官により法令の解釈が異なる場合も少なくなく、投資規制についても、法令の規定のみを参照するだけでは、実際の記載の状況を把握するためには十分でない場合がありうる。実際にラオスへ進出したり、ラオスの会社を対象としてM&Aを行うにあたっては、本稿で検討した投資規制に加えて、予定している業務を所轄する監督省庁の法令において個別の規制が定められていないかを確認し、必要に応じて当該規制当局と事前の折衝を行い、必要な許認可・ライセンスの種類・取得手続・必要書類を事前に把握しておくことが重要であると思われる。
また、ラオスにおいては、本稿で検討した投資規制に加えて、外資の土地所有・外国人の就労等に関して規制が存在しているため留意が必要である。
- 1. 根拠法令
- 2. 規制対象事業
- (1) ラオスにおいて禁止されている事業
- (2) ラオス国民のための事業
- (3) 企業登録前に所轄官庁による審査が必要な事業
- (4) 外国投資家の参入に対して条件が付されている事業
- 3. 資本金に関する規制
ラオスにおける事業活動を目的とする投資を一般的に規律する法律として、投資奨励法(ກົດໝາຍ ວ່າດ້ວຍການສົ່ງເສີມການລົງທຶນ ສະບັບເລກທີ 02 /ສພຊ ລົງວັນທີ 8 ກໍລະກົດ 2009。以下「投資奨励法」という。)及びその下位規範が存在している。また、2013年に改正された改正企業法(ວ່າດ້ວຍ ວິສາຫະກິດ (ສະບັບປັບປຸງ) ລົງທຶນ ສະບັບເລກທີ 46/ສພຊ ລົງວັນ ທີ 26 ທັນວາ 2013 。英訳はEnterprise Law (Amended)。以下「改正企業法」という。)及びその下位規範がネガティブリストを規定するとともに、商工省(Ministry of Industry and Commerce:MOIC)が省令等においてラオスにおいて規制が課せられる事業分野をリスト化している。
ラオスにおける特定の事業活動を目的とする投資に対して法的規制が課せられている事業分野は、主として(1) ラオスにおける活動が禁止される事業分野、及び(2)ラオス国民に留保されている事業分野、(3) 企業登録の際に関連する省庁の事前審査が求められる事業分野、及び(4) 外国投資家の参入に対して条件が付されている事業分野の4つに分類することができる。以下、該当する事業の概要を順に紹介する。
なお、上記の(1)~(4)の各事業については、それぞれ省令等においてリストが定められており、以下の内容はこれに依拠して記載している。ただし、個別の法令や所轄官庁により別途規制が課せられている可能性があるため、実際に進出を検討するにあたっては、リストの原本の内容の検討に加えて、所轄官庁に対して事前確認を行うことが重要であると思われる。
以下の各事業は、ラオス国内において設立・営業することが禁止されている。
(i) 危険な化学物質を取り扱う事業
(ii) 放射性の鉱物を取り扱う事業
(iii) 武器・戦車(産業用爆発物を除く)を取り扱う事業
(iv) アヘン・大麻・コカイン等及びこれらの派生物を取り扱う事業
(v) 紙幣・造幣インク・造幣機器等を取り扱う事業
(vi) その他法令基づいて禁止されている事業
以下の各事業は、ラオスの民族集団の文化の一部である伝統的な事業であり、ラオスを象徴し、雇用や持続的な所得を創出しつつ、ラオスの民族集団の生活向上への解決策を提供するとして、ラオス国民のために留保された事業のリストの概略である。詳細については、リスト原本を確認するとともに、専門家又は担当省庁へ確認されたい。
(i) 生薬となる天然資源の収集
(ii) 機織り、刺繍、小規模な木製品の製造・木工・彫刻・籠編
(iii) 陶器の製造
(iv) 装飾品及びその部品の製造
(v) 15メガワット以下の水力発電(コンセッション形式のものを除く)
(vi) 建物内の電気装置の設置、水道管・エアコンの設置
(vii) 資本金40億キープ(約5300万円)以下の自動車・バイクの修理
(viii) 陸上乗客輸送
(ix) タクシー事業を除くその他の陸上輸送
(x) 3つ星以下のゲストハウス、ホテル等
(xi) 新聞・雑誌等の印刷
(xii) 印刷所の設立
(xiii) コミュニティラジオ・テレビ局の設立等
(xiv) 非貯蓄型マイクロクレジット
(xv) 質屋
(xvi) 歴史・自然・文化に関する調査・設計・建設
(xvii) ラオス語の翻訳
(xviii) 職業の斡旋
(xix) 地域観光
(xx) 建物の洗浄
(xxi) 技術職業訓練教育
(xxii) 外国人向けラオス語教育
(xxiii) 民間の診療所
(xxiv) 靴・皮の修理
(xxv) 洗濯・ドライクリーニング
(xxvi) 散髪・美容
(xxvii) 葬儀サービス
所轄官庁の事前の審査が必要な事業として、いわゆるネガティブリストにおいて記載されている事業には、以下の各事業が含まれる。なお、執筆者が2016年5月24日、商工省の担当者に確認をしたところ、2012年度のリストを使用して審査の要否を判断しているとの回答を得たため、以下の内容もこれに準拠してその一部を抜粋して記載している。
なお、ASEAN諸国におけるネガティブリストとは異なって、ラオスのネガティブリストに記載されている事業は、ラオスにおいて営むことが禁止・制限されているわけではなく、法令上は企業登録の際に所轄官庁の事前審査が要求されているのみである。ただし、所轄官庁の審査には、想定以上の時間がかかる場合が少なくないため、留意しておく必要がある。
(a) 農林漁業 |
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・狩猟及びこれに関連する活動 |
・植林・森林に関する活動 |
・森林の伐採 |
・河川における漁業 |
(b) 加工(製造)事業 |
・他に分類されていない化学物質の製造 |
・薬剤・医薬品・植物性の薬剤の製造 |
(c) 水の配給、排水の浄化、廃棄物管理等に関する事業 |
・水の保全・浄化・配給 |
・排水の浄化 |
・危険な廃棄物の保管・保全・管理 |
(d) 卸売、小売、自動車・バイクの修理 |
・固形・液状の燃料及び関連する製品の卸売 |
(e) 運輸・集荷 |
・鉄道による乗客輸送 |
・鉄道による商品輸送 |
・パイプによる輸送 |
・航空機による乗客輸送 |
・航空機による商品輸送 |
・郵便 |
(f) 情報通信 |
・書籍の印刷 |
・新聞・雑誌等の印刷 |
・写真・ビデオ・テレビ番組の作成・販売等 |
・歌詞や音楽の印刷 |
(g) 金融・保険 |
・その他の金融仲介業 |
・持株会社 |
・信託、ファンドその他投資エンティティ |
・融資、その他の信用供与 |
・保険や年金事業を除くその他の金融サービス |
・生命保険、生命保険以外の保険、再保険 |
・年金基金 |
・金融市場の管理 |
・証券・商品取引契約の仲介 |
・その他の金融サービスの補助業務 |
・ファンドの運営 |
(h) 職業・科学・技術事業 |
・法務事業 |
(i) 支援サービス及び行政管理 |
・雇用に関する事業 |
(j) 教育事業 |
・技術及び職業教育 |
・高等教育 |
(k) 保険衛生・社会セクター事業 |
・病院 |
・医療治療・歯科治療 |
・その他保険衛生 |
(l) 芸術・娯楽 |
・賭博 |
・遊園地 |
ラオスにおけるネガティブリストについては、コンセッション事業を管轄している計画投資省の投資促進局(Investment Promotion Department: IPD)は、執筆者が商工省で確認したものとは一部異なる内容のネガティブリストを本稿執筆時点で掲載している。また、予定事業の監督省庁がネガティブリストとは異なる独自の審査を求める可能性が否定できないため、最新の情報に注意を払うと共に監督省庁に事前に確認を行うことが重要であると思われる。
以下の各事業については、以下に記載した外国投資家の登録資本金要件及び出資比率要件を満たす場合には、外国投資家はラオスにおいて当該事業を営むことができる。
事業分野 | 外国投資家に課せられる条件 | |||||||
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登録資本金 | 出資比率 | |||||||
(a) 加工(製造)分野 | ||||||||
他に分類されていないその他の食品加工 | 10億キープ以上 | 20% | ||||||
薬剤・医薬品・植物性(の薬剤)の製造 | 10億キープ以上 | 49% | ||||||
(b) 建設分野 | ||||||||
道路・鉄道の建設 | ||||||||
内資・外資の共同事業による場合 | 10億キープ以上2400億キープまで | 49% | ||||||
外資による場合 | 2400億キープ以上 | 100% | ||||||
建設現場の準備 | ||||||||
小規模のプロジェクト | 80億キープ以上400億キープまで | 49% | ||||||
大規模のプロジェクト | 400億キープ以上 | 49% | ||||||
その他の建設及び据付 | ||||||||
小規模のプロジェクト | 80億キープ以上400億キープまで | 49% | ||||||
大規模のプロジェクト | 400億キープ以上 | 49% | ||||||
(c) 卸売及び小売、自動車及びバイクの修理分野 | ||||||||
自動車のメンテナンス及び修理 | 15億キープ以上 | 100% | ||||||
小売業、対象を特定しない卸売業 | 40億キープ以上100億キープ未満 | 50% | ||||||
100億キープ以上200億キープ未満 | 70% | |||||||
200億キープ以上 | 100% | |||||||
(d) 運輸及び倉庫分野 | ||||||||
タクシー | 50億キープ以上 | 100% | ||||||
高速道路の貨物輸送 | ||||||||
国内貨物輸送 | 30億キープ以上 | 100% | ||||||
国際又は海外貨物輸送 | 50億キープ以上 | 49% | ||||||
倉庫・保管 | 10億キープ以上 | 49% | ||||||
道路運送における日常サービス | ||||||||
国内貨物輸送におけるサービス | 50億キープ以上 | 49% | ||||||
国内及び国際貨物輸送ターミナル | 100億キープ以上 | 49% | ||||||
その他の運送支援サービス | 30億キープ以上 | 49% | ||||||
国内貨物輸送におけるサービス | ||||||||
国内及び国際貨物輸送ターミナル | ||||||||
(e) 宿泊及び外食分野 | ||||||||
短期の宿泊サービス(3~5つ星ホテル) | 10億キープ以上 | 60% | ||||||
(f) 金融分野 | ||||||||
その他の金融機関 | 株主間合意の比率による | |||||||
銀行設置(商業銀行) | 3000億キープ以上 | |||||||
銀行支店 | 1000億キープ以上 | |||||||
マイクロファイナンス機関の預金の開設 | 30億キープ以上 | |||||||
(g) 職業・科学・技術分野 | ||||||||
農業及びエンジニアリング事業並びに関連する技術助言サービス | 40億キープ以上80億キープまで (小規模プロジェクト) 80億キープ以上 (大規模プロジェクト) |
49% | ||||||
プロジェクトの実施可能性についての調査・研究 | ||||||||
住宅及び都市計画の測量・設計 | ||||||||
内装及び外装 | ||||||||
建設コンサルタント | ||||||||
測量設計及び建設エンジニアリング | ||||||||
技術的な調査及び分析 | 10億キープ以上 | 100% | ||||||
(h) 教育分野 | ||||||||
他に分類されていないその他の教育 | ||||||||
一般の運転教習所 | 80億キープ以上 | 49% | ||||||
重機の運転教習所 | 150億キープ以上 | 100% | ||||||
(i) 健康・社会福祉分野 | ||||||||
医薬品及び伝統的医薬品に関する事業 | 10億キープ以上 | 49% |
以下は、進出の際に営むことが多いと思われる一般事業を行う場合の資本金に関する規制についての記載である。
外国投資家が一般事業へ投資する場合、登録資本金の額は10億キープ(約1330万円)以上でなければならない。また、外国投資家が、ラオス企業との合弁の形態で一般事業に投資する場合には、外資の出資比率は総資本の額の10%以上でなければならない。
登録資本金については、会社は、①当初払込資本金として企業登録証明書を受領した後90営業日内に以下のいずれかの金額を、②企業登録証明書を受領した後1年以内にその残額を、ラオスで設立された商業銀行を通じて会社の口座へ払い込む必要がある。
・農業:登録資本金の40%
・製造業・手工業:登録資本金の60%
・貿易・サービス業:登録資本金の80%
また、かかる登録資本金の払込は、ラオスキープ建で行われる必要がある。
加えて、外国投資家に登録資本金額の条件及び出資比率の制限が課せられる事業分野が存在している。詳細は本稿2(4)を参照されたい。
以上