ラオスにおける現地法人の運営

2016年8月8日更新

 本稿では、日系企業がラオスで現地法人を運営する上で重要と思われる会社の機関に関連する規律について、実務上用いられることが多いと思われる有限(非公開)会社(ລິສັດຈ າກັດ。英訳はLimited Company。以下「有限会社」という。)を前提として、以下の5項目につき検討する。

 1. 取締役
 2. 取締役会
 3. 株主
 4. 株主総会
 5. 監査役

 以下の記載は、主として、2013年に改正された改正企業法ວ່າດ້ວຍ ວິສາຫະກິດ (ສະບັບປັບປຸງ) ລົງທຶນ ສະບັບເລກທີ 46/ສພຊ ລົງວັນ ທີ 26 ທັນວາ 2013。英訳はEnterprise Law (Amended)。以下「改正企業法」という。)に基づいている。なお、有限会社の設立に関する規律については、本ウェブサイト国際コンテンツ内の「ラオスにおける事業拠点の設置」を参照されたい。

  1. 1. 取締役
  2.  有限会社の取締役の人数は、最低1名で足りるが、必要に応じて2名以上の取締役を置くことも可能である。複数名の取締役を有する場合には、そのうち1名を「業務執行取締役(Executive Director)」として定め、有限会社の名前を用いて契約を締結する権限をこの者に委譲することができる。

     取締役となるための資格要件は、以下のとおりである。

    1. (i) 法人でないこと
    2. (ii) 行為能力を有すること
    3. (iii) 破産を原因として課せられる事業運営の制限期間を経過していない者でないこと
    4. (iv) 詐欺・横領に関する犯罪により懲役・禁固刑で服役していないこと

     なお、取締役の国籍・居住地については、改正企業法上、制限は定められておらず、別段の合意がない限り、株主も取締役になることができる。

     当初の取締役は、創立総会において選任される必要があるが、その後は株主総会により選任される。取締役の解任は、株主総会の決議により行うことができる。有限会社の株主又は取締役会は、取締役の選任・解任について、その手続が改正企業法又は会社の定款の定めに違反した場合に限り、裁判所に訴訟を提起することができる。

     取締役の任期は2年であり、再任することができる。

     取締役の全ての行為は、定款に定められた権利・義務の範囲内でなければならず、かつ、株主総会の監督の下になければならない。取締役の主な職務は、以下のとおりである。

    1. (i) 定款・株主総会決議・設立(合弁)契約書に定められた事業の経営
    2. (ii) 株主に対する出資の履行請求
    3. (iii) 事業目的に従った会社資本の管理・運用
    4. (iv) 会計帳簿の備え付け及びその他全ての会社関係書類の管理
    5. (v) 財務諸表の株主への配布及び保管
    6. (vi) 適切な方法による利益の配当
    7. (vii) 役員・社員の管理・使用
    8. (viii) 自身と会社との利害関係についての会社への通知

    取締役は、以下の理由により、その地位を喪失する。

    1. ・ 任期の満了
    2. ・ 当該取締役を解任する株主総会の決議
    3. ・ 当該取締役の死亡、破産、辞任又は取締役としての資格の喪失

     取締役が地位を喪失し、新取締役が指名された日から10営業日以内に、会社は、かかる変更を登記するため、登記官に通知する。かかる変更を第三者に対抗するためには、変更登記が必要である。

  3. 2. 取締役会
  4.  2人以上の取締役を有する有限会社は、原則として、取締役会を設置することができる。500億キープ(約6億6600万円)を超える資産を有する有限会社は、取締役会を設置する義務がある。取締役会の権利及び義務は、以下のとおりである。

    1. (i) 有限会社の重要な業務を実施し、取締役の行為を監督すること
    2. (ii) 定時株主総会と翌年の定時株主総会との間の期間に生じた取締役の空位を補充すること
    3. (iii) 会社の事業活動の計画を策定すること
    4. (iv) 定款に定められた権利・義務を遂行すること

     取締役会は、議長を定める必要があるが、副議長については定めないことも可能である。取締役会の議長が、業務執行取締役に任命された場合、かかる取締役は「代表取締役(President Director)」と呼ばれる。

     取締役会の活動は、定款に規定された原則及び手続に基づいて行われる。定款に定めがない場合には、以下の企業法の条項に従って行う。

    1. ・ 定足数は、取締役会の決定に従って定められるが、総取締役の数の過半数を下回ることはできない。取締役が2名の場合は、2名の出席が必要となる。
    2. ・ 取締役に欠員が生じて定足数に満たない場合、取締役会は定足数を満たすための活動以外の活動を行うことはできない。
    3. ・ 議長及び副議長は、取締役から選出する。取締役会の議長は、取締役会及び株主総会の議事を進行し、定款に定められた権利・義務を遂行する。取締役会の副議長は、議長を補佐するために業務を遂行する。
    4. ・ いずれの取締役も、取締役会を招集する権限を有する。
    5. ・ 取締役は、自身が取締役会に出席する必要があり、他の取締役が全会一致で合意した場合を除き、代理人を出席させることはできない。また、かかる代理人は、取締役会で意見を陳述することはできるが、議決権を有しない。
    6. ・ 取締役会の決議は、会議に出席した取締役の過半数以上の賛成により決定される。取締役は原則として一人一議決権を有するが、特別利害関係を有する取締役は、議決権を行使することはできない。可否同数の場合は、取締役会の議長が再度投票をする。
    7. ・ 開催した取締役会については、その議事録又は報告書を作成し、会社の本社において保管しなければならない。株主は、営業秘密等に該当する書類・情報を除き、取締役会議事録を閲覧・検査することができる。
  5. 3. 株主
  6.  有限会社の株主数は、2名以上30名以下である。これに違反した場合、会社の解散事由に該当することになるが、株主総会の特別決議により有限会社として存続することも可能である。また、自然人のみならず、法人であっても株主となることができる。

  7. 4. 株主総会
  8.  株主総会は、会社の最高意思決定機関である。株主総会には、定時株主総会と臨時株主総会の2種類がある。

     定時株主総会は、年1回最低でも開催する必要があり、開催すべき周期については定款に定めなければならない。定時株主総会が処理すべき主な事項は、以下のとおりである。

    1. (i) 取締役の任命及び取締役会の設置
    2. (ii) 監査役の任命
    3. (iii) 取締役の年間の報酬額又は給与額の決定
    4. (iv) 役員・監査役・従業員の給与額の決定
    5. (v) 事業運営の概要報告書、損益計算書、事業計画書の承認
    6. (vi) 利益配当の方法の決定

     臨時株主総会は、必要に応じて何時でも開催することができる。以下に該当する場合には、臨時株主総会が招集される。

    1. (i) 取締役の過半数が臨時株主総会の開催に同意した場合
    2. (ii) 株主が裁判所に申立て、当該裁判所が株主総会を開催するように命令した場合
    3. (iii) 払込済株式の20%以上の株式を有する株主が、株主総会の開催を求めた場合

     会社の取締役又は取締役会は、定時又は臨時株主総会の開催日の少なくとも5営業日前に、全株主に対して、開催日時・場所を通知する。

     会社は、株主総会の定足数及び手続についての規則を、定款に定めなければならない。定足数は、払込済み株式の過半数を有する株主が、最低2名出席することが必要である。

     株主総会の開催場所は、必要がある場合又は別途合意した場合を除き、本社となる。

     株主は、書面により任命し、当該書面を株主総会開催前に取締役又は取締役会に交付することにより、自身に代わり株主総会に出席する代理人を定めることができる。

     株主総会の決議は、普通決議及び特別決議の2種類が存在している。

     普通決議は、一株一議決権で計算して、出席株主の議決権の過半数の賛成により成立する。主な普通決議事項は、以下のとおりである。

    1. ・ 取締役の選任

    2. ・ 取締役の報酬
    3. ・ 配当
    4. ・ 監査役の選任
    5. ・ 決算書の承認

     特別決議を行うためには、まず、その議題を招集通知に詳述して、全株主に対して事前に通知する必要がある。特別決議の定足数は、払込済株式総数の80%以上を有する株主の出席であり、その決議要件は、出席株主の総議決権の3分の2以上の賛成である。主な特別決議事項は以下のとおりである。

    1. ・ 定款の変更、設立(合併)契約書の変更
    2. ・ 増資、減資
    3. ・ 合併又は会社の解散
    4. ・ 会社の事業の全部又は重要部分の売却又は移転
    5. ・ 他の法人の事業の購入又は取得

     特別決議の内容は、その決議の日から10営業日以内に、登記されなければならない。

     株主総会の決議は、以下に該当する場合、裁判所の決定により無効とされる。

    1. ・ 定款又は設立(合弁)契約書に違反する場合
    2. ・ 決議に関する規則に違反する場合
    3. ・ 法定された招集通知に関する手続に違反する場合

     株主総会決議の無効を裁判所に申し立てることができる者は、株主及び取締役会である。かかる申立ては、当該決議の日から60日以内に行わなければならない。これに対し、有効な株主総会決議により、決議に反対する会社の少数株主が深刻な損害を被った場合、会社は、当該少数株主に対して、合意に基づいて損害を賠償する。

  9. 5. 監査役
  10.  監査役は、会計記録の情報及び方式の正確性を調査する。株主による監査は、株主総会において自身が選任した監査役を通じて実施される。

     有限会社は、原則として監査役を設置する義務はないが、500億キープ(約6億6600万円)を超える資産を有する有限会社は、監査役を設置する義務がある。

     監査役は、株主総会において選任及び解任される。監査役の資格要件は以下のとおりである。

    1. (i) 当該会社の取締役・役員・従業員でないこと
    2. (ii) 当該会社に対して特別又は直接的な利害関係を有しないこと

     監査役は、役員及び従業員に対して業務に関する質問をし、会社の帳簿を閲覧する権利を有し、これらの結果を株主総会において報告しなければならない。監査役の主な権限は以下のとおりである。

    1. ・ 会社の会計書類の調査
    2. ・ 会社の取締役・役員・従業員に対する会計調査に関連した質問
    3. ・ 損益報告書の作成、損益報告書・貸借対照表の株主総会への提出、株主総会における会社の会計システム・会計に関するデータの正確性・誤りの報告
    4. ・ 監査役としての報酬の受領

以上