マレーシアにおける紛争解決
2016年12月22日更新
マレーシアにおける紛争解決の選択肢として考えられるものとしては、①マレーシア国内の裁判所での訴訟、②マレーシア国内での仲裁、③日本を含むマレーシア国外の裁判所での訴訟、④日本を含むマレーシア国外での仲裁が考えられる。本稿では、上記①~④の紛争解決方法について概説する。
- 1. マレーシア国内の裁判所での訴訟手続
- (1) マレーシアにおける司法制度
- (2) マレーシアにおける民事訴訟手続
- ① 訴訟提起
- ② 主張書面のやり取り
- ③ 審理前事件整理手続
- ④ トライアル
- ⑤判決
- (3) 留意点
- 2.マレーシア国内での仲裁手続
- (1) 総論
- (2) 仲裁合意
- (3) 準拠法
- 3.日本を含むマレーシア国外の裁判所での訴訟手続
- 4.日本を含むマレーシア国外での仲裁手続
マレーシアの裁判機構の階層は「上位裁判所」「下位裁判所」に分かれる。上位裁判所には、連邦裁判所、控訴院、高等法院が存在する。下位裁判所には、セッションズ裁判所、治安判事裁判所が存在する。また、マレーシアの裁判機構は2系統存在し、マラヤ州高等裁判所とサバ州・サラワク州高等裁判所が独立した裁判管轄を形成している。
訴訟の提起は、原告が裁判所に召喚状(writ of summons)あるいは手続開始申立書(originating summons)を提出することによって開始する。これに対して、被告は、出頭申立書(memorandum of appearance)を提出する。
続いて、原告及び被告は、請求原因書面(statement of claim)、答弁書(defense)、反論書(reply)により、主張書面のやり取りを行う。
裁判所は、トライアル前に、当事者に対して争点整理及び審理計画策定を目的とする審理前事件整理手続への参加を求めることができる。審理前事件整理手続においては、主張書面の整理、和解の検討、トライアル期間及び期日の策定等が行われる。
トライアルでは、原告提出証拠及び被告提出証拠の証拠調べが行われる。
判決は、審理終結日または別途期日において、公開法廷で言い渡されることが多い。判決に不服がある当事者は上訴することもできるが、上訴期間制限には注意を要する(下級裁判所から高等裁判所への上訴は、判決日から14日以内。また、高等裁判所から上訴裁判所への上訴は、判決日から30日以内)。
当事者の訴訟提起や主張が法的根拠を持たず、あるいは、権利濫用にあたる場合、裁判所はこの段階で却下判決をすることができる。
訴訟手続に使用される言語は、原則として、マレー語とされている。但し、裁判所の許可を得て英語が使用されることもある。
マレーシアにおける仲裁は、1985年国際商事仲裁に関する国連国際商取引法委員会(UNCITRAL)モデル法に準拠した、マレーシア仲裁法(Arbitration Act 2005)により規律される。同法下では国内仲裁と国際仲裁が区別して規定されており、手続内容に差異がある点に注意が必要である。
マレーシアにおける仲裁機関は、国内仲裁と国際仲裁機関は政府から独立したクアラルンプール地域仲裁センターである(KLRCA)。
マレーシア国内での仲裁手続による紛争解決を行うためには、当事者間の書面による仲裁合意が必要である。
国内仲裁における準拠法は、当事者間に別段の合意がない限り、マレーシア法とされる。国際仲裁における準拠法は、当事者間の合意によって決定されるが、当事者間の合意がない場合は、国際私法に従い仲裁廷が決定する。
マレーシアにおける制定法による外国判決の執行は、マレーシア外国判決相互執行法(Malaysian Reciprocal Enforcement of Judgements Act 1958)によって規律される。同法においては、特定の国で下された外国判決について、登録を行うことにより、マレーシア国内での執行が可能となる旨が定められている。しかし、同法で指定されているのは英国、香港、シンガポール、インド等の英米法系諸国であり、日本は指定対象外となっている。
マレーシアは、外国仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)について特段の留保を付すことなく批准しており、マレーシアで日本等のニューヨーク条約加盟国における外国仲裁判断を執行することは可能である。
以上