マレーシアにおける現地法人の運営(会社法)
2016年12月14日更新
現在、マレーシアでは会社法として “Companies Act 1965 (“the CA 1965”)”が制定されており、会社の形態は①株式有限責任会社、②保証有限責任会社、③無限責任会社の3種類に分類されている。実務上は①株式有限責任会社の形態をとることが多い(「マレーシアにおける事業拠点の設置」参照)。そこで、以下、株式有限責任会社の機関の概要を説明する。
第1 株式有限責任会社の機関
1 株主総会
- (1) 株主総会の種類
- (2) 株主総会の招集
- (3) 株主総会の開催方法
- (4) 株主総会決議の方法
- (5) 株主総会の権限(株主総会決議事項)
ア 年次株主総会
会社は、設立後18カ月以内、かつ、第1回決算日後の6カ月以内に、第1回年次株主総会を開催しなければならない。また、第2回目以降は1暦年に1回の頻度で、決算日後6カ月以内、かつ、直前の年次株主総会から15カ月以内に年次株主総会を開催しなければならならい。
イ 臨時株主総会
年次株主総会とは別に、必要に応じて臨時株主総会が招集される。
ア 招集権者
株主総会は、通常、定款の定めにより取締役会又は取締役が招集する。もっとも、合計して発行済株式の10%を保有する2名以上の株主は臨時株主総会の招集を請求することができる。また、裁判所の命令により招集される場合もある。
イ 招集手続
株主総会が招集される場合、普通決議のみの場合は株主総会開催日の14日以上前まで、特別決議を行う場合は21日以上前までに、それぞれ招集通知を送付する必要がある。
もっとも、年次株主総会の場合で全株主の同意があるとき、または、その他の株主総会の場合で議決権付株式の額面価格の合計が95%以上に相当する株式(会社が株式資本を有しない場合は議決権の合計が95%以上)を有する株主の同意があれば、招集期間を短縮することができる。
ア 会場開催
株主総会は特定の会場に株主が出席する方法により開催されるのが原則である。その場合は、マレーシアにおいて開催しなければならない。もっとも、テレビ会議等、全株主に出席の機会を合理的に確保できる技術的方法により開催することもできる。
イ 書面決議
株主総会決議は、決議の内容を記載した書面に全ての株主が署名する方法によっても行うことができる。
ア 定足数
定款に別段の定めがある場合を除き、株主総会の定足数は2名である。
イ 議決権の行使方法
① 挙手による場合
株主総会の決議は原則として出席者の挙手により行われ、1株主1議決権が原則となる。この場合、委任状により出席している株主は、出席した株主として数えられない。
② 投票による場合
各株主は、挙手による決議に異議がある場合には、投票による決議を求めることができる。その場合、1株1議決権が原則となる。また、委任状により出席している者の投票も数えられる。
ウ 決議要件
普通決議は出席株主の過半数の賛成により行われる。また、特別決議は出席株主の4分の3以上の賛成により行われる。
株主総会の権限はthe CA 1965及び定款で規定される。株主総会決議事項の例としては下記が挙げられる。
・定款変更
・株式資本に関する事項(新株発行、減資等)
・取締役、主要株主等との株式や資産の譲渡
・監査役の選任及び解任
・会社の清算
2 取締役
- (1) 取締役の員数及び居住要件
- (2) 取締役の資格
- (3) 取締役の欠格事由
- (4) 選任
- (5) 退任
- (6) 取締役の権限及び義務
全ての会社は最低2名以上の取締役を設置しなければならない。また、当該2名の取締役はマレーシアにおいて主たるまたは唯一の住所を有する者であることを要する。
それ以外の取締役には、非居住者が就任することもできる。
取締役は18歳以上の自然人でなくてはならず、公開会社の場合は70歳未満の必要がある。また、欠格事由の存しないものでなくてはならない。
ア Section130において定められている欠格事由
①法人のプロモーション、設立、運営について有罪判決を受けた者
②詐欺、不正行為の罪で3ヶ月以上の禁固刑の有罪判決を受けた者
③下記に係る罪を犯し有罪判決を受けた者
・任務を怠り会社情報の不適切使用をした者
・Section 132A
・適正な会計帳簿の不作成
イ 破産者
ウ 破産・支払不能となった法人の取締役
エ 資格株(qualification share)を取得できなかった者
オ 定款上の欠格事由
ア 設立時取締役の選任
会社設立時には、基本定款及び附属定款において、最低2名の設立時取締役を任命することが必要とされる。但し、設立時取締役は第1回の年次株主総会において自動的に辞任したものとみなされる。もちろん、設立時取締役を株主総会で再任することは可能である。
イ 取締役の選任
取締役は、通常、株主総会において任命される。実務上は普通決議によることが多い。また、取締役会は、年次株主総会の間に、突然生じた欠員を補うために取締役を任命することができる。
会社によっては、定款でローテーション制による取締役の退任を規定する会社もあるが、ローテーション制の採用は法的要請ではない。非公開会社においては、退任・再任の定常処理を避けるため、ローテーション制を省略することも可能である。
取締役は、定款及び取締役会から委譲を受けた権限を行使して会社の業務を行う(取締役会が第一次的な業務執行権限を有すると言うこともできる)。取締役の権限は株主間契約においても定めることができる。
3 取締役会
- (1) 取締役会の運営(招集・開催・決議等)
- (2) 取締役会の決議事項
取締役会の運営に関する事項の多くは、通常、定款で定められる。
取締役会は、定款が取締役会に授権した範囲内においてのみ、業務執行を行うことができる。取締役会決議事項の例としては下記が挙げられる。
・新株の発行
・株主総会の招集
・配当の決定
4 監査役
全ての会社には財務情報を監査し、株主総会に報告するための1名以上の監査役が必要とされる。監査役は、会社設立直後の監査役を除き、毎年の年次株主総会において任命される。
5 会社秘書役
全ての会社は、少なくとも1名の会社秘書役を置く必要があり、会社秘書役は、マレーシアにおいて主たるまたは唯一の住所を有する成人でなければならない。
第2 新会社法(the Bill)の改正ポイント
1 概要
2016年4月に新会社法“The Companies Bill 2015 (“the Bill”)”がマレーシアの上院・下院を通過し、将来的にはthe CA 1965に置き換わると考えられる。新会社法のもとでは、多方面における効率化が図られている。
2 現地法人の運営における主要な改正点
- (1) 定款
- (2) 株主総会決議
- (3) 取締役
新会社法のもとでは定款の作成が任意となる(既存の会社で定款を有するものは、新会社法のもとでも定款を置く会社とみなされる)。定款の事業目的については、新会社法では会社が記載せずとも、違法でない限り会社はどういった事業でも実施できることになっている。
ア 年次株主総会の廃止
新会社法のもとでは、年次株主総会の開催は選択制となり、会社の判断に委ねられるようになった。ただし、定款に開催を義務付ける規定がある場合や10%以上の株主が開催を要請した場合は、会社は年次総会を開かなければならない。
イ 株主総会の開催場所
現行会社法において、株主総会はマレーシアにおいて開催することが定められているが、新会社法下において、株主総会は、主会場がマレーシアであれば、世界中どこでも開催できるようになる。
ウ 書面決議の要件緩和
書面決議の要件が、株主総会の決議要件と同等となり、普通決議事項については過半数の株主、特別決議事項については4分の3以上の株主の署名があれば有効とされる。
現行会社法において、マレーシア居住取締役は常時2名が必要とされたが、新会社法のもとでは1名に変更される。もっとも、取締役会の開催にあたっては、居住取締役に通知すれば足り、非居住取締役への通知は必要とされていない。
以上