マレーシアにおける事業拠点の設置

2016年3月11日更新

 外国資本がマレーシアに新たに事業組織を組成する場合の主な形態としては、①現地法人、②外国会社の支店、③駐在員事務所の形態が考えられるが、実務上は株式有限責任会社(Company Limited by Shares、①の一形態)が用いられる場合が多いように思われる。以下では、株式有限責任会社の特徴とその設立手続の概要を紹介する。

 現地法人以外の形態を検討する場合、卸売業・小売業等の流通取引業(Distributive Trade)を営む場合には現地法人の設立が条件とされている等、マレーシアにおいては特定の事業を行うためには法人形態が条件とされる場合が少なくない。したがって、専門家又は所轄官庁に、予定している業務を当該形態で実施することが可能かどうか事前に確認をしておくことをお勧めする。

  1. 1. 株式有限責任会社の特徴
  2.  株式有限責任会社とは、定款によって構成員の責任を株式の払込金額に限定するという原則に基づいて設立される会社をいう。この株式有限責任会社を非公開会社(Private Company)として設立するためには、その定款において、(i)株式譲渡の権利の制限、(ii)株主数を50人以下に制限、(iii)株式、社債又は金銭の預託の公募を禁止が定められている必要がある。また、非公開有限責任会社の社名には、「Sendirian Berhad」又はその略号である「Sdn. Bhd.」をその末尾に付す必要がある。

    株式有限責任会社の必要的機関は、原則として、①株主総会、②取締役・取締役会、③会社秘書役、及び④監査人である。なお、20名以下の個人株主のみから構成される非公開会社は、exempt private company として監査済みの計算書類をマレーシア企業委員会(Commercial Commission of Malaysia: CCM)に提出する義務を免除される。

  3. 2. 株式有限責任会社の設立手続
  4.  マレーシアにおいて、株式有限責任会社の設立に必要となる主な手続は以下のとおりである。会社の必要事項が確定してから会社設立が完了して法的に業務開始が可能になるまでの一般的な目安期間は2~4週間程度である。

    1. (1) 会社の必要事項の確定
    2.  設立に際して確定しておくべき必要事項には以下が含まれる。

       (a) 機関構成

      株式有限責任会社の場合、株主2名(ただし、法人が株主となる場合は1名で足りる。)、取締役2名、会社秘書役1名、会計監査人を1名有することが必要で、このうち2名の取締役及び1名の秘書役はマレーシア国内に主たる居住地を有する者である必要がある。

       (b) 資本金

       マレーシアには最低資本金の規制は存在していないため、2名の株主が各1リンギ出資する形での2リンギの資本金でも会社を設立することが原則として可能である。ただし、特定の事業を会社が行う場合には、一定額の資本金が法令上求められる場合があるため注意が必要である。例えば、流通取引業(Distributive Trade)を行う場合には、百貨店では 2,000 万リンギ、専門店では 100 万リンギ等の最低資本投資額がガイドラインにおいて定められている。また、会社の日本人駐在員のために就労パスを取得する場合には、実務上一定額以上の資本金が必要と解されており、これに合わせて資本金の額を設定する必要がある。

       (c) 会社名

       (d) 会社所在地

       (e) 会社の事業内容

    3. (2) 社名の使用許可申請
    4.  CCMに希望する会社名の社名使用許可申請を行い、希望する社名の使用許可を取得する。社名使用可能性に関する申請書(フォーム13A)を使用する。申請費用は1件につき30リンギである。申請の結果は、通常は1営業日内に取得できる。社名使用許可の有効期間は、3ヶ月である。

       社名の選択に当たっては、以下の単語を含むことは原則として認められず、所轄官庁等から事前に承認を取得する等の必要が生ずるため、設立を急ぐ場合には社名の文言にも注意を払う必要がある。

       (i) 王室との結びつきを暗示する“Royal”, “King”, “Queen”, “Prince”, “Princess”, “Crown”等

       (ii) 政府機関との結びつきを暗示する“Federal”, “State”, “National”等

       (iii) 国際機関等との結びつきを暗示する“ASEAN”, “UNESCO”, “NATO”, “EEC” ,“OPEC”等

       (iv) 法令で規制されている業務を示す“bank”, “insurance”, “finance”, “foreign exchange”, “Clinic”, “treatment’, “Offshore Company”, “school”, “engineer”等

       (v) 国益・公益のために使用が制限されている“Cyber”, “Putrajaya”, “MSC/Multimedia Super Corridor”, “lottery”, “fortune teller”, “liquor”等

    5. (3) 書類の準備
    6.  株式有限責任会社の設立に必要な書類には、以下が含まれる。 

       (i) 申請書(フォーム13A)

       (ii) 定款

       *非公開会社の場合には、以下の全てが定款に記載されている必要がある。

      1. ・ 株式譲渡の権利の制限
      2. ・ 株主数を50人以下に制限
      3. ・ 株式、社債又は金銭の預託の公募を禁止

       (iii) 会社秘書役による宣誓書(フォーム6)

       (iv) 設立時取締役及び発起人による宣誓書(フォーム48A)

       (v) 有効な社名使用許可書

    7. (4) 書類の提出、法定費用の支払、設立証明書の発行
    8.  会社の定款その他所定の書類を提出し、法定費用(授権資本額に応じて1,000リンギ(約3万円)~70,000リンギ(約190万円))をCCMに対して支払う。通常、1~2日で会社設立証明書(フォーム8又は9)が発行される。2016年3月現在、CCMは会社設立に関し1 Day Incorporationというサービスを実施しており、これによると必要書類・費用を支払えば1営業日で設立証明書が発行されることになる。設立証明書の取得により、会社は、原則として事業を開始することができるが、各種のライセンス又は許認可が必要な事業活動を行う場合には、これらの取得が事業開始の条件となる。従って、定款記載の事業に関して必要となるライセンス・許認可を、弁護士等の専門家又は所轄官庁に事前に確認しておくことが重要である。

以上