マレーシアにおけるM&Aと組織再編
2016年3月11日更新
マレーシアにおけるM&Aの手法としては、主として、1.対象会社の株式の取得、2.対象会社・既存株主との間でのスキーム・オブ・アレンジメント、及び3.対象会社の買収者以外の株主に対して資本の払戻しを行う資本減少、4.対象会社の事業・資産を譲り受ける事業譲渡の方法が考えられる。以下では、マレーシア進出の際に用いられることが多いと思われる非公開株式有限責任会社に関する規制を中心として、1.株式取得、2.スキーム・オブ・アレンジメント、3.選択的減資、4.事業譲渡の順に、それぞれの手法の概要を紹介する。
- 1. 株式取得
- (1) 既発行株式の取得
- (2) 新株の取得
- 2. スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement)
- 3. 選択的減資(Selective Capital Reduction)
- 4. 事業譲渡
株式取得は、(1)既存の株主から既発行株式を取得する方法、(2)会社が新たに発行する株式を取得する方法に分けることができる。以下、順に記載する。
マレーシアにおいては、株式譲渡は、法令の要件を満たす譲渡証書を作成し、これを会社に提出する方法により行う必要がある。通常は、フォーム32Aと呼ばれる書式に譲渡人・譲受人・証人が署名をしたものが譲渡証書として用いられる。譲受人は会社が株主として登録することにより、株主としての地位を取得する。なお、マレーシアにおいては、株主が保有する社印が押印された株券は、株主としての権利の疎明資料となるにとどまる。
マレーシアの会社が株式を発行する場合、株主総会の普通決議が必要である。かかる決議は、将来における株式発行を包括的に承認する形式も可能であり、かかる包括的承認の効力は、原則としてその後最初に開催される定時株主総会の終了時まで続く。会社が発行できる株式の総数は授権株式数の範囲内に限られ、授権株式数は定款の記載事項であるため、これを増加するには定款変更の手続(株主総会の特別決議)が必要である。
スキーム・オブ・アレンジメント(以下「SOA」という。)とは、マレーシアの会社法上認められた和解(compromise)又は和議(arrangement)の手続で、対象会社が裁判所の許可を得て行う会社と株主又は債権者との合意をいう。SOAを用いたM&Aにおいては、買収者が対象会社の既存株主に対して①現金を支払い又は②買収者の新株を発行し、これに対して対象会社が既存株式の消却と買収者への対象会社の新株の発行により、対象会社を買収者の子会社とすることが可能である。SOAは対象会社を中心として行われる手続であるため、買収者が友好的に対象会社の全株式を取得しようとする場合に利用される場合が多いと思われる。
SOAをM&Aに用いる場合の一般的な手続の概要は以下のとおりである。
(i) 買収者による対象会社に対するSOAの提案
(ii) SOAに関する株主総会招集につき裁判所への申立て、裁判所による承認
(iii) 招集された株主総会において、議決に加わった出席株主の頭数の過半数かつ出席株主の総議決権の株式価値の75%以上の賛成
(iv) 裁判所の許可の取得
(v) 裁判所の許可の写しをマレーシア企業委員会(Commercial Commission of Malaysia: CCM)へ提出、これが会社登記に反映された段階で、SOAの効力発生
選択的減資(以下「SCR」という。)とは、対象会社の株主である買収者の提案に基づき対象会社が買収者以外の株主に対して資本の払戻しを行うことにより、対象会社を買収者の100%子会社とする取引である。SDRは公開会社を非公開化する場合にも用いることが出来る。
まず、減資を行うためには、定款に当該会社が資本減少をすることができる旨の記載がされている必要があるため、対象会社の定款にかかる記載がない場合には、定款変更の手続を先行して行う必要がある。また、SCRを行うためには、株主総会において特別決議による承認が必要である。全ての債権者は原則としてSCRに対して異議を述べることができる。
裁判所は、異議権を有する全ての債権者が減資に同意をし、その債権の支払いを受け又はその債権が担保された等と判断する場合、適切と思われる条件を付して減資を承認する命令を発する。
裁判所により承認されたSCRについての株主総会決議は、裁判所による承認の写しをCCMに登録することにより効力を生ずる。
事業譲渡の手法を用いる場合には、前記1.(株式取得)とは異なり、譲り受ける事業・資産・債務を個別に選択することが可能であるが、これらに関する権利・義務については個別に移転手続を行うことが必要である。マレーシアの会社が事業の全部又は一部の譲渡を行う場合、譲渡会社における株主総会の普通決議による承認が必要とされている。
以上