ミャンマーにおける会社清算
2016年12月20日更新
会社清算とは、会社の債務を支払うために、会社資産を回収し処分する手続であり、清算手続が完了すると、原則として会社は解散し、その法人格は消滅することになる。ミャンマーにおける会社清算の方法には、①裁判所による強制清算(Winding-up by Court)、②任意清算(Voluntary Winding-up)、③裁判所の監督に基づく任意清算(Winding-up Subject to Supervision of Court)の3つの手法が存在している。以下、会社法(Myanmar Companies Act)に基づき、順に解説する。
なお、ミャンマー投資委員会(Myanmar Investment Commission: MIC)から承認を受けた会社を清算する場合、以下の会社法に基づく清算手続の前に、ミャンマー投資委員会から事業終了について事前承認を取得し、かつ、ミャンマー投資委員会の承認に基づき取得した土地上の権利や一定の資産について適法に処分等を行う必要がある点には、留意されたい。
- 1. 裁判所による強制清算
- (1) 清算手続の開始
- (i) 会社自身
- (ii) 会社債権者
- (iii) 一定の株主
- (iv) 国家計画経済開発省(Ministry of National lilanning and Economic Develoliment: MNliED)投資企業管理局(Directorate of Investment and Comliany Administration、以下「DICA」という。)
- (i) 株主総会の特殊決議により、会社が裁判所による強制清算を行う旨が決議された場合
- (ii) 会社がDICAへの法定報告書の提出を怠った場合、又は、定時株主総会の開催を怠った場合
- (iii) 会社がその設立後1 年以内に事業を開始しない場合、又は、1 年間その事業を停止した場合
- (iv) 株主の数が、法定の最低株主数を下回った場合
- (v) 会社が自身の債務の支払ができない場合
- (vi) 会社を清算することが適切で衡平であると裁判所が判断した場合
- (2) 裁判所による清算命令
- (3) 会社の財産状態等についての報告
- (4) DICAへの届出、公告
- (5) 債権者集会、清算出資者集会
- (6) 会社財産の処分・分配
- (7) 会社の解散、清算手続の終了
- 2. 任意清算
- (1) 清算手続の開始
- (a) 任意清算の開始事由
- (i) 定款に定める会社の存続期間が満了した場合又は定款に規定された会社の終了事由が発生した場合で、かつ、株主総会の普通決議で任意清算により会社を清算することが決議された場合
- (ii) 株主総会の特別決議で、債務超過を理由として任意清算により会社を清算することが決議された場合
- (iii) 株主総会の特殊決議で、債務のために事業継続が不可能であること等を理由として、任意清算により会社を清算することが決議された場合
- (b) 株主による任意清算
- (c) 債権者による任意清算
- (2) 任意清算開始の効果
- (3) 会社清算の公告
- (4) 会社財産の処分・分配
- (5) 最終会議の開催
- (6) 会社の解散
- 3. 裁判所の監督に基づく任意清算
裁判所による強制清算は、裁判所に対する申立により開始する。申立権者には、以下の者が含まれる。
裁判所による強制清算の申立の原因には、以下の事由が含まれる
裁判所は、裁判所による強制清算の申立を審理し、適切と判断した場合、清算命令を発する。裁判所による強制清算の手続は、申立がなされた時点に遡って開始されたものとみなされる。かかる清算命令により、会社に対する一切の法的手続が禁止・停止され、会社財産は、裁判所の監督下に置かれる。また、裁判所による清算命令は、原則として、従業員に対する解雇通知とみなされる。
裁判所は、清算人(Official Liquidator)を選任することができるが、裁判所が選任しない場合、裁判所に所属する執行官が清算人となる。清算人は、会社清算に必要な範囲において、会社のために裁判上及び裁判外の行為を行う権限を有する。
会社の取締役等は、清算命令が発布された日から21日以内に、会社の財産状態等に関する報告書を作成し、清算人に提出する。清算人は、会社の財産状態等について報告書を作成し、裁判所に提出する。
会社及び裁判所へ清算の申立を行った者は、清算命令が発布された日から1ヶ月以内に、DICAに対して、清算についての届出を行う。DICAは、当該裁判所による強制清算が開始されたことを官報に掲載する。
清算人は、清算命令が発布された日から1ヶ月以内に、債権者集会を開催し、かかる債権者集会の日から1週間以内に、清算人は、清算に係る出資者の集会を開催する。
清算人は、会社財産の管理・処分に関する権限を有する。裁判所は、株主間の利害を適切に調整し、債権者への弁済の後に残余財産が存在する場合、株主等に対してこれを分配する。
会社財産の処分・分配が適切に行われ、必要な手続が完了した場合、裁判所は、会社が清算開始の決定の日に解散されたとする決定を発する。これにより、裁判所による強制清算手続は終了し、会社の法人格は消滅する。
任意清算の手続は、任意清算を行う旨の株主総会決議により開始する。かかる株主総会において、実務上、合わせて清算人が指名され、その報酬額が定められる。かかる株主総会を開催する前に、取締役会が清算手続開始後3年以内に全ての会社債務を弁済できる旨の宣言を行ったか否かにより、任意清算の手続は、①株主による任意清算(Voluntary Winding- up by Members)、 ②債権者による任意清算(Voluntary Winding- up by Creditors)という2つの異なる手続に分けられる。以下では、まず、(a)任意清算の開始事由を検討し、その後(b)株主による任意清算、(c)債権者による任意清算それぞれの開始手続の規律について順に検討する。
会社は、以下の場合に、任意清算を開始することができる。
会社が、清算手続開始後3年以内に会社債務を全て弁済できる見込みがある場合には、任意清算の株主総会決議に先だって、取締役会の多数決により、取締役会において、清算手続開始後3年以内に全ての会社債務を弁済できる旨の宣言を行う。かかる弁済宣言は、任意清算を決議する株主総会の招集通知の送付前にDICAに登記されなければ、効力は生じない。
会社が、清算手続開始後12ヶ月以内にその債務を弁済することができる見込みがなく取締役会による弁済宣言が行われない場合、任意清算を決議する株主総会の開催日又はその翌日に、債権者集会を招集する必要がある。かかる債権者集会の招集通知は、任意清算を決議する株主総会の招集通知を送付する際に同時に債権者に送付する。債権者集会においては清算人を指名することができるが、株主総会とは異なる者が指名された場合には、債権者集会で指名された者が清算人となる。
会社は、任意清算が開始した日において、有益な清算のために継続することが必要とするものを除き、その事業活動を停止する。会社の法人格及び権利能力は、会社が解散するまで存続する。任意清算においては、会社財産等に関する会社の権利義務は、会社に帰属する。
会社清算が決議された場合には、会社は、決議から10 日以内に、官報及びミャンマーの新聞において公告する。
清算人は、会社財産の管理・処分に関する権限を有する。裁判所は、株主間の利害を適切に調整し、債権者への弁済の後に残余財産が存在する場合、株主等に対してこれを分配する。
清算人は、会社財産の処分・分配が全て完了した後、清算についての決算報告書を作成し、最終の株主総会(債権者による任意清算の場合は、株主総会と債権者集会)を招集し、かかる最終の会議において、清算の経過及び会社財産の処分方法について報告する。
清算人は、最終会議の後1週間以内に、決算報告書等の書類をDICAに対して提出する。法律上は、かかる提出日から3ヶ月後に、原則として会社は解散したものとみなされ、清算手続は終了する。実務的には、DICAが書類を審査し、書類が適切に登記されたことを証する登記証明書(Certificate of Registration)及び事業終了証書(Termination Letter)を発行した時点で、清算手続が完了すると解されている。
株主総会の特別決議又は特殊決議により会社の任意清算を決議した場合で、債権者等からの申立がある場合、裁判所は、裁判所の監督に基づく任意清算を行う旨の決定を行うことができる。
裁判所の監督に基づく任意清算では、裁判所は、独自の清算人の選任権・解任権を有する。裁判所によって選任された清算人は、個別の裁判所からの決定がない限り、上記2.の任意清算において選任される清算人と同様の権利・義務を有する。その他の手続の流れは、上記2.の任意清算の規律が、原則として妥当する。
以上