フィリピンにおける外資規制

令和2年3月23日更新

     フィリピンにおいては、国外投資を歓迎する一方で、国内産業を保護する政策がとられており、外国投資に関する法律として、基本3法と呼ばれる3つの法律が存在します。1つ目は、1987年オムニバス投資法(The Omnibus Investment Code of 1987)で、投資に対する優遇措置を定めた法律です。2つ目は、1991年外国投資法(The Foreign Investment Act of 1991)で、優遇措置を伴わない外国投資に関する基本法であり、投資の規制及び禁止についてのネガティブリストが定められています。3つ目は、1995年特別経済区法(The Special Economic Zone Act of 1995)で、特別経済区内に進出する企業に対して優遇措置を付与する法律です。本稿では、1.外国投資規制の根拠法令を紹介した後、フィリピンにおける外資規制の中心的な内容である2.規制対象事業((1)禁止事業、(2)出資比率規制、(3)資本金規制)について検討します。

     

  1. 1. 根拠法令
  2. 外国投資への一般的な規制は、前述の1991年外国投資法に基づいて制定されるネガティブリスト(Foreign Investment Negative List)に基づいて行われます。このネガティブリストは、AとBに分類されており、リストAは、憲法および特定の法律で規制されている業種であり、リストBは、安全保障、防衛、公衆衛生及び公序良俗に対する脅威、中小企業保護の観点から規制が設けられた業種です。現在のところ、2018年11月に改訂された第11次ネガティブリストが最新版となっています。なお、このネガティブリスト以外の業種に対しては、外資100%の投資が認められています。ただし、建設業など免許の取得が別途必要な業種の場合は、外資規制が課されるケースもあるため、別途確認を要します。

     

  3. 2. 規制対象事業
  4. 上記ネガティブリストは、(1)外国投資家による投資・所有、及び外国人の就業が禁止されている事業分野、(2)外資出資比率が制限されている事業分野に分類することができます。また、(3)かつての最低資本金の規制が撤廃されたものの依然として最低資本金が定められている事業分野も一部存在します。以下、該当する事業の概要を順に紹介します。

    なお、上記の(1)~(3)の各事業については、それぞれ省令等においてリストが定められており、以下の内容はこれに依拠して記載しています。ただし、個別の法令や所轄官庁により別途規制が課せられている可能性があるため、実際に進出を検討するにあたっては、リストの原本の内容の検討に加えて、所轄官庁に対して事前確認を行うことが重要であると思われます。

     

  5. (1) 外国投資家による投資・所有、及び外国人の就業が禁止されている事業分野
  6. 以下の各事業は、リストAによって外国資本の参入や外国人の就業が禁止されています。

    レコーディング及びインターネット事業(メッセージ/情報の創造ではなく、単にメッセージを伝送するインターネットアクセス提供者をいう)を除くマスメディア
    専門職:a. 放射線・レントゲン技師b. 犯罪捜査c. 弁護士d. 船舶航海士e. 船舶機関士
    ただし、ネガティブリストの専門職に関する別紙(Annex on Professions)のAに記載されている専門職については、当該国でフィリピン人に対する就業が認められている場合には、当該国の外国人にも就業が認められる
    払込資本金額が250 万米ドル未満の小売業
    協同組合
    民間の探偵、警備員、警備保障会社の組織、運営
    小規模鉱業
    群島内・領海内・排他的経済海域内の海洋資源の利用、河川・湖・湾・潟での天然資源の小規模利用
    闘鶏場の所有、運営、経営
    核兵器の製造、修理、貯蔵、流通
    生物・化学・放射線兵器及び対人用地雷の製造、修理、貯蔵、流通(投資も禁止されている)
    爆竹その他花火製品の製造

     

  7. (2) 外資出資比率が制限されている事業分野
  8. 以下の各事業は、リストAによって、外資出資比率の上限が各欄左の割合に制限されています。

    出資比率上限 事業分野
    25%以下 雇用斡旋(国内・国外のいずれかで雇用されるかを問わない)
    防衛関連施設の建設契約
    30%以下 広告業
    40%以下 適用される規制の枠組みに従った、国内で資金供与される公共事業の建設、修理契約。ただし、以下を除く。

    a. BOT法(共和国法第7718号)に基づくインフラ開発プロジェクト

    b. 外国の資金供与・援助を受け、国際競争入札を条件とするプロジェクト

    天然資源の探査、開発、利用(大統領が承認する資金・技術援助契約に基づく場合、外国資本100%参入可)
    私有地の所有
    公益事業の管理、運営。ただし、競合可能市場に対する発電及び電力の供給並びに公益事業に含まれないその他の類似事業を除く。
    教育機関の所有、設立、運営公益事業の管理、運営。ただし、宗教団体及び布教団により設立されたもの、外交官及びその扶養家族のためのもの、その他の外国人の一次的な居住者のためのもの、又は正式な教育制度の一部を構成しない短期高度技術開発のためのものを除く。
    米、とうもろこし産業(操業開始から30 年以内に、資本の60%以上をフィリピン国民に放棄あるいは譲渡する場合、外国資本100%参入可)
    国有・公営・市営企業への材料、商品供給契約
    深海漁船の運営
    コンドミニアム・ユニットの所有
    ラジオ通信網

     

    以下の各事業は、リストBによって、安全保障、防衛、公衆衛生及び公序良俗に対する脅威、中小企業保護の観点から外資出資比率の上限が40%の割合に制限されています。

    出資比率上限 事業分野
    40%以下 フィリピン国家警察(PNP: Philippine National Police)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通
    a. 火器(拳銃、散弾銃など)、火器の部品及び弾薬、火器の使用もしくは製造に必要な器具もしくは道具
    b. 火薬
    c. ダイナマイト
    d. 起爆剤
    e. 爆薬製造時に使用する材料(i. 塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム ii. 硝酸アルミニウム、硝酸カリウム、硝酸バリウム、硝酸銅、硝酸塩、硝酸カルシウム、赤銅鉱 iii. 硝酸 iv. ニトロセルローズv. 塩素酸アンモニウム、塩素酸カリウム、塩素酸ナトリウム vi. 硝酸エステル vii.グリセリン viii. 無定形リン ix. 過酸化水素 x. 硝酸ストロンチウム xi. トルエン)
    f. 望遠鏡、赤外線照準器など(ただし、相当量が輸出向けの場合、またPNP が定める外資参入比率に準じる場合、PNP の承認の下、非フィリピン人にこれら品目の製造、修理が認められる。)
    国家防衛省(DND: Department of National Defense)の許可を要する品目の製造、修理、保管、流通
    a. 戦闘用の銃、弾薬
    b. 軍用兵器及び部品(魚雷、地雷、水中爆雷、爆弾、手榴弾、ミサイルなど)
    c. 砲撃・爆撃・射撃統制システム及び部品
    d. 誘導ミサイル、ミサイルシステム及び部品
    e. 戦闘機及び部品
    f. 宇宙ロケット及び部品
    g. 軍艦及び補助艦艇
    h. 兵器修理・メンテナンス機材
    i. 軍用通信機器
    j. 暗視装置・機器
    k. 放射線装置及び部品
    l. 軍事訓練装置
    m. その他DND が定める品目(ただし、相当量が輸出向けの場合、またDND が定める外資参入比率に準じる場合、DND の承認の下、非フィリピン人にこれら品目の製造、修理が認められる。)
    危険薬物の製造、流通
    サウナ、スチーム風呂、マッサージクリニックなど、公共の保健及び道徳に影響を及ぼす危険性があるため、法により規制されているもの。ただしウェルネス施設を除く。
    レース場の運営など、全ての賭博行為。ただし、フィリピン娯楽賭博公社と投資契約が結ばれており、かつ、フィリピン経済区庁の認定を受けている事業は除く。
    払込資本金額20 万米ドル未満の国内市場向け企業
    先端技術を有するか、50 人以上を直接雇用し、払込資本金額10 万米ドル未満の国内市場向け企業
  9. *フィリピン証券取引委員会(SEC)発行のガイドラインによる規制
  10. 上記の出資比率規制について、この外国資本の比率を計算する際、従前までは、総発行株式数をベースにした外国資本比率の算出が認められてきましたが、2013年5月、フィリピン証券取引委員会(SEC)はガイドライン(SEC Memorandum Circular No. 8)を規定し、議決権の有無にかかわらずすべての発行済み株式総数に対してフィリピン人保有比率を満たすことを求めました。つまり、フィリピン人向けに議決権のない優先株を発行することにより、議決権を与えずに保有比率のみを満たすことは認められませんので、注意が必要です。

     

  11. (3) 最低資本金にかかる規制について
  12. 外資の比率が40%を超える会社については、国内市場向けの会社については、設立時に払込むべき資本金の額は、最低20万米ドル必要です。ただし、当該会社が、一定の先端技術を有している場合、又は、従業員を50人以上雇用する場合には、かかる最低払込資本金の額は、10万米ドルに軽減されます。

    さらに、銀行など特定事業に従事する株式会社には、高額の最低払込資本要件が適用されます。主な業種とその最低払込資本金は以下のとおりです。

    業種等 細目 最低資本金額
    銀行 ユニバーサルバンク 30億~200億ペソ
    商業銀行 20億~150億ペソ
    貯蓄銀行で本店がマニラ首都圏内 5億~20億ペソ
    貯蓄銀行で本店がマニラ首都圏外 2億~8億ペソ
    地方銀行(本店所在地による) 1000万~2憶ペソ
    小売業 外資含む場合 払込資本金:250万米ドル1店舗当たり83万米ドル以上
    高級品または贅沢品に特化した企業 1店舗当たり25万米ドル以上

    また、小売業については上記の最低資本金規制のほかに、以下a.~d. の外国資本に対する要件をすべて満たした上で、100%の外資の参入が認められています。

    a. 親会社の純資産が2億米ドル以上(外資を含む場合)、5,000万米ドル以上(高級品または贅沢品に特化した企業の場合)

    b. 世界で5件以上の小売店舗もしくはフランチャイズを展開し、少なくともその1店の資本金は2500万米ドル以上

    c. 小売業で5年以上の実績を有する

    d. フィリピンの小売企業の参入を認めている国の国民もしくは同国で設立された法人

以上