フィリピンにおける拠点設置について
令和2年5月更新
日本企業がフィリピンへ進出する形態としては、主として,現地法人,支店,駐在員事務所の3つの形態が挙げられます。それぞれの形態には,各々メリット・デメリットがあることから、各形態の特徴を十分に把握した上で,進出形態を確定する事が重要です。以下では,1.現地法人,2.支店,3.駐在員事務所の順に検討します。
1.現地法人(株式会社)
(1) 概要
日本企業は,フィリピン国内に子会社を設立することにより、フィリピンで事業活動を行うことができます。フィリピンに子会社を設立した日本企業の多くは,株式会社の形態を選択しています。
(2) メリット
設立された子会社は、フィリピン国外の親会社とは別の法人格を有します。そのため、子会社が行ったフィリピン国内における事業活動に関する親会社の責任は,株式を通じて子会社に出資した金額の範囲に限られます。つまり、フィリピンにおける事業活動により生ずる負債その他のリスクから,本国の親会社を守りたいという場合には、最適な選択肢といえます。
(3) 設立手続
フィリピンにおいて,会社を管轄しているのは,証券取引委員会(Securities and Exchange Commission: SEC)です。そのため,会社の設立は,SECとの関連の手続が多いです。
- ① 商号(会社名)の登録
会社は,SECに既に登録されている商号,又は,類似の商号を,社名として使用することができません。そのため,候補となる商号をいくつか用意し、SECに商号の予約を行うことが必要になります。 - ② 定款の作成
定款の内容については,SECが提供している,定型のひな型を利用することができます。 - ③ 銀行口座の開設及び資本金の払込
銀行口座の開設に必要な書類については、銀行ごとに異なるため、事前に銀行に問い合わせておくことが必要です。資本金の払込については、その送金を証明する証明書を銀行から発行してもらい、公証を受ける必要があります。 - ④ SECへの登録
SECに対する主な提出書類は、社名確認書、定款、送金証明書、登録情報シート(会社の基本情報を記載した書類)、財務役宣誓書(最低払込資本金の払込の証明等を公証した書類)です。
SECでの登録が承認されると、Certificate of Registrationと呼ばれる登録証書が発行されます。 - ⑤ 地方自治体の手続
- a. バランガイ・クリアランス
バランガイ(Barangay)とは、フィリピンにおける最小単位の地方自治体のことを指します。子会社の所在地を管轄するバランガイから許可証を取得することが必要です。その際には、一般的には、SECの登録証書、及び、賃貸借契約書の写しの提出が求められる場合が多いです。 - b. 事業許可証(Mayor’s permit)
子会社の所在地を管轄する地方自治体から、事業許可証を取得する必要があります。事業許可証の取得の際には、一般的に、バランガイ・クリアランス、会社の事業所の賃貸借契約書、SECの登録証書、定款等の書類が必要になります。 - c. 住民税納付証明書(Community Tax Certificate)
子会社の所在地を管轄する地方自治体に対し、住民税を納付し、納付証明書を取得する必要があります。
- ⑥ フィリピン中央銀行への登録
登録を行うか否かは任意となります。資本金としてフィリピンに送金した資金を、フィリピン中央銀行に外国投資として登録することにより、将来の配当の際や資金を本国に回収する際に、外貨の調達を一定の銀行から行うことができるようになります。 - ⑦ 内国歳入局(Bureau of Internal Revenue)に関する手続
通常は、SEC登録の際に、同時に納税者識別番号(Taxpayer Identification Number)が付与されます。また、子会社による、株式の発行や資本金の払込に対して、印紙税が課せられます。
子会社の設立後は、納税者登録の申請を子会社の所在地を管轄する税務署に行う必要があります。申請時には登録申請書に必要書類等(事業許可証、賃貸借契約書、SEC登録証書、会計帳簿、定款等)を提出する必要があります。この納税者登録は毎年更新する必要があります。 - ⑧ 社会保険関連の手続
従業員を雇用した時点で、社会保障制度(Social Security System)、健康保険公社 (Philippine Health Insurance Corporation)、持家促進相互基金(Home Development Mutual Fund)への登録を行なう必要が生じます。
以上が、株式会社形態でフィリピンへ進出する場合に必要となる手続の概略です。実務的には、これらのすべての手続の完了に要する時間としては、事業の種類や規模により大きく異なりますが、一般に4ヶ月〜6ヶ月程度かかる場合が多いと思われます。
2.支店
(1) 概要
支店は、フィリピン国内での営業活動を含めた幅広い事業活動に従事することができます。ただし、支店は、外国投資法(1991年共和国法第7042号)が定める国内資本の要件を充たすことができないため、ネガティブリストに挙げられている事業を営むことはできません。
支店は、本社とは別の法人格を有していないため、支店がフィリピン国内外で負う責任は本社が負担し、本社の資産はフィリピン支店の債権者の権利行使の対象となりえます。この点が、支店の最大のデメリットになると思われます。
(2) メリット
支店の活動から得られる収入や、活動経費を本社の所得計算に算入することになりますので、原則として、支店の経費を本社の損金として処理して、本社の本国での法人税を軽減できるというメリットがあります。
(3) 設立手続
支店の設置においても、SECへの登録及び地方自治体における手続が必要になります。支店の設置に必要な主な手続は、以下のとおりです。
- ① SECへの社名の使用許可申請
- ② SECへの登録
支店の設置に当たっては、居住代理人(Resident Agent)を指名する必要があります。居住代理人とは、フィリピンにおいて、本社を代表して法的な書面等を受領する権限・責任を有します。フィリピン在住の個人、又は、一定のフィリピン法人であれば、居住代理人に指名することができます。 - ③ 地方自治体の手続
- a. バランガイ・クリアランスの取得
- b. 事業許可証(Mayor’s permit)の取得
- c. 住民税納付証明書(Community Tax Certificate)の取得
④ 内国歳入局に関する手続
- a. 納税者識別番号(Taxpayer Identification Number)の取得
- b. 納税者登録
⑤ 従業員を雇用する場合に必要になる手続
- a. 社会保障制度(Social Security System)への登録
- b. 健康保険公社(Philippine Health Insurance Corporation)への登録
- c. 持家促進相互基金(Home Development Mutual Fund)への登録
3.駐在員事務所
(1) 概要
駐在事務所では、現地法人や支店とは異なり、フィリピン国内で行うことができる活動が、以下に限定されます。
- ①本社との連絡業務
- ②市場調査の実施
- ③現地の情報収集
- ④本社の製品の品質管理、宣伝、販売促進業務
したがって、駐在員事務所は、本社に代わってフィリピンの国内企業と契約を締結することは認められず、また、フィリピン国内で所得を得ることも許されていません。このように、活動範囲が限定的である点が、駐在員事務所のデメリットです。
(2) メリット
駐在員事務所は、現地法人や支店と比べ、設置の際のコストが低く、また、手続も比較的迅速に進めることができます。また、原則として、支店と同じく経費の損金処理による本社の法人税軽減が可能です。
(3) 設立手続
- ① SECへの社名の使用許可申請
- ② SECへの登録
駐在員事務所の設置においても、居住代理人(Resident Agent)を指名する必要があります。 - ③ 地方自治体の手続
- a. バランガイ・クリアランスの取得
- b. 事業許可証(Mayor’s permit)の取得
- c. 住民税納付証明書(Community Tax Certificate)の取得
④ 内国歳入局に関する手続
- a. 納税者識別番号(Taxpayer Identification Number)の取得
- b. 納税者登録
⑤ 従業員を雇用する場合に必要になる手続
- a. 社会保障制度(Social Security System)への登録
- b. 健康保険公社(Philippine Health Insurance Corporation)への登録
- c. 持家促進相互基金(Home Development Mutual Fund)への登録
以上