カタールにおける汚職防止規制について

平成30年10月20日更新
  1. 1. はじめに
  2.  カタールは、2018年2月22日公表のトランスペアレンシー・インターナショナルによる腐敗認識指数(汚職番付)において、世界29位にランクされており、比較的清廉な国であるとの評価を受けています(中東諸国の中では、UAEに次ぐ2番目の評価です)。

     他方、その真偽は不明ですが、2022年、カタールで開催予定のFIFAワールドカップに関し、その招致過程における汚職疑惑が世界各国で報じられるなど、汚職をめぐるトラブルも少なからず発生しています。

     そこで本稿では、カタールにおける汚職防止規制について、概観します。

     

  3. 2. 汚職防止関連規制の概要
  4.  カタールにおける主要な汚職関連法規は、刑法(2004年法律第11号)です。

     同法には、贈収賄、公金横領、職権濫用等について定めがあり、汚職を犯した者に対する厳しい罰則を設けています。

     以下では、贈収賄に関する罪を中心に、汚職に関連する規定の内容をご紹介します。

     

  5. 3. 贈収賄に関する罪
    1. (1)  収賄罪
    2.  下記に該当する者には、収賄の罪が成立します。

      1. ア.  公務員が、自己又は他人のために、その職務に基づく何らかの活動を引き受け、又は何らかの活動をしないことの対価として、金銭又は利益を要求、収受又はその約束をした場合、その者は収賄者とされ、10年以下の懲役及び自己が収受し又は約束した価値を超えない金額の罰金が科されます。ただし、罰金は、5000カタール・リヤル(約15万円)を下回らないものとされています。
      2.  上記は、自己又は他人のために、自己の職務に含まれない活動を行い、又はその活動をしないことの対価として、金銭又は利益を要求、収受又はその約束をしたが、過失により、自己の職務に含まれるものと信じ、又は自己の職務に含まれるかのようにふるまった公務員についても、同様に適用されます。

         なお、動産又は不動産をその真の価値よりも高い価格で売却し、又はその真の価値よりも低い価格で購入することによって受ける特別の利益、又は、贈賄者と収賄者との間で締結された契約によって受ける特別の利益についても、賄賂に含まれるとされています。

      3. イ. また、事前に収賄者・贈賄者間に合意が無かった場合であっても、公務員が、自身の作為又は不作為による報酬を得る意図で、ある者のためにその職務に基づく何らかの活動を行い又は何らかの活動をせず、当該作為又は不作為の後に、当該者から金銭若しくは利益を収受した場合には、7年以下の懲役及び15000カタール・リヤル(約45万8000円)以下の罰金が科されます。
      4. ウ. また、公務員以外の者であっても、以下の者については、収賄の罪に該当し、3年以下の懲役及び15000カタール・リヤル(約45万8000円)以下の罰金が科されます。
      5.  ① 自身のために当該金銭又は利益の全部又は一部を留保する意図をもって、公務員のための賄賂であるかのように装って、金銭又は利益を収受した者、又は、

         ② その者が、賄賂の収受を意図する公務員から指名されず、又は当該公務員に存在を知られていなかった場合であっても、当該公務員の目的を知りながら、金銭又は利益を収受した者(ただし、賄賂を仲介した者は除く)

      6. エ. また、カタールにおいては、非公務員である被用者についても収賄罪の適用があります。すなわち、被用者が、使用者の認識及び同意なく、自己又は他人のために、自己の担当する職務を遂行し又は遂行しないことの対価として、金銭又は利益を要求、収受又はその約束をした場合、その者は収賄者とされ、3年以下の懲役及び15000カタール・リヤル(約45万8000円)以下の罰金又はそのいずれかの刑に処せられます。
      7. オ. 没収及び公職の罷免
      8.  以上の罰則のほか、贈賄者又は仲介者が供与した賄賂については、没収されます。

         また、贈収賄の罪を犯した公務員については、公職から罷免される旨も定められています。

    3. (2)  贈賄罪
    4.  下記に該当する者には、贈賄の罪が成立します。

      1. ア. 公務員に対し、金銭又は利益の供与又はその約束をした者であって、その公務員が当該申出又は約束を承諾した場合については、収賄者と同様に、10年以下の懲役及び自己が供与し又は約束したものを超えない額の罰金が科されます。ただし、罰金は、5000カタール・リヤル(約15万円)を下回らないものとされます。
      2.  また、贈賄者と収賄者間を仲介した者(仲介者)についても、同様の罰則が適用されます。

         なお、公務員に対して賄賂を供与しようとして、受領を拒否された者についても、5年以下の懲役及び15000カタール・リヤル(約45万8000円)以下の罰金が科されます。

      3. イ.  免除の規定
      4.  贈賄者又は仲介者については、金銭又は利益等を供与し又は約束した後であっても、その発覚前に、当該違反行為を関係当局に知らせるか又は申告したときは、罰則の適用が免除される旨の定めがあります。

    5. (3) 賄賂の目的が贈収賄よりも重い罪を犯すことにある場合
    6.  この場合、贈賄者、収賄者及び仲介者に対しては、いずれも、10年以下の懲役及び自己が収受等し又は約束したものを超えない金額の罰金が科されます。ただし、罰金は、5000カタール・リヤル(約15万円)を下回らないものとされます。

       ただし、贈賄者又は仲介者については、関係当局にその事実を知らせ、かつ、当該情報が犯人の逮捕につながった場合には、その刑罰が免除されます。

    7. (4)  ファシリテーション・ペイメント
    8.  贈収賄に関する罪の概要は以上のとおりですが、行政サービスに係る円滑化等を目的とした比較的少額の支払(いわゆるファシリテーション・ペイメント)についても、適用除外とならないと考えられている点については、留意が必要です。

     

  6. 4. 公金の横領等に関する罪
  7.  以下の公金の横領等に関する罪を犯した公務員については、下記の罰則のほか、公職から罷免され、かつ、違反行為の対象又は違反行為に起因する財産的価値に等しい金額の罰金が科されます。

    1. (1) 金品の横領
    2.  公務員がその職務に関して所持していた金品その他を横領した場合、5年以上10年以下の懲役に処せられます。

    3. (2) 公的財産の毀損
    4.  公務員が、故意に、自ら勤務する公的機関の財産又は利益等を毀損した場合、10年以下の懲役に処せられます。

    5. (3) 入札又は競売の自由の侵害
    6.  公務員が、詐欺的手段その他違法な手段により、各州の入札又は競売の自由等を侵害した場合、10年以下の懲役に処せられます。

    7. (4) 不正な徴収
    8.  罰金、手数料又は租税等の徴収に関与する公務員が、その事実を知りながら、納付義務の範囲を超える金員の支払を要求等したときは、10年以下の懲役に処せられます。

     

  8. 5.  職権濫用に関する罪
  9.  公務員が、何人かに損害を与え、又は、自身若しくは第三者に違法な利益をもたらすために、その職務上付与されている権限を行使した場合、3年以下の懲役若しくは10000カタール・リヤル(約30万5000円)以下の罰金又はこれらの併科に処せられます。

以上