カタールにおける労働契約の終了について
令和元年11月11日更新
- 1. はじめに
- 2. 試用期間中の労働契約の終了
- 3. 期間の定めのある労働契約の終了
- ① 身元若しくは国籍を偽り、又は、偽造文書若しくは偽造された証明書を提出した場合
- ② 使用者に多大な経済的損失を負わせる行為を働いた場合。ただし、この場合、使用者は、当該行為が発覚した24時間以内に労働省にその旨を報告しなければならないとされています。
- ③ 書面による警告にもかかわらず、労働者及び雇用先の安全指示に2回以上違反した場合。ただし、文書による安全指示が目立つ場所に掲示されていることが必要です。
- ④ 書面による警告にかかわらず、労働契約又はカタール労働法が定める義務に2回以上違反した場合
- ⑤ 雇用先の企業秘密を漏洩した場合
- ⑥ 勤務時間中の酩酊状態又は薬物の影響が確認された場合
- ⑦ 勤務中又は勤務に関連して、使用者、職場の管理者又は監督者の一人に対して暴行を働いた場合
- ⑧ 書面での警告にもかかわらず、職場の同僚に対する暴行を繰り返した場合
- ⑨ 正当な理由なく連続して7日を超えて欠勤するか、又は1年に合計15日以上欠勤した場合
- ⑩ 公正、信用にかかわる罪を犯し、有罪判決が確定した場合
- ① 労働契約又は労働法が定める義務に違反した場合
- ② 使用者又はその経営責任者が、労働者又はその家族に対し、身体的な暴力又は不道徳な行為を働いた場合
- ③ 使用者又はその代表者が、労働契約締結時に、労働者に対し、就労条件等を誤らせた場合
- ④ 職務を継続することにより、労働者の安全及び健康が脅かされるおそれがあり、使用者がその旨を認識しているにもかかわらず、その危険を除去する措置を講じない場合
- 4. 期間の定めのない労働契約の終了
- ① 年俸制又は月給制の賃金体系の場合
- ② その他の賃金体系の場合
- 5. 労働契約の終了時の取扱い
- ア 使用者は、勤続期間が1年以上の労働者に対し、離職手当を支払う必要があります。
- イ 前記の離職手当よりも有利な退職金制度又はこれに類する制度を設ける使用者については、かかる制度に基づく退職金に加えて、別途、離職手当を支払う必要はありません。
- ウ 労働者が使用者に対し債務を負担している場合、使用者は、かかる債務額を離職手当から控除することができます。
- エ 前記で述べたとおり、即時解雇の場合には離職手当が支払われません。
カタールでは、2004年法律第14号(以下「カタール労働法」といいます。)が、主として労働者と使用者の関係を規律しており、労働契約関係の終了についても規定を設けています。
そこで本稿では、①試用期間中の労働契約の終了、②期間の定めのある労働契約の終了、③期間の定めのない労働契約の終了、④労働契約の終了時における取扱いの順に、その内容を簡単に概説いたします。
使用者及び労働者は、双方の合意により、労働契約において、6か月を超えない期間を試用期間と定めることができます。
使用者は、労働者が業務を遂行する能力を欠く場合、その試用期間中、少なくとも3日前に、当該労働者に予告することにより、労働契約を終了することができるとされています。
(1) 労働契約に期間の定めを置く場合、その契約期間は5年を超えてはならないものとされています。
契約期間は、双方の合意により更新することができますが、更新された労働契約の契約期間は、原契約の契約期間の延長とみなされ、労働者の勤続期間に通算されます。
他方、明示的な合意がないまま、期間満了後も雇用関係が継続された場合、労働契約は、同一の条件で、期間の定めのない契約として更新されたものとみなされます。
(2) 期間の定めのある労働契約は、後述する即時解雇又即時辞職の場合を除き、使用者及び労働者双方の合意がある場合に限り、期間の満了前に労働契約を終了することができます。
(3) 使用者は、労働者が以下のいずれかに該当する場合において、当該労働者を予告なく解雇することができます(以下「即時解雇」と言います。)。この場合、離職手当の支払義務は生じないものとされています。
(4) また、労働者は、使用者が以下のいずれかに該当する場合、労働契約を終了することができます(以下「即時辞職」と言います。)。この場合、労働者は、離職手当を受け取る権利を失わないものとされています。
(1) 労働契約の契約期間が無期限の場合、使用者及び労働者は、いずれも、理由なく労働契約を終了することができます。この場合、終了当事者は、下記の予告期間までに、相手方に対し、書面をもってその旨を通知する必要があります。
・勤続期間が5年以下のとき :1か月前まで
・勤続期間が5年を超えるとき:2か月前まで
・勤続期間が1年未満のとき :1週間前まで
・勤続期間が1年以上5年未満:2週間前まで
・勤続期間が5年以上のとき :1か月前まで
(2) 使用者は、前記の予告期間中、労働者が通常の態様で業務に従事する場合には、全額の賃金を支払う必要があります。
(3) カタール人労働者に対しては、労働省への求職者登録のため、使用者は、合理的な期間、休職する許可を与える必要があります。
当該カタール人労働者は、新しい雇用先を見つけた場合、その旨を直ちに使用者に通知し、予告期間が満了するまで現業務を継続しなければならないものとされています。
(4) 期間の定めのない労働契約の場合と同様に、一定の場合には、使用者による即時解雇又は労働者による即時辞職が認められます。
(1) 証明書等の提供
使用者は、労働契約の満了時、労働者の求めに応じ、無料で、労働に従事した日、労働期間の満了日、従事した業務の種類及び受領した賃金額を示す労働証明書を提供しなければなりません。
加えて、使用者は、労働者から預かった証明書や書類等を返却する必要があります。
(2) 外国人労働者の帰還
使用者は、労働契約の終了時、外国人労働者を、その採用地又は当事者間で合意した場所に帰還させる義務を負います。
使用者は、労働契約の満了日から2週間以内に、かかる帰還の手続きを完了させる必要があります。
ただし、外国人労働者がカタールを出国する前に、別の雇用先を見つけた場合には、かかる帰還義務は、次の雇用先が引き継ぎます。
(3) 離職手当又は退職金
離職手当の金額は、使用者及び労働者の合意により決定されますが、各年につき3週間分の給与額を下回ってはならず、離職手当は、労働者が受領した直近の基本給に基づいて算定し、勤続期間に応じて支払う必要があります。
また、即時解雇が認められる事由以外の理由で労働契約が終了し、かつ、かかる終了日から2か月以内に当該労働者が勤務に復帰した場合、勤続期間は継続したものとみなされます。
ただし、労働者に対して支払われる正味の退職金が、離職手当よりも少ない場合、使用者は、離職手当を支払わなければならず、労働者が当該退職金制度へ積み立てた金額分を返還する必要があります。
労働者は、離職手当又は上記の退職金のうち、いずれか一方を選択する権利を有します。
ただし、紛争回避の観点からは、離職手当からの控除を行う前に、予め労働者と協議の上、労働者と合意に達しておく必要があると思われます。
(4) 恣意的解雇等に伴う補償金
裁判所が、使用者による解雇を恣意的なものと判断し、又はカタール労働法に反すると判断した場合、当該使用者に対して、解雇により労働者が得られなかった賃金その他の福利厚生の金額を含む補償金の支払が命じられる場合があります。
以上