サウジアラビアにおける会社運営について
平成29年11月19日更新
サウジアラビアにおいて、会社の運営はどのようになされているのでしょうか。本稿では、サウジアラビアの会社法の規定に基づき、主要な会社形態である有限会社(LLC)、株式会社(JSC)について、①機関設計、②役員の任期、選任、解任、③各機関の権限、④各機関の意思決定方法、⑤各機関の責任を概説します。
- 1.機関
- (1) LLC
- (2) JSC
- 2.役員の任期、選任、解任
- (1) LLC
- (2) JSC
- 3.権限
- (1) LLC
- (2) JSC
- 4.決議方法
- (1) LLC
- (2) JSC
- 5.責任
- (1) LLC
- (2) JSC
ア 必要的設置機関
出資者総会、マネージャー、監査役、管理者会です。
管理者会は、出資者の数が20人を超える場合に、出資者の中から3人以上が選任されて組織されます。
イ 任意的設置機関
定款の定めにより、複数のマネージャーからなるマネージャー会を組織することができます。
ア 必要的設置機関
株主総会、取締役会、取締役、議長、代表取締役、書記、監査役です。2016年施行の新会社法(以下単に「新会社法」といいます。)では、これに加え、副議長の選任、監査委員会の設置が義務化されました。
株主総会に出席できる株主は、定款において定められた出席資格を満たすものに限られます。ただし、保有株式数が20株以上の株主は、同資格の有無にかかわらず出席が可能です。
取締役会は、3人以上の定款で定める数にて構成されます。
監査役は、サウジアラビアにおける会計監査人資格の保有者でなければなりません。
イ 任意的設置機関
特に存在しません。
マネージャーに就任するための資格要件は特に存在しません(出資者である必要はありません。)。マネージャーは、出資者から、定款の定めに従った手続きまたは別途の契約によって、任命されます。マネージャーの任期は、会社法上規定されておらず、専ら定款の定め又は出資者との間の別途の契約の定めによって自由に規定することができます。マネージャーの解任についても、定款又は契約の定めに従って解任が可能です。ただし、解任が不適切な時期に行われた場合又は解任に正当事由がない場合、マネージャーには会社に対する損害賠償請求権が発生します。
監査役は、サウジアラビアにおいて会計監査業務を行う資格を有する会計監査人しか就任することができません。監査役は、出資者総会の普通決議によって選任されます。監査役の任期は出資者総会の普通決議によって決定されます。出資者総会は、いつでも監査役を解任することができますが、解任が不適切な時期に行われた場合又は解任に正当事由がない場合に損害賠償請求権が発生することはマネージャーの場合と同様です。
取締役には、旧法下では、価値にして1万SR以上の当該会社の株式を保有しなければならないという資格要件がありましたが、新会社法ではこれが撤廃されました。JSCの取締役は、株主総会決議(普通決議)によって選任されます。なお、新会社法によって取締役選任時には累積投票制度が義務化されました。取締役の任期は3年以下の定款で定める期間です。取締役は、定款に定められた任期満了の場合の外、株主総会普通決議によっていつでも解任可能です。ただし、解任に正当事由がない場合に取締役に会社に対する損害賠償請求権が発生します。
取締役の中から、代表取締役、議長、書記が取締役会決議により選任されます。ただし書記に限っては、取締役ではない者から選任することも可能です。
監査役の任期、選任、解任についてはLLCと同様です。
新会社法では、新たに監査委員会が設置されることになりました。監査委員は、取締役の中から3人以上5人以下で選出されます。
マネージャーの権限は出資者総会の普通決議によって決定されます。
複数のマネージャーが選任されている場合、マネージャー会を構成することが可能です(前記のとおり必要的設置機関ではありません。)。マネージャー会の権限、経営者を一部のマネージャーに委任する場合の定め等については、定款自治が認められています。
監査役の権限は、いつでも、会社の会計帳簿その他の書類を閲覧し、監査を行うことができます。監査役は、出資者総会に監査結果を記載した報告書を提出し、意見を述べることになります。
管理者会は、JSCには見られない特殊な機関です。管理者会は、出資者の一部によって構成され、マネージャーから提起された問題について意見を表明することを主たる任務とする機関です。管理者会は、各会計年度末に、出資者総会において、年間の監視結果を報告します。
取締役会は、会社法又は定款において明示的にその権限が除外されていない限り、日常的な会社の運営に関する広範囲の権限を有しています。
代表取締役、議長及び書記の権限分配については、広く定款自治が認められています。
監査役の権限はLLCと概ね同様です。
監査委員会は、会社の財務諸表及び各種監査報告を確認したうえで、定時株主総会の10日前までに、監査委員会としての意見を付した年次報告書を作成して株主に提供します。
出資者総会の普通決議は、資本金の半分以上を代表する数の出資者が承認をすることです。ただし、会社の国籍変更または出資者の財務責任の増大に関する決議要件は全出資者の承認が必要となります。定款変更に関する決議要件は資本金の4分の3以上を代表する出資者の多数による承認です。
マネージャー会の決議方法は各社の定款で定められます。
株主総会の普通決議は、資本金の半分以上に相当する株式を保有する株主の出席が定足数要件となり、出席した株主の株式数の過半数の賛成を得ることが議決要件となります。なお、旧法では、定款自治が広すぎ、極端な定足数要件も認められていましたが、新会社法では定足数の定款による引き上げ幅に制限が課されています。
特別決議は、資本金の半分以上に相当する株式を保有する株主の出席が定足数要件となり、出席した株主の株式数の 3 分の 2 以上の賛成を得ることが議決要件となります。
取締役会決議は、過半数以上の定足数要件、出席取締役の過半数の議決要件があります。なお、新会社法によって、取締役会議事録については全出席取締役の署名が必要となりました(旧法では議長及び書記の署名で足りていました。)。また、新会社法によって、取締役会は年間2回以上開催することが義務化されました。
マネージャーは、会社法、会社定款の各規定に違反した場合、又は職務遂行上の過失があった場合、出資者、会社又は第三者に生じた損害について、連帯して責任を負うことになります。マネージャーの責任の追及期限は、新会社法によって、当該行為があった会計年度の終期から5年経過時点又は当該マネージャーが退任してから3年経過時点のいずれか遅い時点と定められました。
監査役は、職務遂行中の過失について、会社、出資者及び第三者に生じた損害について、損害賠償責任を負います。複数の監査役の過失による場合は連帯責任となります。
管理者会は、前述のとおり、マネージャーから上程された事項について意見する機関であって、マネージャーの活動全般に対して責任を負うわけではなく、マネージャーの過失行為を知らされていたにもかかわらず、これをほかの出資者総会に報告しなかった場合に損害賠償責任を負うものです。
取締役の責任については、概ねLLCと同様です。なお、問題となる行為について、反対をした取締役については、当該反対の意見が取締役会議事録に記載されていた場合に限って、責任を免れることができます。
監査役の責任についてはLLCと同様となります。
以上