サウジアラビアにおける会社清算手続について

令和2年7月更新

1 はじめに

 今日のコロナショックによる世界経済の急激な悪化に伴い、海外撤退を余儀なくされる日本企業も少なくないと思われます。サウジアラビアに進出している日本企業も例外ではありません。そこで、本稿では、サウジアラビアの会社清算手続の概要についてご紹介します。

2 清算の決定

 会社が解散すると清算手続に入ります。例えば、会社が事業年度中に資本金の半額に相当する損失を被った場合には、出資者の決定により会社を解散することができます。そして、清算手続は、それが強制手続か任意手続かに拘らず、出資者又は出資者以外の者の中から選任された 1 名以上の清算人によって行われます。強制清算については、管轄権を有する司法当局により決定され、任意清算については、出資者又は総会により決定されます。清算を決定する際には、清算人を任命し、清算人の権限や報酬、清算に必要な期間等を決定する必要があります。そして、選任された清算人は、会社の定款変更に関して定められた公示方法で、以上の決定内容を公示しなければなりません。なお、任意清算の期間は、原則として5年を超えてはならないとされています。

3 清算人

(1)清算人の権限と義務

 清算人は、清算決定の際に決められた権限の範囲内で、裁判所及び第三者に対して、会社を代表し清算に必要な全ての行為を行います。特に、動産や不動産等の会社の資産については、競売やその他の方法により換価し最高価格が会社に対して正当に支払われるようにすることが求められます。もっとも、清算人を任命した機関によって授権された場合を除き、会社資産を全体として売却し又は会社資産を他の会社へ現物出資することはできません。また、清算人は、従来の事業を完了するために必要である場合を除き、新規事業を開始することもできません。

 清算人の権限は、会社法の規定に従って延長されない限り、清算期間の終了時に失効します。清算人の権限が失効するまでの間、会社は、その権限の範囲内で行われる清算人の行為に法的に拘束されることになります。

(2)清算人の共同責任

 清算人が複数人存在する場合、清算人は、清算人を任命した機関によって個別に行動することが許された場合を除き、共同で清算業務を行わなければなりません。

 清算人がその権限の範囲を逸脱した行為を行い又はその任務の遂行中に過失により会社、出資者及び第三者に損害を与えた場合には、他の清算人は共同で賠償責任を負わなければなりません。

4 清算手続

(1)清算手続中の会社の権限等

 解散後の会社は、清算のために必要な限りにおいて、清算手続が完了するまでの間は、法人格が維持されます。他方で、会社の取締役の権限は、会社の解散により終了しますが、清算人が選任されるまでの間は、取締役は会社の経営を継続し、第三者に対しては清算人とみなされます。会社の総会は、清算期間中も有効に存続しますが、その行使できる権限は、清算人の権限に抵触しない範囲に制限されます。また、出資者は、清算期間中、会社法又は会社の定款若しくは附属定款に従って、会社の書類を閲覧することができます。

(2)清算手続の具体的内容

 清算人は、任務を引き受けてから3か月以内に(必要に応じて延長可能)、監査役が設置されている場合は監査役と共に、会社の資産及び負債の一覧表を作成する必要があります。会社の取締役は、清算人の要求に従い、会社の帳簿、記録、文書等の全ての情報を提供しなければなりません。

 また、清算人は、満期の到来した債務を支払い、繰り延べられた債務又は争いのある債務の支払に要する金額を留保しなければなりません。なお、清算によって生じる債務は、他の債務に優先します。そして、会社は、債務の支払後、出資者に対してその持分を払い戻し、会社の定款の規定に従って剰余金を割り当てます。剰余金に関する規定が定款に定められていない場合は、剰余金は資本金中の各出資者の持分に応じて割り当てられます。また、会社の純資産が出資者の持分を支払う額に不足する場合は、損失分担ために定められた割合に従って出資者が損失を分担することになります。

5 清算の終了

 清算人は、各会計年度末に財務諸表と清算報告書を作成し、定款に従って、これらの書類の写しを出資者又は総会に提出し承認を得る必要があります。清算人は、清算の最後に詳細な財務報告書を作成し、この財務報告書が清算人を任命した機関によって承認された時に清算手続は終了します。そして、清算人は、会社の定款または附属定款の変更について定められた公示方法により、清算手続の完了を公示する必要があります。

6 清算人等に対する責任追及

 清算手続を原因とする清算人に対する法的請求、会社の運営に関する出資者に対する法的請求及びその任務の遂行における活動を理由とする取締役若しくは監査役に対する法的請求については、詐欺及び偽造の場合を除いて、清算の公示が行われた日から5年又は清算の終了から3年のうちどちらか遅い日が経過するまでに行う必要があります。

以上