シンガポールにおける法人倒産手続
2023年2月更新
シンガポールの法人倒産手続には、清算手続(Winding-up)、更生管財手続(Judicial Management)、保全管理手続(Receivership)、スキーム・オブ・アレンジメント(Scheme of Arrangement)等があります。また、零細企業・小規模企業については、簡易倒産処理プログラム(Simplified Insolvency Programme(SIP))が用意されています。
そのほか、シンガポールでは、2017年の会社法改正に伴い、UNICITRAL国際倒産モデル法(UNCITRAL Model. Law on Cross-Border Insolvency)が発行しました。同法は複数国に跨る並行的な倒産処理に関する協力・調整の枠組みを定めるものであり、シンガポールでは国際的な倒産処理裁判官ネットワーク(Judicial Insolvency Network(JIN))が構築されています。
本稿では、これらシンガポールにおける法人倒産手続の一種である清算型手続(Winding-up)、特に任意清算(Voluntary Winding-up)について概説致します。
1.清算型手続(Winding-up)
清算型手続とは、会社の債務を支払うために、会社資産を回収し処分する手続です。債務、費用、経費等の弁済後の残余財産は、当該会社の株主間で分配されることになります。また、清算手続が完了すると、会社は解散し、その法人格も消滅します。
清算型手続は、①株主・債権者が手続を主導する任意清算(Voluntary Winding-up)と、②裁判所が手続を主導する強制清算(Winding-up by Court)の2種類があります。
①任意清算は株主・債権者の意思決定によって進行しますが、②強制清算は、裁判所が倒産、企業再編及び清算に関する法律(the Insolvency, Restructuring and Dissolution Act (IRDA法))第125条所定の事由の有無を審査し、解散命令を発することにより進行します。
2.任意清算(Voluntary Winding-up)
(1) 任意清算の開始
任意清算は、会社に債務の支払能力があるか否かによって、手続が異なります。 (a) 会社に債務の支払能力がある場合は「株主による任意清算(Voluntary Winding- up by Members)」によることとなりますが、(b)会社に債務の支払能力がない場合は「 債権者による任意清算(Voluntary Winding- up by Creditors)」によることとなります。
(a) 株主による任意清算(Voluntary Winding- up by Members)
株主による任意清算は、①取締役会において任意清算を行う旨を決議する必要があります。そして、②取締役が清算手続開始後12ヶ月以内に会社債務を全て弁済できる見込みがある旨の支払能力宣言書を作成し、ACRA(Accounting and Corporate Regulatory Authority)への登記手続を履践しなければなりません。その後、③支払能力宣言書が作成されてから5週間以内に、株主総会を開催して任意清算の特別決議を行います。④かかる特別決議がなされた場合、会社は、当該決議後7日以内に、ACRAへの登記手続を履践する必要があります。また、当該決議から10日以内に、1紙以上の英字新聞に公告を行わなければなりません。
さらに、④株主総会の普通決議により、清算人の選任(及びその報酬の承認)が行われます。清算人が選任された場合、取締役の権限は原則として消滅します。
(b) 債権者による任意清算(Voluntary Winding- up by Creditors)
債権者による任意清算は、株主による任意清算で予定されている手続に加えて、債権者集会を開催する必要があります。
債権者集会の招集通知には、全債権者の氏名又は名称及び債権額が記載されます。また、債権者集会の招集通知は、債権者集会開催日の10日前までに各債権者に送達され、かつ、債権者集会開催日の7日前までに1紙以上の英字新聞に公告されなければなりません。
債権者集会では、取締役作成に係る会社の資産負債表及び債権者の一覧表等が開示されます。債権者集会においても清算人が選任されますが、株主総会において選任された清算人と異なっていた場合は、債権者集会で選任された者が清算人となります。
(2) 任意清算開始の効果
任意清算が開始された場合であっても、会社の法人格及び権利能力は、本稿2.(5)「会社の解散」まで存続します。もっとも、会社は原則としてその事業を停止します(清算人が会社にとって事業の継続が有利であると判断した場合はこの限りではありません)。
また、会社は、会社またはその役員が発行する全ての書類に、当該会社が清算中である旨を明示しなければなりません。会社の帳簿類は、清算人に引き渡されることになります。
なお、任意清算の開始後は、清算人の許可がない限り、株式を譲渡することはできず、これに反してなされた譲渡は無効となります。
(3) 会社財産の換価・配当
清算人は、会社財産の換価処分を行います。また、清算人は、各債権者に対して債権届出を行うように求め、届出債権の認否を通じて、その債権額を確定します。
また、清算人は、①優先債権者(会社清算に要した費用、従業員の給与その他の報酬、従業員の退職手当、雇用の過程で生じた損害賠償債務、CPF(シンガポールの社会保障制度)に関する会社負担分の費用、従業員の年次休暇に係る給与、公租公課)、②一般債権者、③株主に対して、配当手続を行います。ただし、担保権者は、会社財産に設定した担保権を実行し、その債権の優先回収を図ることが可能です。
(4) 清算結了時の報告集会
清算人は、清算手続完了後、会社財産の換価処分等に関する計算書を作成し、株主総会(株主による任意清算の場合)又は株主総会及び債権者集会(債権者による任意清算の場合)を招集します。
これらの清算結了時の報告集会の招集通知は、開催日の1 ヶ月以上前に、シンガポールで発行される英語・マレー語・中国語・タミル語の新聞各1 紙以上において、公告を行う方法によってなされなければなりません。
(5) 会社の解散
清算人は、清算結了時の報告集会後7 日以内に、ACRAにおいて登記手続を行います。会社は、当該登記がなされた日から3 ヵ月が経過した時に、解散します。
以上