タイの外資規制
2014年4月25日更新
タイでは、外国資本の国内における事業活動に対して外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542(1999))に基づく広範な規制が定められており、小売業・卸売業等のサービス業は原則的に外資規制の対象とされている。
外国人事業法上の1つの特徴は、外資が49%まで株式を保有していても当該法人は外国人事業法の適用対象とはならない点である。このため、タイでは外資が49%まで保有した上で合弁会社を外資が実質的にコントロールするための手法が発達している。ただし、外国人事業法の違反に対しては、懲役刑を含む刑事罰が規定されているため、進出前に十分その規制内容及びスキームの適法性を検討しておく必要がある。加えて、タイ投資委員会(Thailand Board of Investment: BOI)から投資奨励を受ける等の方法により、外資が100%保有したままで事業を行う選択肢も存在している。
本稿では、1.根拠法令、2.外国人事業法の適用範囲、最低資本金額、3.規制対象事業について検討し、最後に4.事業内容が外国人事業法の規制対象事業である場合の対応について紹介する。
なお、タイにおいては、本稿で検討した外国人事業法に基づく外資規制に加えて、外資の不動産所有・外国人の就労等に関して制限が存在しているため留意が必要である。また、タイへ進出する際や、タイの会社を対象としてM&Aを行う際等、外国資本がタイで事業を実施し又はタイにおける事業に関与するにあたっては、本稿で検討した外国人事業法に基づく外資規制に加えて、予定している業務を所轄する監督省庁の法令において個別の外資規制が定められていないかを確認し、必要に応じて当該規制当局と事前の折衝を行い、必要な許認可・ライセンスの種類・取得手続・必要書類を事前に把握しておくことが重要であると思われる。
- 1. 根拠法令
- 2. 外国人事業法の適用範囲、最低資本金額
- 3. 規制対象事業
- (1) 外国人が営むことができない事業
- (a) 出版事業、テレビ・ラジオ放送事業
- (b) 米作、プランテーション、農作物の栽培
- (c) 畜産
- (d) 林業・木材加工(天然林)
- (e) 漁業(タイ領海・経済水域内における捕獲に限る)
- (f) タイの薬草の抽出
- (g) タイの骨董品又は国家の歴史的な価値を有する物品の取引及び競売
- (h) 仏像及び僧鉢の製造及び鋳造
- (i) 土地取引
- (2) 内閣の承認に基づく商業大臣の許可により外国人が参入可能な事業
- (a) 国家の安全又は治安に関する事業
- (b) 芸術・文化・伝統・慣習・工芸に影響を及ぼす事業
- (c) 天然資源又は環境に影響を及ぼす事業
- (3) 外国人事業委員会の承認に基づく商務省事業開発局長からの外国人事業許可証により外国人が参入可能な事業
- (a) 精米・製粉
- (b) 漁業(養殖に関するものに限る)
- (c) 林業(人工林)
- (d) 合板・ベニア板・チップボード・ハードボードの製造
- (e) 石灰の製造
- (f) 会計サービス
- (g) 法律サービス
- (h) 建築設計サービス
- (i) エンジニアリングサービス
- (j) 建設業(外国人投資が5億バーツ(約15億8000万円)以上で特殊な技能を要するインフラ・公共交通機関等の建設、その他省令で定める種類の建設業を除く)
- (k) 仲介・代理業(ただし、証券の売買・農産物又は金融商品の先物取引に関する仲介・代理、グループ内企業の製造・サービス提供に必要な商品・サービスの仲介・代理、外国人資本1億バーツ(約3億1600万円)以上の国際貿易の仲介・代理、その他省令で定める仲介・代理業を除く)
- (l) 競売(タイの骨董品・芸術作品以外の物品の国際間競売、その他省令で定める競売を除く)
- (m) 伝統的な農産物又は法令で禁止されていない農産物の国内取引
- (o) 資本金1億バーツ(約3億1600万円)未満又は一店舗あたりの資本金が2000万バーツ(約6300万円)未満の小売業
- (p) 一店舗あたりの資本金が1億バーツ(約3億1600万円)未満の卸売
- (q) 広告業
- (r) ホテル業(ただし、ホテルのマネージメントサービスを除く)
- (s) 観光業
- (t) 飲食物の販売
- (u) 植物の栽培・育成
- (v) その他のサービス業(省令で定めるものを除く)
- 4. 事業内容が外国人事業法の規制対象事業である場合の対応
- (1) 外国人事業許可の取得
- (2) 各種奨励措置の授与
- (3) 日タイ経済連携協定(JTEPA)に基づく事業運営許可証の取得
タイにおいては、外国資本に対する一般的な規制を定める法令として、外国人事業法(Foreign Business Act B.E. 2542(1999))が存在している。
外国人事業法は、一定の規制業種について「外国人」の参入を規制している。同法における「外国人」には、①タイ国籍を有しない自然人、②タイで登記されていない法人、③タイで登記された法人で全株式数又は株式の価値に占める上記①②の者の保有割合が50%以上の者、④タイ国内で登記された法人で全株式数又は株式の価値に占める上記①②③の者の保有割合が50%以上の者が含まれる。
かかる外国人がタイ国内において事業を営む場合の最低資本金額は、原則として200万バーツ(約620万円)、規制対象事業(本稿3. に記載)については一事業あたり300万バーツ(約930万円)である。
外国人事業法は、規制業種を(1) 外国人が営むことができない事業、(2) 内閣の承認に基づく商業大臣の許可により外国人が参入可能な事業、(3) 外国人事業委員会の承認に基づく商務省事業開発局長からの外国人事業許可証により外国人が参入可能な事業、の3つに分類して規定している。以下、該当する事業の概要を順に紹介する。
武器・弾薬・火薬・爆発物又はこれらの部品、軍備、軍事用船舶・航空機・車両、あらゆる種類の軍用設備・部品の製造・販売・修理、陸・空・海の国内運輸
タイの芸術・民芸品である骨董品・芸術作品の取引、木彫品の製造、養蚕、タイシルクの製糸・紡績・プリント、タイの楽器製造、金・銀・ニエロ・青銅・漆製品の製造、タイ文化及び芸術を表す伝統陶器・土器の製造
サトウキビからの製糖、製塩、岩塩製造、鉱業、採石業、家具製造のための木材加工
事業内容が上記3.に記載した外国人事業法の規制対象事業である場合、原則として外国人は当該事業を営むことができないため、当該事業への外資系の企業の出資比率を50%未満に抑える必要がある。ただし、以下の場合には、例外的に外資の保有比率が50%以上でも事業運営が可能である。
上記3(2)又は(3)の事業に該当する場合には、外国人事業許可(Foreign Business License)を取得することにより、外資保有比率50%以上で当該事業を営むことが可能となる。3(2)の事業の場合は、タイ人による資本保有が25%以上であり取締役の5分の2がタイ国籍を有する者であることが要件となる。
投資奨励法(Investment Promotion Act, B.E. 2520)に基づく投資奨励や、タイ工業団地公社法(Industrial Estate Authority of Thailand act, B.E. 2522)に基づくによる事業許可を受けている場合は、外国人事業許可証(Foreign Business
Certificate:FBC)を取得することにより、当該許可の範囲において外国人事業法の規制の適用が除外される。各法令において、対象となりうる事業が規定されているため、この内容を確認する必要がある。
一定のサービス事業においては、JTEPAにより日系企業に対する外資比率等の要件が緩和されている。これを利用するためには、一定の要件を見たした上で、商務省事業開発局長から事業運営許可証を取得する必要がある。JTEPAにおいて、対象となる事業が記載されているため、その内容を確認する必要がある。
以上