タイにおける事業拠点の設置

 外国資本がタイに新たに事業組織を組成する場合の主な形態としては、①現地法人、②外国会社の支店、③駐在員事務所、④地域事務所の形態が考えられるが、実務上は非公開株式会社(Private Limited Company、①の一形態)が用いられる場合が多いように思われる。以下では、非公開株式会社の特徴とその設立手続の概要を紹介する。

  1. 1. 非公開株式会社の特徴
  2.  株式会社とは、株式として均等に分割された資本により構成される会社であり、この株主の責任は各株主が保有する株式の払込金額(未払部分を含む)に限定される。株式会社の形態には、公開会社(Public Company)及び非公開会社(Limited Company)がある。公開会社は、公募が可能な会社形態であり、証券取引所に上場するような大規模な会社を予定した制度であるため、発起人が15人以上、取締役5人以上でこれらの半数以上がタイ居住者であること等の要件や証券取引委員会や資本市場監視委員会等の規制に服する。これに対し、非公開会社は、公開会社と比べて設立が容易であり運営の自由度も高い反面、原則として既存の株主以外の者に対して新株を発行することができない等、資金調達等において制限が存在している。

  3. 2. 非公開株式会社の設立手続
  4.  タイにおいて、非公開株式会社の設立に必要となる主な手続は以下のとおりである。会社の必要事項が確定してから会社設立が完了するまでの一般的な目安期間は1~2ヶ月程度である。

    1. (1) 会社の必要事項の確定
    2.  設立に際して確定しておくべき必要事項には以下が含まれる。

      (a) 機関構成

       非公開株式会社の場合、株主3名、取締役1名、会計監査人1名を有することが必要である。取締役についてタイでの居住要件・国籍要件は存在していないが、会社の書類への署名のため、契約締結権限を有する取締役を居住取締役とする場合が少なくない。

      (b) 資本金

       民商法上は最低資本金の規制は存在していないが、外国人を就業させるための就労許可を取得するためには1人当たり200万バーツ(約620万円)の資本金が原則として必要とされている。また、外国人事業法上の外国人に該当する会社が、同法上の許可を得て規制事業を行う場合には一業種当たり300万バーツ(約930万円)の資本金、規制事業を行わない場合には200万バーツ(約620万円)の資本金が必要である。

      (c) 会社名(商号)

       タイにおいては、商号はタイ語でも併せて予約・登記される。同一の音について異なるタイ語での表記が存在する可能性があるため、商号の決定に当たってはタイ語の表記についても注意を払う必要がある。

      (d) 会社所在地

      (e) 会社の事業内容

    3. (2) 商号の予約
    4.  DBD(Department of Business Development)に対して、希望する会社名の商号予約申請を行う。同一又は類似の商号が既に会社名として登記されていない場合には、1~3日で商号の使用許可が出される。かかる商号使用許可の有効期間は30日であり、この期間内に基本定款を登記しない場合には、再度商号の予約を行う必要がある。

    5. (3) 基本定款の作成・登記
    6.  基本定款(Memorandum of Association)の作成には、3名以上の発起人の署名が必要である。発起人は、自然人のみで法人は認められていない。非公開株式会社の定款の必要的記載事項には、以下が含まれる。 

      (i) 会社の商号(予約したものと同一のもの)

      (ii) 登記事務所の所在地

      (iii) 会社の目的

      *会社は基本定款に定めた目的の範囲外の行為を行うことはできないため、予定している業務内容が全て網羅されているかどうかを確認する必要がある。

      (iv) 株主の責任が有限である旨の文言

      (v) 登録資本金額、一株当たりの額面金額(最低5バーツ(約15円))

      (vi) 発起人の氏名、住所、職業、署名及び引受株式数

    7. (4) 株式の引受、創立総会の開催、株式の払込
    8.  発起人は、会社の株式を最低1株引受ける必要がある。金銭で払込がなされる全ての株式が引受けられた場合、発起人は遅滞なく創立総会を開催する。創立総会の主な決議事項は以下のとおりである。

      ・ 付属定款(Articles of Association)の採択

      ・ 発起人の設立準備行為の承認

      ・ 取締役及び会計監査人の選任

       創立総会の開催後、取締役は、発起人及び株式引受人に、株式の発行価額の25%以上の払込をさせる。ただし、BOIの恩典付与を受ける際には発行価額の全額の払込が条件とされることが多い。

    9. (5) 設立登記
    10.  前記の株式の払込が完了したら、取締役は会社登記の申請をしなければならない。創立総会の後3ヶ月以内に設立登記を行なわない場合には、会社設立が無効となり受領した払込金を全額返却しなければならなくなるため注意が必要である。設立登記事項には、以下が含まれる。

      (i) 普通株式及び種類株式ごとの発行済株式総数

      (ii) 現金以外の方法により全部又は一部が出資される普通株式及び種類株式の数、当該出資により払込がなされた範囲

      (iii) 各株式につき現金により既に払込がされた金額

      (iv) 全株式につき現金により払込がされた総合計金額

      (v) 取締役及び代表取締役の氏名、住所及び職業

      (vi) 取締役が個別に権限を有する場合のそれぞれの権限並びに署名権限を有する取締役の数及び氏名

      (vii) 会社の存続期間の定めがある場合は、その期間

      (viii) 会社の主たる事務所及び全ての支店の所在地

       会社は、設立登記の完了により、原則として事業を開始することができるが、各種のライセンス又は許認可が必要な事業活動を行う場合には、これらの取得が事業開始の条件となる。従って、予定している事業に関して必要となるライセンス・許認可を、弁護士等の専門家又は所轄官庁に事前に確認しておくことが重要である。

    以上