タイ 解雇規制
2016年4月29日更新
以下では、タイにおいて解雇を行う場合に必要とされている一般的な要件・手続を紹介し、次に実務上解雇に先立って行われることの多い警告書の交付について紹介する。
- 1. 解雇に必要な一般的な要件・手続
- (1) 公正な解雇理由
- (2) 解雇の事前通知
- (3) 解雇手当の支払
- 2. 警告書の交付
タイにおいては、使用者が労働者を解雇する場合、(1)公正な解雇理由が必要であり、原則として(2)当該労働者に対して解雇の事前通知をし、かつ、(3)解雇手当を支払わなければならない。以下、順に検討する。
法律上、解雇された労働者は、解雇の状況が不公正であることを理由として、使用者を労働裁判所に提訴することができる。このことから、使用者が労働者を解雇する場合には、公正な解雇理由が必要と解される。したがって、雇用契約書に「一定期間前の事前通知をすれば雇用契約を終了できる」と定めてあったとしても、使用者は当該労働者を解雇する公正な理由(例えば、被用者の不正行為)を根拠とする必要がある。
解雇が不公正だと判断した場合、労働裁判所は、①使用者に対して解雇時と同額の賃金で当該労働者を復職させる命令を発し、又は労使関係の改善が不可能と判断した場合は復職ではなく②労働者の年齢・勤続年数・解雇理由・解雇手当の額等を考慮して裁量により損害賠償額を決定する。
雇用期間の定めのない雇用契約を締結している労働者を解雇する場合、使用者は当該労働者に対して一給与期間以上前に、書面により通知をする必要がある旨が法律上定められている。給与日又はその前に通知をした場合、次の給与日に雇用契約が終了することになる。ただし、使用者が、通知で定めた解雇予定日(次の給与日)までの期間において支払うべき額の賃金を支払った場合には、雇用契約を直ちに終了させることができる。
以下の懲戒解雇事由に基づき労働者を解雇する場合には、例外的に事前通知は不要である。
(i) 職務上の不正又は使用者に対する故意の犯罪を行った
(ii) 使用者に故意に損害を与えた
(iii) 使用者に過失により重大な損害を与えた
(iv) 使用者が文書で警告しその後1年以内に就業規則、規定又は使用者の合法かつ公正な命令に違反した(警告書については、本稿2.を参照されたい)
・ 重大な違反については、警告書は不要
(v) 正当な事由なく、3勤務日続けて職務を放棄した
(vi) 確定判決で禁固刑の言渡しを受けた
・ 過失犯又は軽犯罪による禁固刑の場合、使用者の損害の原因行為に限る。
勤続期間が一定以上の労働者を解雇する場合、原則として、使用者は、当該労働者に対して解雇手当を支払わなければならない。解雇手当の金額は、勤続期間に応じて以下のとおり計算される。
・勤続期間が120日以上1年未満の場合: 30日分の賃金
・1年以上3年未満の場合: 90日分の賃金
・3年以上6年未満の場合: 180日分の賃金
・6年以上10年未満の場合: 240日分の賃金
・10年以上の場合: 300日分の賃金
ただし、以下(a)又は(b)に該当する場合には、例外的に解雇手当を支払う必要はない。
(a) 一定の有期雇用契約期間の満了を理由とする解雇
以下の要件を満たす有期雇用契約の期間満了を理由として労働者を解雇する場合には、解雇手当を支払う必要はない。
(i) 以下のいずれかの形態の有期雇用契約(「特定有期雇用契約」)であること。
・使用者の通常の業務・取引ではない特定のプロジェクトにおける雇用で、かつ開始・終了時点が明確な作業
・終了又は完成時点が定められた臨時の作業
・当該労働者が当該季節においてのみ行う季節的な作業
(ii) 有期雇用期間が2年を超えないこと。
(iii) 使用者・雇用者間で雇用開始時に、特定有期雇用契約であることを書面で合意すること。
(b) 懲戒解雇事由に基づく解雇
上記(2)で記載した懲戒解雇事由に基づき労働者を解雇する場合には、事前通知が不要であるのみならず、解雇手当を支払う必要もない。
警告書の交付は、法律上労働者を解雇する要件とされている訳ではないが、労働者の懲戒事由に基づき当該労働者を解雇する場合、上記1.(2)の解雇の事前通知に先立って当該労働者に対して警告書を交付することが実務上行われている。これは、上記1.(2)の懲戒解雇事由の(iv)において「使用者が文書で警告しその後1年以内に就業規則、規定又は使用者の合法かつ公正な命令に違反した」ことが挙げられており、この要件を満たした場合には、解雇の事前通知・解雇手当の支払義務を例外的に使用者が負わないと定められているためである。
かかる警告書は、労働者が懲戒事由に該当する行為を行ってから1年以内に限って有効である点には注意が必要である。
以上