タイの資産保有
2016年12月13日更新
タイでは、民商法に不動産の使用収益権原(所有権、賃借権、使用貸借権)に関する一般的な規定が置かれているが、登記制度はトレンズ・システム(Torrens System)を採用しており、フランス登記制度に属する日本とは根本的に異なる。また、外国人による土地取得は、土地法上、原則として禁止されている。以下、本稿では、①代表的な不動産の使用収益権原である所有権及び賃借権の概要、②タイ登記制度の概要、③外国人の土地取得規制の概要を述べる。
1.不動産の使用収益権原の概要
- (1) 所有権
- (2) 賃借権
タイでは不動産の私人所有が認められており、不動産の所有者は当該所有物の使用収益・処分権原、果実収受権、物権的請求権を有する。但し、売買契約等の法律行為に基づく不動産取得は、当該法律行為が書面によって行われ、かつ、登記されていなければ無効となるため、注意を要する。
なお、土地・建物は別個の不動産として扱われており、建物を土地の所有者と異なる第三者が所有することも可能である。後述のとおり、外国人は土地所有権取得が規制されているが、タイ人土地所有者から事業用地を賃借し、借地上に建物を建築した上で、当該建物を所有することは可能である。
賃貸借とは、当事者の一方(賃貸人)が相手方(賃借人)に対して、一定期間、ある物の使用収益をさせ、またはその物からの利益を得させることを約し、相手方がこれに賃料を支払うことを約する契約を言う。
不動産賃貸借期間は、原則として、30年間を超えてはならないとされ、30年間を超える不動産賃貸借契約を締結した場合、その期間は30年間とみなされる。また、不動産賃貸借期間が3年を超える場合、登記をしなければ当該不動産賃貸借契約は法的効力を持たない。実務上は、不動産賃貸借期間を3年以下とし、更新オプションを設ける例もみられる。
2.タイ登記制度の概要
登記は、土地法典施行法令及び土地法典の主務大臣が設置する土地事務所(Land Office)で取り扱われており、民商法典に基づく不動産に係る権利及び法律行為の登記申請は、当該不動産の所在地を管轄する土地事務所の登記官に対して行われる。
土地については、土地事務所から権利関係を証する証明書が発行される。証明書の例としては、土地所有権を証する権利証書や、土地占有(利用)権原を証する使用権証明書等があり、法律上、信用度に応じたランク分けが行われている。他方、建物についてはそういった証明書が存在せず、売買契約書や建築許可証等が権利関係を証する証拠とされている。
3.外国人の土地取得規制
- (1) 土地法に基づく土地取得規制
- (2) 例外的に外国人による土地取得が認められる場合
タイでは、外国人の土地所有について不動産所有権に係る条約に基づく旨規定されているが、現時点で不動産所有権に係る条約は締結されておらず、結果として外国人は原則として土地を取得することができない。
外国人に禁じられている土地所有を名義貸しの方法によって行うことは違法であり、刑事罰の対象となる。
ア 投資奨励法に基づく投資奨励
1つ目に、投資奨励法に基づく投資奨励を受けた外国人は、奨励対象事業を営むためにタイ投資委員会が相当と判断した面積について土地所有権を取得することができる。但し、投資奨励法に基づく奨励は事業単位で行われるため、外国人が奨励対象事業を中止又は第三者に譲渡する場合は、当該事業の中止又は譲渡の日から1年以内に、所有権保有の許可を受けた土地を売却しなければならない。
イ タイ工業団地法に基づく投資奨励
2つ目に、タイ工業団地公社(IEAT)が認定した工業団地内に立地する企業は、外資比率にかかわらず土地取得が認められている。
ウ 土地法上の例外
3つ目に、4000万バーツ(約1億2931万7000円)以上の投資を行い、かつ、内務省の許可を得た場合は、居住用に1ライ(1600平方メートル)以下の土地の取得が認められている。
4.タイにおける土地取得上の留意点
タイにおいて土地所有権を検討する際は、前記の外国人による土地取得規制のみならず、証書類の確認を含む権利関係の検証、公有地ないし国有地との重複の有無、建築制限等について、現地専門家の協力を得た土地DDを実施することが肝要である。
以上