トルコにおける代理店保護規制について
令和2年2月21日更新
- 1.はじめに
- 2.代理店の定義
- 3.代理店契約の要式性
- 4.代理店の義務
- 5.代理店の権利
日本企業が、トルコ市場における自社製品の販売を容易にするために、販売力を有する現地事業者に販売活動を委ねる代表的な方法として、代理店(Commercial Agent)契約による方法と、販売店(Distributor)契約による方法が挙げられます。
また、二当事者又は三当事者間の提携にとどまらず、相互に経営資源を提供し合って事業体を共同所有する形態でパートナーシップを構築するジョイント・ベンチャー契約や、企業と多数当事者との間で継続的な協力関係を構築するフランチャイズ契約等を締結することも可能です。
本稿では、このようなトルコ市場における販路開拓手段のうち、代理店契約について、その定義及び契約当事者の権利義務を概説します。
(1) 代理店(Commercial Agent)とは、特定の場所又は地域において、委託企業(本人)の従業員、販売員、販売担当代表者等の法的地位を有することなく、当該委託企業との契約に基づいて、当該委託企業のために顧客との契約締結を仲介又は代理して、手数料を受領する「代理型」のビジネスモデルです。
代理店契約は、トルコ商法102条から123条において規制されています。
(2) 販売店(Distributor)は、自ら販売元企業から商品を購入し、販売店自身が顧客に販売して、報酬を受け取る「転売型」のビジネスモデルです。
販売店契約を定義した特定の法律はありませんが、販売店契約に関して契約当事者間で紛争が生じた場合には、法的論点に即して、売買契約や代理店契約等に関する規定が類推適用されます。
トルコ商法では、代理店契約について、書面での締結が必要であるというような特定の方式は要求されていません。
もっとも、書面による特約がない限りは、代理店は指定地域における独占的代理権を有することになる点には留意が必要です。
また、代理店が、委託企業を代理して契約を締結するためには、委託企業から書面により特別の授権を受ける必要があり、当該代理権について商業登記に登録して、商業登記官報(Trade
Registry Gazette)で公示する必要があります。
ア 基本的な義務
代理店は、代理店契約に従って、委託企業の業務を遂行しなければなりません。また、代理店は委託企業の業務を遂行している間、委託企業の利益を保護する義務を負います。
イ 報告義務
代理店は、委託企業に対し、受領した通知及び業務遂行過程で受け取った情報(市場の状況、顧客の財務状況等)を適時に報告する義務があります。
ウ 金銭の返還義務
代理店は、委託企業に帰属する金銭を、委託企業に対して送金する義務があります。もし、送金しない場合には、送金義務が発生した日以降、受領した額及びその利息について、支払義務を負います。
エ 競業避止義務
「3.代理店契約の要式性」の項においても述べたとおり、代理店契約において別段の意思表示がなされていない限り、特定の地域内で、代理店が代理することができるのは1つの委託企業のみであり、委託企業が採用することができるのも1つの代理店のみです。これはすなわち、両当事者に対して競業避止義務が課されていることを意味します。
これに関連して、代理店において、代理店契約に係る事業について委託企業と競合したり、当該委託企業の競合先に対する協力を行ったりしてはなりません。
もっとも、代理店契約終了後において課すことのできる競業避止義務は最大2年間とされており、その範囲も当該代理店に割り当てられた地域や顧客等に限定されています。また、委託企業が代理店に対して代理店契約終了後における競業避止義務を課そうとする場合、当該代理店に対して補償金を支払わなければならないとされています。
ア 報酬請求権
代理店は、代理店契約の有効期間内に、代理店の努力の結果として、委託企業が顧客との間で契約が締結された場合、当該取引に関して報酬を請求することができます。加えて、代理店契約において代理店が活動を行う地域を定めた場合には、当該地域内において顧客との間で委託企業が契約を締結した場合にも、当該取引に関して報酬を請求することができます。これらの報酬請求権は、法律上定められていますので、契約上規定が無くとも代理店に権利が発生する点には、留意が必要です。
また、代理店契約の解除後であっても、(1)解除時から合理的期間内に委託企業及び顧客間で契約が締結され、当該契約の有効性が代理店の努力に起因する場合や、(2)代理店契約が解除される前に顧客からの当該取引の注文が委託企業又は代理店に届いていた場合には、代理店は委託企業に対して報酬を請求することができます。
また、顧客からの代金の回収は、一般的には代理店の義務ではありませんが、もし、委託企業が代理店に対して代金を回収するように指示をした場合には、代理店は代金回収についての報酬を請求することができます。
イ 特別費用の請求
代理店は、委託企業に対して、代理店の通常の業務遂行に伴って通常発生する費用(人件費、事務所賃料、交通費等)を請求することはできません。しかし、代理店が、義務を履行するにあたって取引の性質に照らして特別な費用が発生した場合、代理店は委託企業に対して、当該特別費用の負担を請求することができます。
ウ 留置権
委託企業が所有する商品・有価証券を適法に占有している代理店は、報酬が支払われるまでの間、当該商品・有価証券の占有を保持する権利を有します。
エ のれん補償
代理店は、代理店契約が解除された場合であっても、下記の要件を満たす場合は、委託企業に対する、のれん補償(goodwill indemnity)請求権を有します。なお、のれん補償請求権は事前に放棄することはできません。
・代理店契約終了後も、委託企業が代理店の開拓した新規顧客から重要な利益を享受していること
・代理店契約終了により、代理店が、委託企業に対して有したであろう新規顧客開拓に関する報酬請求権を喪失したこと
・当該代理店関係に係る一切の事情を考慮した場合に、のれん補償の支払が公平であると認められること
のれん補償額は、最大で代理店が受領した年間報酬額の過去5年平均に相当する額とされており、代理店契約が5年未満で終了した場合には代理店契約の継続期間中における年間報酬額の平均値によって算出されます。
また、代理店が、のれん補償請求権を行使することができる期間は、代理店契約の終了から1年以内と定められています。
なお、「2.代理店の定義」において述べたとおり、トルコ法下において、代理店(Commercial agent)と販売店(distributor)は区別されていますが、のれん補償の規定は、公平に反しない限り、独占的販売契約(販売店に独占権を付与する旨の内容を含む販売店契約)にも類推適用されることには留意が必要です。
以上