トルコにおける紛争解決について

平成30年3月16日更新

  1. 1.はじめに
  2.  トルコにおいて、当事者が選択しうる代表的な紛争解決手段には、裁判制度と仲裁制度があります。これまで、トルコにおける紛争の圧倒的多数は裁判制度を利用して解決されてきましたが、近年はイスタンブール仲裁センターが設立されるなど、国内外の紛争に対応する仲裁制度も整備されてきており、その活用もホットトピックとなっています。

     そこで、本稿ではトルコにおける代表的な紛争解決手段である裁判制度及び仲裁制度について概観致します。その後、紛争解決手段の選択に関連して、仲裁合意をする際の留意点についても、簡単にご紹介致します。

     

  3. 2.トルコの裁判制度
  4. (1) 裁判所の構成
  5.  トルコの法制度は大陸法系に属し、憲法を頂点とする体系化された成文法が法源となる点で日本と類似しますが、裁判所は憲法訴訟、行政訴訟、民事訴訟、刑事訴訟等といった訴訟類型に応じて設置されており、日本の司法制度と比べて複雑に細分化されています。

     すなわち、民事訴訟については、①一審裁判所に相当する区裁判所及び地方裁判所、②控訴審裁判所に相当する控訴裁判所、③最高裁判所に相当する破棄院が設置されていますが、これとは別に専門的知見を要する訴訟を取り扱う裁判所(商事裁判所、家庭裁判所、労働裁判所、消費者裁判所、海事裁判所など)が存在します。

     民事事件のうちでも大規模な商取引に関する紛争は、通常、商事裁判所において審理が行われます。商事裁判所での審理は、係属事件の難易度に応じ、1人の裁判官が担当する場合と、3人の裁判官から構成される合議体が担当する場合があります。

  6. (2) 裁判手続の進行
  7.  トルコでの裁判には、書面手続及び簡易手続の2種類が存在します。商事事件に関する裁判については、基本的に書面手続によって進められます。

     書面手続では、①両当事者が主張書面を交換し、②争点整理手続を行い、③証拠調手続を経て、④口頭手続に移行し、両当事者が最終弁論を呈示して、⑤判決が言い渡されます。争点整理手続において、裁判官は争点整理をした上で、可能な限り和解勧試を行います。

     なお、トルコでの裁判では、一定の要件を満たせば、メールによって送達を行うことができます。また、当事者、証人及び鑑定人をビデオ会議の方法によって取り調べることも可能です。これらの点は、日本の裁判制度と比べて先進的な部分であると言えます。

  8. (3) 弁護士費用
  9.  トルコに進出した日系企業が裁判制度を用いた紛争解決を選択する場合、基本的には弁護士に依頼したうえで訴訟対応を行うことになります。しかし、トルコでの裁判において訴訟代理権の行使が許されているのはトルコ弁護士会連合会所属の弁護士に限られており、外国人弁護士はトルコでの裁判でクライアントを代理して訴訟を追行することができません。

     そこで、トルコ弁護士会連合会所属の弁護士に依頼する場合のコストを検討することが必要となりますが、弁護士報酬についてはトルコ弁護士会連合会が最低報酬額の基準表を公表しています。

  10. (4) 費用負担
  11.  訴訟費用は敗訴者が負担します。訴訟費用には、裁判手数料、郵送料、鑑定手数料、証人に対する日当、公的書類に関する費用、トルコ弁護士会連合会が決定する弁護士報酬の最低基準額が含まれます。

     

  12. 3.トルコの仲裁制度
  13. (1) 裁判制度と比較した場合のメリット
  14.  冒頭でも触れたように、トルコでは、従前、必ずしも仲裁制度が積極的に活用されてきたわけではありませんでした。これは仲裁手続が、特に国内紛争を解決する手段としては、コストに見合ったものではなかったことに起因します。

     しかし、建設、海事、商取引等に関する国際紛争の解決にあたっては、仲裁手続が広く用いられてきました。特に、仲裁制度は裁判制度に比べて、迅速性を有する点、専門性(国際的な契約に熟練した仲裁人による解決)を有する点、仲裁手続の使用にトルコ語以外の言語を選択できる点において、メリットを有しているため、十分に利用価値のある紛争解決手段であると言えます。

  15. (2) 仲裁機関
  16.  商取引に関する紛争を取り扱うトルコの仲裁機関としては、①イスタンブール商工会議所仲裁調停センター(ITOTAM)と、②イスタンブール仲裁センター(ISTAC)を挙げることができます。これらの仲裁機関は、それぞれが異なる仲裁規則を定めています。

     後者は、トルコ政府が2014年11月29日に公布し、2015年1月1日に発効したイスタンブール仲裁センターに関する法律(No.6570)に基づき設立されました。同センターの役員は実務家や大学教員等から構成されており(アメリカ仲裁協会やシンガポール国際仲裁センター等での経験を持つ人物も招聘されています)、トルコに進出する日系企業にとっては、イスタンブールに所在する専門性の高い仲裁機関で紛争を解決する選択肢が与えられることになりました。

  17. (3) 仲裁手続の進行
  18.  トルコにおいても、仲裁手続には機関仲裁とアドホック仲裁の2種類が存在します。そして、機関仲裁の場合は、当事者間の合意又は仲裁機関の定める規則に従い、仲裁機関に対する仲裁申立てと相手方に対する送達により、手続が開始されます。また、アドホック仲裁の場合は、相手方に対する送達を行えば手続が開始されます。これらの仲裁申立書には、①申立人による仲裁人の指名、②紛争に関連する事実、③当該紛争の法的分析が記載されている必要があります。

     しかし、トルコ民事訴訟法及びトルコ国際仲裁法は、国際仲裁における主張書面その他の提出物を送達する方法について、具体的な定めを置いていません。従って、仲裁手続を開始する書面の提出は、裁判手続のように法的な機関を通して行う必要はなく、配達方法が記録されていれば充分であると考えられています。

  19. (4) 費用負担
  20.  仲裁費用は、トルコ民事訴訟法及びトルコ国際仲裁法によって敗れた当事者が負担するものとされています。また、両当事者が一部は勝ち、一部は負けている場合には、両当事者の請求及び防御を考慮した相対的な勝ち負けの割合で分割されることになります。

     

  21. 4.仲裁合意条項作成時の留意点
  22.  契約書のドラフティングをするにあたっては、個別具体的な事情に応じて、本稿でみた紛争解決手段のいずれを選択するべきかを検討することになりますが、その際は、トルコ国際仲裁法において仲裁合意の明確性が要求されている点に留意する必要があります。

     例えば、イスタンブール仲裁センターによれば、disputes will be settled by ”Istanbul Arbitration Courthouse”のような表現は、紛争が裁判手続によって解決されることを意図しているのか、仲裁手続によって解決されることを意図しているのか極めて不透明であり、用いるべきではないとされています。

     従って、裁判管轄合意及び仲裁合意の双方を含むハイブリッド条項の使用を検討する際には、現地専門家のアドバイスを踏まえた極めて慎重な判断が必要になります。

    以上