トルコにおける労働契約関係の終了について
令和元年8月10日更新
- 1.はじめに
- 2.正当な解雇事由に基づく解雇
- (1)「正当な解雇事由」の意義
- (2) 弁明の機会及び改善の機会の付与
- (3) 予告期間を前提とした解雇通知書の発出
- (4) 解雇通知書に対する異議申立て手続
- (5) 退職手当の支払
- 3.即時解雇正当事由に基づく解雇
- (1) 即時解雇正当事由の意義
- (2) 退職手当の支払
トルコでは、主として、労働法第4857条(以下、「労働法」といいます。)が労働者と使用者の関係を規律しており、労働契約関係の終了についても定められています。
労働契約関係の終了には、①使用者側がイニシアチブをとって行うもの、②労働者側がイニシアチブをとって行うもの、③労使双方の合意に基づくものがありますが、本稿では、紙面の都合上、①使用者側がイニシアチブをとって行う労働者の解雇について概説致します。
また、トルコでは、期間の定めのない労働契約と期間の定めのある労働契約が認められていますが、本稿の記述は、期間の定めのない労働契約を念頭に置いたものとなっています。このような期間の定めのない労働契約については、(1)労働法18条に定める正当な解雇事由に基づく場合、及び、(2)労働法25条に定める即時解雇正当事由に基づく場合に、使用者は労働者を解雇することができます。以下、順に検討します。
使用者は、30名以上の労働者を雇用している場合であって、6ヵ月以上使用している無期雇用労働者を解雇しようとするときは、「正当な解雇事由」が認められなければなりません。
「正当な解雇事由」とは、①労働者の資質や行動、②使用者の事業運営上の必要から生ずる正当な理由とされており、トルコの裁判所によれば、労働者の労働能率の低下・喪失、労働者の非適格性、使用者の経済的・技術的・組織的理由、その他の使用者による労働者の解雇に係る正当事由が認められる場合をいうと解されています。
他方で、労働法は、以下の事由はかかる「正当な解雇事由」に該当しないことを明記しています。
正当な解雇事由に該当しない事由 |
---|
・労働組合への加入、労働時間外又は労働時間内に使用者の同意を得て行う労働組合活動への参加 |
・労働組合の代表者としての活動又は代表者に就任するための活動 |
・使用者に対する訴訟提起又は行政手続等の申立て |
・人種、肌の色、性別、配偶者の有無、家庭内の地位、妊娠、宗教、政治的意見、国籍又は出自 |
・産休期間中における休職 |
・傷病を理由とする一時的な休職 |
使用者は、労働能力の低下・喪失等を理由として労働者を解雇しようとする場合、解雇前に、労働者に対して弁明及び改善の機会を付与しなければなりません。
弁明の機会の付与の方法について、条文上は具体的な定めは置かれていませんが、使用者による弁明の機会の付与及び労働者による弁明は、いずれも書面によりなされることが必要であると解されています。
また、労働者に改善の機会を与えるため、上記の弁明の機会の付与は、少なくとも2回行われる必要があります。使用者は、労働者に対して、①労働者の特定された行為が使用者にとって受け入れ難いものであること、及び、②当該行為が繰り返された場合には労働契約が終了することを、書面による通知をもって事前に警告する必要があります。
「正当な解雇事由」に基づいて労働者を解雇しようとする場合、使用者は労働者に対して解雇事由を明らかにした書面をもって解雇通知を行うことになります。
もっとも、労働法は一定の予告期間を置くことを定めており、使用者は「正当な解雇事由」に基づく解雇をするにあたって、下記の予告期間に従った解雇予告を行うか、解雇予告手当を支払わなければなりません。
労働者は、解雇通知書を受領してから1カ月以内に、労働裁判所に対して当該解雇の効力を争う訴訟を提起することができます。
当該解雇が「正当な解雇事由」を具備していることの立証責任は使用者が負担することとされているため、使用者は、かかる「正当な解雇事由」の具備を立証する必要があります。
そして、労働裁判所が使用者の行った解雇を無効であると判断した場合、使用者は労働者の求めに応じて、1ヵ月以内に当該労働者を再雇用しなければなりません。
仮に使用者が労働者の再雇用を行わない場合、労働者は当該労働者に対して4カ月分以上8カ月分以下の賃金に相当する金銭的補償を行わなければなりません。
使用者が、正当な解雇事由に基づき、一定の労働者を解雇した場合には、退職手当を支払う必要があります。
使用者は、以下のような、労働法25条に定められた即時解雇正当事由がある場合、前述の2(3)に記載した予告期間の規制に服することなく、労働者を即時解雇することができます。
大分類 | 内容 |
---|---|
①健康上の理由 | 労働者の過失、自堕落な生活又は飲酒に起因する傷病により、3日連続欠勤し又は1ヵ月あたり5日以上の欠勤をした場合 |
保健委員会が、傷病や妊娠・出産に伴う労働者の苦痛が治癒不可能なものであり、業務の履行と両立しないと判断した場合 | |
②非違行為 | 労働契約の締結時に、労働者が労働契約にとって本質的な資格や応募要件について虚偽の申告を行っていた場合 |
労働者が使用者若しくはその家族の名誉・尊厳を毀損する言動を行った場合、又は、労働者が使用者に対して根拠を欠く非難を行って、その名誉・品位に悪影響を及ぼした場合 | |
労働者が他の労働者に対するセクシャル・ハラスメントを行った場合 | |
労働者が、使用者、使用者の家族又は他の従業員に対して、暴行又は脅迫を加えた場合 | |
労働者が、薬物・飲酒の影響下にある状態で職場に入った場合 | |
労働者が、背信行為、窃盗、営業秘密の漏洩等の不正行為を行った場合 | |
労働者が、職場内で罪を犯して7日以上の禁固刑に処された場合 | |
使用者の許可又は合理的理由がないにもかかわらず、労働者が2日間連続して欠勤し、1ヵ月に2回以上休業日の翌日に欠勤し、又は1ヵ月に3日以上欠勤した場合 | |
使用者から警告を受けたにもかかわらず、労働者が職務の遂行を拒絶した場合 | |
労働者が故意又は重大な過失によって、職場の安全を害し、機械・設備・その他の物品(使用者の所有するものであるか否かを問わない)に対して当該労働者の30日分の賃金相当額以上の損害を与えた場合 | |
③不可抗力 | 不可抗力によって、労働者が1週間以上職務を遂行できない場合 |
④解雇予告期間を超える欠勤 | 労働者の逮捕・勾留によって、当該労働者の欠勤日数が解雇予告期間を上回った場合 |
上記②の非違行為に基づく解雇は、使用者がかかる事由を認識した時から6営業日以内に行われなければならないと定められておりますので、迅速な対応が必要になります。
使用者が、上記(1)②の非違行為に基づき即時解雇をした場合には、退職手当を支払う必要はありませんが、その他の事由に基づき一定の要件を充たす労働者を解雇した場合には、退職手当を支払う必要があります。
以上