UAEにおける破産手続について

令和2年12月更新

1.はじめに

 UAEでは、ビジネス法を近代化するための政府による政策の一環として、2016年に連邦破産法第9号(以下「破産法」といいます。)が施行されました。それまで、破産手続は、UAEの企業のみを対象として商取引法及び刑法に基づいて実施されておりましたが、破産法は、営利目的で取引をする個人に対しても適用されるとともに、よりビジネスの現場に見合った形の手続を定められるに至りました。

 そして、破産法における債務者の債務を整理する方法として、大きく分けて予防的和解(Protective Composition)と破産(Bankruptcy)の二つの手続が存在します。

 本稿では、UAEの破産法に基づく予防的和解と破産の手続の概要をご紹介致します。

2.予防的和解(Protective Composition)とは

⑴ 概要

 予防的和解とは、裁判所を通じて、裁判所の任命した管財人の監督の下、予防的和解計画に基づき債務者が債権者との間で債務の弁済方法について合意に至ることを目的とする手続です。

 予防的和解は、大きく分けて、①裁判所への申請及び決定、②管財人の任命等、③予防的和解計画の作成等の手続に分けられます。

⑵ 裁判所への申請及び決定

 予防的和解は、①財政難に陥っているものの未だ倒産にまではいたっていない債務者、又は②30営業日未満の支払停止状態であり、かつ債務超過でない債務者のみが行うことのできる手続です。

 債務者は、裁判所へ法律上定められた書面を提出することで、予防的和解の手続開始の申請をします。予防的和解手続の開始の申請により、債務者に対して提起された裁判や担保権者による執行手続等は自動的に一時的に停止されることとなります。

 申請を受けた裁判所は、必要に応じて専門家のリストの内外から、当該申請の判断のために必要とされる専門知識を持つ専門家を任命することができます。当該任命された専門家は、債務者につき、予防的和解手続の開始を承認するに足る条件を満たしているか否か、および債務者の資産が予防的和解手続をするにあたり十分であるか否かの評価を含む、債務者の財政状態に関する報告書を作成します。

 裁判所は、債務者から提出された書面及び上記報告書を踏まえて、要件を充足すると判断した場合、予防的和解手続の開始を命じることになります。予防的和解手続の開始により、債務者に対して提起された裁判や担保権者による執行手続等の一時停止は、予防的和解手続の間継続されます。

⑶ 管財人の任命及び業務内容・権限

 裁判所は、債務者の申請を受理する場合、1名以上の管財人を任命します。ただし、以下のいずれかに該当する者は、管財人となる資格を有しません。

  • ① 債務者の債権者
  • ② 債務者の配偶者、4親等以内の血族又は姻族
  • ③ 過去に刑事事件にて有罪判決を受けている者等
  • ④ 予防的和解手続の開始時から2年以内に債務者の共同経営者、従業員、監査人又は代理人であった者

 任命された管財人は、任命後直ちに、債務者又はその代理人の立会いのもとで、債務者の資産目録(Inventory of Debtor’s Assets)の作成に着手しなければなりません。その際、管財人は、立ち会った債務者又は代理人の署名がなされた議事録を作成し、裁判所にその写しを提出する必要があります。

 また、管財人は、債務者の知る全ての債権者に関する登録簿(Register of all the known Creditors of the Debtor)を作成し、その写しを裁判所に提出する必要があります。

 そして、管財人の監督の下、債務者の事業は、債務者又は債務者の従業員によって継続されることになります。管財人は、当該事業の継続に関し、資産の保有、資金調達、債権者との交渉・和解の締結、リース契約の締結・終了など広範な権限を有することになります。債務者自身による資産の処分等は制限され得ることになります。

⑷ 予防的和解計画の作成・承認・認可

 管財人は、債務者の協力の下、予防的和解手続の開始決定後45営業日以内に予防的和解計画案を裁判所に提出する必要があります。もっとも、裁判所は、債務者又は管財人の要請に応じて、10営業日毎に予防的和解計画案の作成の進捗状況に関する定期報告書が提出されていることを条件として、20営業日を超えない範囲の期間ごとに、提出期限を何度も延長をすることができます。

 予防的和解計画には、特に債務者の事業の収益に関する見通し、債務を債務者の資本に転換する可能性、計画実施のタイムラインに関する事項などの記載を要します。

 上記予防的和解計画は、裁判所による計画の認可の日から3年を超えてはなりません。ただし、総債務額の3分の2を保有する債権者の過半数が賛成をすれば、当該期間の延長が可能となります。

 裁判所は、上記予防的和解計画を審査し、問題ないと判断した場合、債権者集会の招集を許可します。そして、当該債権者集会にて、総債務額の3分の2以上かつ過半数の無担保債権者の賛成多数をもって、上記予防的和解計画は、承認されることになります。

 かかる承認を受け、裁判所は、予防的和解計画の認可決定をし、当該計画は、全ての無担保債権者を拘束することになります。このとき、裁判所は、予防的和解計画に基づく債権者が受領する金額が、債務者の清算手続によって受け取るであろう金額を超えていることを確認する必要があります(清算テスト:Liquidation Test)。

3.破産(Bankruptcy)とは

⑴ 概要

 破産手続は、我が国におけるものと異なり、必ずしも債務者の資産の清算につながるとは限りません。むしろ、破産手続は、債務者たる企業の債務を整理することで、継続企業(going concern)として救済することを目的とし、その一方で債務整理が不適切であると証明され又は見込まれる債務者に限り、破産の宣言及び公正な資産の清算が実施されることとなります。

 破産手続は、①手続の開始、②申請の受理、③管財人の任命を経るという点で、予防的和解と似ている部分が多くありますが、その後、④債務整理手続又は⑤破産宣言及び清算手続のいずれかの手続が実施される点で、予防的和解と異なります。

⑵ 手続の開始

 破産手続の開始を申請できる者は、①30営業日を超える支払停止又は債務超過状態にある債務者、②債権額がAED100,000を超え、未払の期間が30営業日を超えた債権者及び③検察官(公益のために必要な場合)です。

 債務者が債務超過の状態であるかどうかの判断基準として、従来、キャッシュフローを基準とされてきましたが、かかる基準では裁判所による迅速な判断に支障をきたすこととなっていました。そこで、破産法では、上記判断基準として、債務者の資産が負債を超えるかどうか、つまり貸借対照表上で資産が負債を上回っているかという基準を採用するに至りました。

 裁判所は、予防的和解の場合と同様に、債務者の財務状況を判断するにあたり必要な知識を有する専門家を任命することができ、当該任命された専門家作成の報告書を参照して、破産手続開始の申請の可否を決することが可能です。裁判所は、破産手続開始の申請を受けてから又は上記専門家の報告書を受領してから5営業日以内に申請の可否を決定しなければなりません。

⑶ 管財人の任命

 裁判所は、破産手続開始の申請を受理した場合、手続を監督する管財人を1名以上任命します。

 前記予防的和解における管財人の場合と同様に、債務者の債権者や親族等、一定の刑事裁判で有罪判決受けた者などには、管財人となる資格が認められていません。また、管財人は、予防的和解と同様に、管財人の知る全ての債権者に関する登録簿を作成し、その写しを裁判所に提出する必要があります。

 予防的和解と異なる管財人の重要な役割として、債務者の同意のもと債務者において債務の整理(Debt Restructuringが可能であるか、又は破産の宣言及び清算の必要があるかどうかに関する報告書を作成・提出することが挙げられます。裁判所は、当該報告書の内容を検討の上、後述する破産の宣言及び清算手続を実施する事由に該当するかどうかを判断し、いずれの手続をとるかどうかを決定することとなります。

⑷ 債務整理手続

 裁判所が、債務者の債務を整理することを決定した場合、管財人は、債務者の協力の下、当該決定の日から3ヶ月以内に整理計画案(Restructuring Plan)を作成し、裁判所に提出する必要があります。当該計画案には、予防的和解計画案と同様に、債務者の事業の収益に関する見通し、債務を債務者の資本に転換する可能性、計画実施のタイムラインなどが記載されます。また、実施期間が原則3年を超えることができないことや総債務額の3分の2以上かつ過半数の無担保債権者の賛成多数をもって承認されることについても、予防的和解計画の場合と同様です。

 その後、裁判所にて、前記清算テストをクリアすることを確認され、債務整理計画は認可されます。

⑸ 破産宣言及び清算手続

 裁判所は、以下のいずれかの事情がある場合、債務者の破産を宣言し、債務者の資産の清算を命じる判決を下します。

  • ① 裁判所が破産法第64条の規定に従って予防的和解手続の終了を命じた場合。
  • ② 申請が債務者によって不誠実に、又は金銭的債務の支払の遅延・回避を目的としてなされた場合。
  • ③ 管財人の報告書等に基づき、債務者にとって債務整理手続が不適切であると判断される場合。
  • ④ 債務整理計画案が必要とされる債権者の過半数の承認を得られなかった場合。
  • ⑤ 裁判所が債務整理計画を不承認とした場合(清算テストに適合しない場合を含む)。
  • ⑥ 裁判所が、債務整理計画を終了する旨の判決を下した場合。

 裁判所により債務者の破産が宣言された場合、債務者の資産は、管財人の監督の下で清算されることとなります。

   以上