UAEにおける労働契約終了について
令和元年9月9日更新
- 1.はじめに
- 2.辞職・解雇時の事前通知
- 3.事前の通知なく労働契約を終了できる場合
- (1) 即時の辞職
- (2) 即時の解雇
- 4.契約終了に際して支払われるべき主な金銭
- (1) 退職手当
- ア 契約期間の満了又は解雇の場合
- イ 辞職の場合
- ウ 退職手当が支払われない場合
- (2) 恣意的解雇に伴う賠償金の支払
- (3) 事前通知の懈怠に対する賠償金の支払
- 5.結語
(1) UAEでは、アラブ首長国連邦法1980年第8号(以下、「労働法」といいます。)が、主として労働者と使用者の関係を規律しており、労働契約関係の終了についても規定を設けています。UAEの中でもジュベル・アリ・フリーゾーン(JAFZ)といったフリーゾーンの労働者については、実務上、各フリーゾーンの規則や規制が適用され、当該フリーゾーン独自の労働契約が締結されていますが、労働法は、一定の適用除外者(政府関係者や軍・警察職員等)や一部のフリーゾーン(DIFC:ドバイ国際金融センター)を除き、フリーゾーンの労働者についても原則として適用されます。
(2) 労働法では、労働契約終了の場面として、以下の3つを定めています。
①労働者及び使用者が労働契約の終了について合意した場合
②期間の定めのある労働契約の契約期間が満了した場合
③期間の定めのない労働契約の労働者又は使用者のいずれかからの解約による場合(以下、労働者からの解約を「辞職」、使用者からの解約を「解雇」といいます。)
①については、当該労働者が書面により同意することが条件 とされています。
②については、労働法に基づき明示又は黙示に契約期間が延長される場合には、労働契約は終了しません。
③による終了の場合、原則として、他方当事者に対して事前に通知し、解約の理由があり、解約が恣意的でないことが法文上の要件とされていますが、一定の場合には事前の通知が不要とされ、また、一定の辞職・解雇の場合には退職手当や賠償金の支払い義務が定められています。
本稿では、紙幅の都合上、上記③に関してのみ、検討を加え ます。なお、③の法定要件のうち「解約の理由」については、労働法上その定義規定が無く、労働者の能力不足等の何らかの理由があれば実務上要件を充たす可能性がある等、要件として機能していない側面がありますので、本稿では検討を割愛します。
期間の定めのない労働契約を解約する場合、労働者及び使用者は、相手方に対して、労働契約終了日の少なくとも30日前に、書面により労働契約を解約する旨の通知をする必要があります。当該通知期間は、当事者間の合意で短縮し・不要とすることはできませんが、延長することは可能です。なお、日雇労働者の場合、就労期間に応じて、通知期間が短縮されます。
労働者又は使用者が上記通知を怠った場合、あるいは通知期間を短縮した場合、通知の不足する期間に応じて当該労働者に支払われるべき給与と同額の金銭を、相手方に対して支払う必要があります。これは、使用者だけでなく労働者にも支払義務を負わせている点で日本の解雇予告通知制度と異なります。
労働者は、㋐使用者が労働者に対する契約又は法律上の義務に違反した場合や㋑使用者等から暴行を加えられた場合、事前の通知なく辞職することができます。
使用者は、労働者に以下のいずれかの事由が認められる場合、事前の通知なく解雇することができます。
① 労働者が身元又は国籍を詐称し、又は虚偽の書面又は証明書を提出した場合
② 労働者に試用期間が設けられ、解雇が当該試用期間中又は試用期間満了時に行われた場合
③ 労働者が、使用者に対し重大な経済的損失を被らせるような誤りを犯した場合。但し、使用者が当該事実を48時間以内に所轄官庁(労働省)に報告した場合に限る。
④ 労働者が事業場の安全に関する指示に違反した場合。但し、当該指示が事業場の目立つ場所に掲示されており、かつ、労働者が掲示を読めない場合にはこれを口頭で説明されていた場合に限る。
⑤ 労働者がその労働契約に記載された基本的な職務を行わず、当該職務に係る調査が行われ、かつ、不履行が継続するようであれば解雇がなされる旨の警告がなされたにもかかわらず、職務を行わない状態が続いた場合
⑥ 労働者が自己の勤務する企業の秘密情報を開示した場合
⑦ 名誉、公正及び公の風俗に関する罪を犯し、管轄裁判所が最終的に有罪の判断を下した場合
⑧ 業務時間中に、酩酊状態にあるか、又は薬物の影響下にあると判明した場合
⑨ 業務時間中に、使用者、上司又は同僚に対して暴行を加えた場合
⑩ 正当な理由なくして、1年の間に合計20日を超えて欠勤し、又は、連続して7日を超えて仕事を休んだ場合
上記②にもあるとおり、UAEでは、試用期間中及び試用期間満了時に、何らの理由もなく、また後述する退職手当を支給することもなく労働者を解雇することができます。ただし、試用期間は6ヶ月以内に限られます。
勤続期間が1年以上の労働者は、労働契約の終了時に退職手当の支払を受けます。ただし、無給の休暇期間は勤続期間に含まれません。
退職手当の計算は、直前の基本給(諸手当は除かれます。)を基準として、当該労働者の勤続期間に基づき、以下の計算式によって算出されます。
① 5年以内の場合:1年につき21日分の給与
② 6年目以降の場合:1年につき30日分の給与
ただし、退職手当は、基本給の2年分を超えて支給されることはありません。
期間の定めのない労働契約の労働者が、勤続期間1年以上3年以下で辞職する場合、上記4.(1)アで計算される退職手当の3分の1が支払われます。また、勤続期間3年超5年以下の場合は、上記退職手当の3分の2が支払われます。そして、勤続期間5年超の場合には、退職手当の全額が支払われます。
労働者は以下の事由のある場合、勤続期間にかかわらず退職手当を受ける権利を失います。
① 上記3(2)に記載した事由を理由として即時解雇される場合及び当該解雇を回避することを目的として辞職する場合
② 上記3(1)に該当する事由がないにもかかわらず、事前通知なく辞職する場合
使用者から恣意的に解雇された労働者は、当該労働者の退職直前の給与を基準として最大3ヶ月分の給与に相当する賠償金の支払を受ける権利を有します。解雇が恣意的か否かについては、解雇の原因が労働者の勤務内容と関係がない場合、例えば、労働者が管轄当局に対し苦情を提出したことや、使用者に対し正当な根拠に基づく訴訟を提起したことを理由が解雇をした場合には、当該解雇は恣意的なものとみなされます。
上記2に記載したとおり、労働者又は使用者が事前通知を怠った場合、あるいは通知期間を短縮した場合、通知の不足する期間に応じて当該労働者に支払われるべき給与と同額の金銭を、相手方に対して支払う必要があります。
以上のとおり、UAEの労働法では、労働者側の辞職の際にも一定の金銭の支払が求められる点や、使用者からの解雇であっても解雇の理由が厳格に要求されていないため、使用者が退職手当や賠償金の支払いを厭わなければ、解雇自体は有効となり得る点などから、比較的使用者に有利な法制と考えられます。
以上