UAEにおける会社清算について

令和2年8月更新

1.はじめに

 UAEに現地法人を設立して進出する場合、LLC(有限責任会社)の形態をとるケースが多く見られます。

 しかし、コロナショックに伴う極めて厳しい経済情勢及び企業収益の急激な悪化に伴い、日本企業もUAEを含む海外展開の在り方を再検討せざるを得ない状況に置かれています。

 そこで、本稿では、LLCを閉鎖するための解散・清算手続の概要について、ご紹介致します。

 LLCの解散・清算手続は、主として、2015年UAE連邦法第2号商事会社法(以下「会社法」といいます。)に定められています。

2.LLCの解散について

 LLCを解散するためには、原則として、以下の事由が必要です。

  • ① 会社の基本定款又は通常定款に記載されている期間の満了(ただし、基本定款又は通常定款の規定に従って当該期間が更新されている場合を除く)
  • ② 会社の設立目的の喪失
  • ③ 投資残高が経済的に利益のないものとなるほどの会社の資産の全てまたは大部分の損失
  • ④ この法律の規定に従った合併
  • ⑤ 特定の過半数をもって十分であるとする基本定款が定められていない限り、社員による会社の期間を終了させる旨の社員の全員一致の同意(過半数を超える一定数の賛成で足りる旨の基本定款の定めがある場合には、その数の社員の同意)
  • ⑥ 会社を解散するための判決

 上記のうち、③については、特に、会社の損失額が当該会社の資本の額の50%に達した場合、会社の経営陣は、社員総会に解散にかかる議事を上程する必要があります。また、会社の損失額が当該会社の資本の額の75%に達した場合、残りの25%の株式を有する社員は、会社の解散を求める権利を有します。

 上記のいずれかの解散事由が存在する場合、会社経営陣は、所轄官庁等に対し、その旨を通知する必要があります。

 また、会社の解散については、会社の業務執行者、議長及び清算人は、所轄官庁に対し、解散の報告を行う必要があります。これにより、商業登記簿へ会社の解散が登録されます。

 会社の解散により、会社の業務執行者及び取締役会の権限は、原則として失効しますが、清算人が選任されるまでの間、第三者との関係では清算人とみなされます。

3.LLCの清算について

⑴ 清算人の選任

 清算人は、原則として、社員、社員総会又はこれらに類する機関によって一人又は複数人選任されます。ただし、解散判決にしたがって清算が行われる場合には、管轄裁判所は、清算の方法を指示するとともに清算人を選任します。清算人の選任及び清算の方法は、商業登記簿に登録されない限り、第三者に対抗できません。

 清算人となる資格のある者は、現に会社の監査人ではないか、清算人への選任から遡って5年以内に会社の会計を監査していた者に限られます。

 また、清算人が複数選任された場合、書面にて別段の定めがない限り、清算人の行為は、清算人全員の同意をもってはじめて有効となります。

⑵ 清算人の権限及び義務

 清算人は、清算に必要な全ての行為を行う権限と義務を有し、特に、裁判所との関係では会社を代表し、会社の負債を返済し、選任時の文書による売却方法の指定がない限り、会社の動産及び不動産を競売又はその他の方法により売却するために必要なあらゆる行為を行います。

 また、清算人は、LLCの旧事業を完了するために必要な場合を除いて、新たな事業を開始してはなりません。清算人が、清算手続に必要のない新たな事業を行った場合、これにより生ずる全ての責任を負担することとなります。

⑶ 清算手続

  • ア 資産及び負債にかかる一覧表及び貸借対照表の作成等

     清算人は、選任後直ちに、会社のすべての資産及び負債を記載した一覧表を作成します。そして、そのために、LLCの経営陣は、清算人に対し帳簿、書類、会社資産を提供しなければなりません。

     また、清算人は、会社資産及び負債に関する貸借対照表を作成し、発行する必要があります。また、清算人は清算手続を遂行するため、帳簿等を保管する必要があります。
  • イ 各債権者への通知

     清算人は、全ての債権者に対し、債権額を明らかにするよう、書面をもって通知します。かかる通知は、清算手続開始についての受領確認を同封した書留郵便を送付する方法によりなされます。そして、当該通知は、2つの地方日刊紙に掲載され、その内の1つはアラビア語で発行されている必要があります。

     清算人は、上記債権者からの債権額の届出のため、少なくとも通知の日から起算して45日間の期間を付与する必要があります。
  • ウ 債務の弁済

     清算人は、会社のすべての資産が、全ての債務を弁済するのに不足する場合、担保権者等の優先債権者の権利を損なうことなく、債務を弁済する必要があります。また、清算手続から生じた債務については、他の債務に先立って、会社の資産から弁済される必要があります。

     一部の債権者が前記イの債権額の届出をしなかった場合、当該債務は、管轄裁判所の公庫に供託される形で清算されます。また、係争中の債権の持分を支払うのに十分な金額につき、当該債権の保有者が適切な有価証券を入手し、又は当該債務の係争が終結するまで会社の資産の分割を延期することを決議した場合を除き、上記のとおり供託しなければなりません。
  • エ 中間計算

     清算人は、3ヶ月毎に、社員又は社員総会に対し、清算手続の中間計算書を提出する必要があります。
  • オ 残余財産の分配

     清算手続にて生じた残余財産は、社員の出資額の割合にしたがって分配されます。社員が当該分配財産を受領しない場合、清算人は、当該財産を、管轄裁判所に供託しなければなりません。

     他方で、残余財産が、全ての社員の出資額に満たない場合、各社員は、定められた割合にしたがって、当該損失を負担することになります。
  • カ 清算手続の完了

     清算人は、選任時の文書に記載された期間内に清算手続を完了させる必要があります。かかる期間は、社員による決定又は社員総会の特別決議によらなければ延長することが出来ません。また、管轄裁判所により期間が定められた場合には、当該裁判所の同意がなければ延長をすることができません。

     清算人は、清算手続が完了したとき、社員若しくは社員総会又は管轄裁判所に対し、清算手続の最終的な決算書を提供しなければなりません。清算手続は、最終決算の承認後に完了します。清算手続の完了は、商業登記簿へ登録され、かかる登録なくして第三者に清算手続の完了を対抗することができません。

4.結語

 上記のLLCの清算手続は、一般に4~6ヶ月程の期間を要しますが、会社の状況や清算人の経験等によって、当該期間は大きく変動する可能性があります。また、ここで取り上げた問題以外でも、従業員のビザの問題や契約関係の処理など、より実務的な問題も生じる可能性があります。

 清算手続を実施するには、ある程度余裕をもって期間を設定し、経験豊富な清算人を選任することが重要となります。

以上