ベトナムにおける紛争解決
2016年12月31日
日系企業がベトナムに進出した場合、現地パートナーとの紛争、現地取引先との紛争、ローカル従業員との紛争等、様々な紛争に巻き込まれるリスクがある。ここでは、そのような紛争に巻き込まれた場合の紛争解決方法として、①日本国内の裁判所での訴訟、②ベトナム国内の裁判所での訴訟、③ベトナム国内での仲裁、④ベトナム国外での仲裁の各手続について、その実効性や留意点などについて解説する。
- 1.日本国内の裁判所での訴訟
- 2.ベトナム国内の裁判所での訴訟
- 3.ベトナム国内の仲裁
- 4.ベトナム国外の仲裁
ベトナム企業との契約において、管轄裁判所を日本の裁判所と規定しているケースであれば、日本国内の裁判所での訴訟提起を検討する場合もあると思われる。
しかしながら、日本とベトナムとの間には相互の判決の承認及び執行について規定した二国間条約が締結されていないことから、日本の裁判所の判決はベトナム国内では執行できない。
したがって、ベトナム進出に伴って発生した紛争について、日本国内の裁判所に訴訟を提起することは、原則として、実効的な手段とはならない。
ベトナムの司法制度は、現在のところ、完全な司法の独立が実現されているとは言い難い状況にあり、恣意的は判断(特に国内企業を不当に利する判断)がなされるリスクを孕んでおり、判決内容の予測可能性は低い。もっとも、ベトナムにおいても、これまで非公開であった裁判例の公開を始め、ベトナム最高人民裁判所は、2016年に初めて、下級審への拘束力を有する「判例」として6つの最高裁判例を発表するに至っており、今後、判決の予測可能性は高まっていくものと思われる。
とはいえ、ベトナムの裁判制度においては、原則として訴訟提起の前に和解手続を行わなければならない和解前置主義が採用されていること、合意管轄が認められず、民事事件と経済事件で管轄裁判所が異なること等が原因で裁判所をたらい回しにされる事例が多いこと、上訴率が非常に高いこと等から、裁判の長期化が問題となっており、紛争の早期解決には適していないことから、以下の仲裁手続による紛争解決がより適しているケースが多い。
ベトナム国内の仲裁については、2010年に成立した新商事仲裁法が規定している。これにより、ベトナム国内の仲裁による仲裁判断は、ベトナム国内の裁判所の判決と同様に執行力が付与されることが明確化された。
とはいえ、ベトナム国内の仲裁制度の歴史は浅く、発展途上である上に、仲裁判断に対してベトナム国内の裁判所が形式的な不備を理由に仲裁判断を取消すケースがあるなど、未だ信頼性が高くはないため、クロスボーダー取引においては、ベトナム国外の仲裁手続を利用するのが望ましいといえる。
まず、ベトナム企業との契約締結等の際に、紛争解決手段として海外仲裁手続を選択できるかであるが、ベトナム投資法及びベトナム商法によって、クロスボーダー取引における海外仲裁の利用は認められている。
また、ベトナムは、海外仲裁判断の承認及び執行に関する条約(ニューヨーク条約)を批准しており、日本及びその他のニューヨーク条約加盟国における仲裁判断もベトナム国内の裁判所での承認を受けて、執行することが可能である。
もっとも、実務上は、ベトナム国内の裁判所が、非常に形式的な不備等を理由に執行を認めないケースもあり、専門家と慎重に手続を進めていく必要性が高いと言える。
以上