ベトナムにおける現地法人の運営
2016年12月28日
本稿では、日系企業がベトナムで現地法人を運営する上で重要と思われる会社を構成する機関に関連する規律、及び、ベトナムの会社の特徴の1つである法定代表者という制度について、実務上用いられることが多いと思われる二人以上社員有限責任会社(以下「複数社員有限会社」という。)を前提として検討する。以下の5項目につき順に記載していく。
1. 社員総会
2. 社員総会議長(Chairman of Members’ Council)
3. 社長(Director)
4. 監査役・監査役会
5. 法定代表者
以下の記載は、主として、2014年に改正され2015年7月1日から施行されている企業法(68/2014/QH13、以下「企業法」という。)に基づいている。なお、複数社員有限会社の設立に関する規律については、本ウェブサイト国際コンテンツ内の「ベトナムにおける事業拠点の設置」を参照されたい。
- 1. 社員総会
- ・ 社員総会の議長・社長等の選任・解任
- ・ 社員総会の議長・社長等の報酬等
- ・ 年次報告書・利益処分案/損失処理案の承認
- ・ 子会社・支店・駐在員事務所の設置
- ・ 直近の財務報告書記載の総資産の50%以上の価値を有する資産の処分
- ・ 定款の変更
- ・ 組織再編
- ・ 解散
- 2. 社員総会議長(Chairman of Members’ Council)
- ・ 社員総会の議案・活動計画の準備
- ・ 社員総会の招集・議事進行
- ・ 社員総会の決定事項について社員総会を代表しての署名
- ・ 社員総会の決定事項の履行の監督
- 3. 社長(Director)
- ・ 社員総会の決議事項の執行
- ・ 会社の日常活動に関連する全ての業務の決定
- ・ 会社の経営計画及び投資計画の遂行
- ・ 社内管理規定の整備
- ・ 会社の管理者の選任・解任
- ・ 会社を代表した契約の締結
- ・ 社員総会への決算書の提出
- ・ 利益分配方法及び損失処理方法の社員総会への提出
- 4. 監査役・監査役会
- 5. 法定代表者
複数社員有限会社の社員総会は、出資者である社員により構成される会社の最高意思決定機関である。社員総会の開催頻度は定款において定められるが、年1回最低でも開催する必要がある。社員総会において、各社員は、それぞれの出資持分に応じた議決権を有する。
社員総会の定足数は、資本金の75%以上に相当する出資持分を有する社員の出席である。ただし、かかる定足数に満たない場合には、緩和された要件で再度開催手続を進めることができる。
社員総会の決議は、普通決議及び特別決議の2種類が存在している。
普通決議は、出席社員の資本金の合計の65%を有する者の賛成により成立する。主な普通決議事項は、以下のとおりである。
特別決議は、出席社員の資本金の合計の75%を有する者の賛成により成立する。主な特別決議事項は以下のとおりである。
社員総会議長は、社員総会の決議により、社員の中から1名選出される。複数社員有限会社の社員総会議長は、社長を兼任することができる。また、その任期は最長5年であり、回数の制限なく再任されうる。
社員総会議長の主な職務は、以下のとおりである。
複数社員有限会社の社長は、会社の日常的な事業活動を運営し、その権限の行使及び義務の履行に関し社員総会に対して責任を負う。社長は、社員総会の普通決議において選任・解任され、その任期は最長で5年である。また、必ずしも社員である必要はなく、社員総会議長との兼務も可能である。社長の権限には、以下が含まれる。
監査役は、社員総会・社長等による会社の運営・管理及び法令遵守の監督等を行う機関である。複数社員有限会社においては、原則として設置義務はないが、社員が11名以上の会社は、監査役会を設置する必要がある。監査役は、社員総会の普通決議により選任・解任され、任期は最長で3年である。監査役会の権限・手続等は、会社法上規定がなく、定款において定められる。
法定代表者は、会社の取引から生ずる権利を行使し義務を履行する際に会社を代表し、裁判所・仲裁廷において、原告・被告・利害関係人として会社を代表し、その他の会社の権利・義務について会社を代表する。会社は、1名又は複数の法定代表者を選任することができる。2014年の企業法の改正により、複数の法定代表者の任命が可能になった。
会社は、ベトナム居住者である法定代表者を最低1名有している必要がある。この者が30日を超えてベトナムを離れる場合、他の者に権限の行使及び義務の履行について書面により委任をする必要がある。
以上