ベトナムにおける事業拠点の設置

2016年4月28日

 外国資本がベトナムに新たに事業組織を組成する場合の主な形態としては、①現地法人、②外国会社の支店、③駐在員事務所、④事業協力契約(Business Cooperation Contract)の形態が考えられるが、実務上は二人以上社員有限責任会社(①の一形態)が用いられる場合が多いように思われる。以下では、複数社員有限会社の特徴とその設立手続の概要を紹介する。

 以下の記載は、主として、2014年に改正され2015年7月1日から施行されている企業法(68/2014/QH13、以下「企業法」という。)に基づいている。なお、複数社員有限会社の機関構成等に関する規律については、本ウェブサイト国際コンテンツ内の「ベトナムにおける現地法人の運営」を参照されたい。

 なお、駐在員事務所の設立については、近時の政令(07/2016/ND-CP)により活動範囲が従来と比べ限定されているため、注意が必要である。

  1. 1. 二人以上社員有限責任会社の特徴
  2.  有限責任会社とは、固有の名称・財産・営業所を有し事業を目的とする組織のうち、社員が原則として出資した額の範囲内で会社の債務及びその他の財産義務について責任を負い、その持分の譲渡が制限的な形でのみ認められている会社をいう。このうち二人以上社員有限責任会社(以下「複数社員有限会社」という。)とは、社員数が2名以上50名以下の会社をいう。複数社員有限会社の特徴の1つは、社員が出資持分を譲渡する際に、他の社員が先買権を有している点である。このため、かかる他の社員に対して、出資持分を購入する機会を与える必要がある。なお、有限会社が株式会社に形態を変更する場合のみならず、複数社員有限会社が一人有限責任会社へ形態を変更する場合にも、ベトナムの企業法(68/2014/QH13)における再編手続が必要とされているため、注意が必要である。

  3. 2. 二人以上社員有限責任会社の設立手続
  4.  ベトナムにおいては、企業登録証明書(Enterprise Registration Certificate)の取得により法的に会社が設立されたことになるが、その企業登録手続の前提として、投資プロジェクトを登録して、投資登録証明書(Investment Registration Certificate)を取得しておく必要がある。ベトナムでの会社設立の一般的な目安期間は、投資プロジェクトの内容及び会社の必要事項が確定してから会社設立の完了までで約1~2ヶ月程度である。

     以下では、複数社員有限会社の(1)投資登録証明書の取得手続、(2)企業登録証明書の取得手続の順に解説する。

  5. (1) 投資登録証明書の取得手続
  6.  投資登録証明書の取得に必要な手続は、各都市の計画投資局(DEPARTMENT OF PLANNING AND INVESTMENT: DPI)によって細かい点が異なる。以下は、ホーチミン市のDPIにおける必要書類・取得手続を紹介する。

     経済特区外において、事務所をリースして開始する親会社が株主となる一般的な案件を想定した場合、投資登録証明書の申請に際して、提出が求められている主な書類は、以下のとおりである。

     (i) 投資プロジェクトの実施申請書(原本)

     (ii) 投資プロジェクトの提案書(原本)

     (iii) 親会社の直近の財務諸表等、財務能力を証する書面(公証済みの写し)

     (iv) 上記(iii)の翻訳

     (v) 事務所の賃貸借契約書又は土地使用権を証する書面(公証済みの写し)

     (vi) 親会社の現在事項全部証明書(公証済みの写し)

     (vii) 上記(vi)の翻訳

     (viii) 新会社の法定代表者のパスポート等の身分証明書(公証済みの写し)

     ベトナムの設立手続の1つの特徴は、書類の写しを提出する場合に、原則として本国における公証が必要になる点である。そのために、他の国と比較して書類準備に時間・費用が掛かる傾向にあるため、予めスケジュールに組み込んでおく必要がある。

     また、実務的には、手続開始の際に、ホーチミン市のDPIに予約を入れて、設立担当官と設立に関する打ち合わせをしておくことが多い。かかる打合せは、法律上の義務ではないが、担当官と手続・必要書類について直接打合せをしておくことにより、必要な作業を明確にすることができる。

     申請書が受理されると、DPIから受領書が発行される。法律上は、DPIが不備のない書類を受領してから15営業日以内に、投資登録証明書が発行されると規定されている。

     複数社員有限会社の投資登録証明書の主な記載内容は、以下のとおりである。

     (i) 投資プロジェクト番号

     (ii) 投資家の名称及び住所

     (iii) 投資プロジェクトの名称

     (iv) 投資プロジェクトの実施場所、使用する土地の面積

     (v) 投資プロジェクトの目的・規模

     (vi) 投資プロジェクトの総投資額

     (vii) 投資プロジェクトの実施期間

     (viii) 投資優遇措置が付与される場合には、その内容

     (ix) 投資プロジェクト実施の条件

  7. (2) 企業登録証明書の取得
  8.  発起人は、企業登録に必要な書類を、所轄官庁に対して提出する。

     企業登録証明書の申請に必要な主な書類は以下のとおりである。

     (i) 企業登録申請書

     (ii) 定款

     (iii) 社員名簿

     (iv) (社員が自然人の場合)旅券その他の身分証明書

     (v) (社員が法人の場合)法人の設立を証する書面(外国法人の場合は、加えて書面に認証が必要)、委任状、受任者の旅券その他の身分証明書

     (vi) (外国人投資家の場合)投資登録証明書

     企業登録証明書は、企業法上は、企業登録に必要な書類を受領してから3営業日以内に発給されると定められている。複数社員有限会社の企業登録証明書の主な記載内容は、以下のとおりである。

     (i) 企業の名称

     (ii) 企業番号

     (iii) 本店所在地

     (iv) 法定代表者の氏名・住所等

     (v) 社員の名称・住所等

     企業登録証明書に記載されている(ii)企業番号は、設立に際して、企業登記システムにより付与される番号で、税務手続等において使用するが、社印を作成する際に社名とともに企業番号を刻印する必要があるため、社印の作成は、企業登録証明書を受領した後に行う。

     複数社員有限会社は、企業登録証明書の発給を受けた日から法人格を有し、原則として事業を開始することができると解されるが、各種のライセンス又は許認可が必要な事業活動を行う場合には、これらの取得が事業開始の条件となる。従って、予定している事業に関して必要となるライセンス・許認可を、弁護士等の専門家又は所轄官庁に事前に確認しておくことが重要である。

以上